ウイングマン バルーンプラス編
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1 3人だけの戦い
1.
年も明け、新学期が始まった。
健太たちのにとっては平穏な日々が続いていた。
ただ、それはあくまで敵が襲ってこない、という話であって、健太にとってはまったく平穏ではなかった。
受験が日に日に迫ってきているのだ。
夕島高校の受験まであと何日もない。
模擬試験の結果を見ても、夕島高校に受かるレベルまではまだまだ達していない。
しかし、美紅にレベルを落として、一緒に仲額高校に行こうとは言えない。
自分が頑張らなければいけないのは明白だった。
授業が終わると、健太は勉強をするために、一目散に家へ帰っていった。
「すごいね、リーダー」
猛スピードで走って帰宅する健太の姿を、桃子は呆気にとられていた。
「あれだけ頑張ってるんだから受かってほしいな……」
美紅はその頑張りを自分への愛情だと感じて、少しうれしくもあった。
「ねえ、美紅ちゃん、何か食べてこうか」
健太の後姿を見つめる美紅に桃子が声をかけた。
最近は、美紅と桃子の2人で一緒に帰ることが習慣になっていた。
健太が受験勉強に頑張り始めてから、美紅と桃子は急速に仲が親密になっていった。
今まで健太と一緒にいることが多かった美紅は、健太が勉強に集中することで急に手持無沙汰になってしまった。
そんなときに桃子が声をかけて、それから一緒に帰るようになったのだ。
2人は普通の女子中学生のように、今日の出来事などの話をしながら帰っていた。
別のクラスだったが健太の話やらセイギマンのメンバーの話など共通の知人も多く、話は盛り上がって、2人にとっては楽しい時間だった。
いつもなら一緒に途中まで帰るだけなのだが、今日は違った。
桃子は何だか気分がよかった。それを終わらせてしまうのがもったいないと思っていた。
それで美紅に寄り道を誘った。
もちろん、友人の提案を美紅が断るわけもなかった。
街に向かって話をしながら歩き始めた。
少し経ったところで、後ろから声が聞こえた。
「美紅ちゃん、桃子ちゃん!」
振り返るとそこにアオイの姿が!?
「あ、アオイさん!」
「ど、どうしたんですか?」
2人とも驚きを露わにした。声まで裏返っていた。
ちょうどアオイの話をしていたところだったのだ。別にやましいことを言っていたわけではなかったが、噂をしていた本人に声をかけられるなんて思ってもみなかった。
アオイの通う仲額高校の近くを通ることはわかっていたが、アオイに会うことは想定していなかった。
アオイからすれば、たまたま学校帰りに2人の姿を見かけたので、後を追いかけただけだった。しかし、あまりの驚かれっぷりにアオイも少しひるんでしまった。
「いや、別に……2人を見かけたから声をかけただけなんだけど……」
帰りにアオイに会ったのは、桃子も美紅も初めてではなかった。しかし、2人が一緒に帰るようになってからは初めてのことだった。
「これから桃子ちゃんとお茶しに行くんですけど、アオイさんもどうですか?」
そう言われたアオイは一瞬、考えた。
別にすぐに返事を返してもよかったが、それではすごく暇しているように思われるかもしれないと思って、すぐに返事をしなかった。
年上としては威厳が必要だ、それなりに忙しい振りをしないとカッコ悪いような……。
「そうね。今日はこの後、予定もないし。それに、この3人にケン坊がいないっていうのが新しいわね」
美紅と桃子は顔を見合わせた。
そう言われるとそうだった。
昔、修学旅行のときに健太と別行動をとったことがあったが、その時には久美子がいた。
合宿の時には桃子とアオイが一緒の時だったが、新体操部の美紅は完全に別行動だった。
正月に3人で集まったときは3人だったが、その後に健太と行動することが決まっていた。
しかし、今日は健太と会う予定はない。完全に3人だけなのだ。
「うん! じゃあ、今日はリーダー抜きで!」
そう言うと桃子も笑った。
3人はデパートの屋上に上った。
最初は喫茶店かファミリーレストランにでも行くつもりだったのだが、晴れていて、この季節にしては暖かく気持ちのいい日だったので、急遽、この場所に変更したのだ。
3人は屋上にある自動販売機でコーヒーやお茶を買って、ベンチに腰掛けた。
日曜日だったら子供向けのショーでもやってそうな簡易ステージの前にある常設のベンチだったが、平時ということもあってほとんど人が使っていない。それで3人は気兼ねなくゆったりとスペースを取って、何気ないガールズトークに花を咲かせていた。
特にアオイは自分の家のようにリラックスし過ぎ。寝そべりながら会話に参加していた。
屋上には3人の姿以外にはまだ小学生にもならないような子供を連れた親子連れが数人いるくらいだった。しかし、3人の姿を見つめる影があった。
「あれはウイングマンの仲間じゃないのか?」
2.
三人の姿を見つめていたのは地球人に姿を変えたヴィムだった。
ロングスカートに上はジャケットといういたって普通の格好で、町中で目立たないようにしたつもりだったが、肌が褐色で独特な雰囲気を出していた。
「これはなかなかおもしろいな」
そう呟くと不敵に笑った。
ヴィムは試作したバルーンプラスを使って、反発する能力のテストをできる場所を探していたところだった。
何か所かテストを行って、次のプラス怪人へのヒントが見つかりそうなタイミングだった。
そこでたまたまアオイたちの姿を見つけたのだ。
「あいつらを相手にテストすればいいデータが集められるぞ。実践での経験も得られるし」
そして右手に着けていたブレスレットから、通信を開始した。
街の空を徘徊していたバルーンプラスに合図を出した。
まだ日は高い。風もないので日向ぼっこをしながらほっこりしていた。
「なんか女の子だけっていうのもいいもんですね」
桃子は晴れ渡る空を眺めていた。
「そうだ、私、美紅ちゃんに聞きたいことがあったんだ!」
アオイが身を乗り出すようにして言った。
この3人だけだったとしてその後に健太に会う予定があったり、健太が入ってくる可能性があったりするのだが、今日はこの後、健太と会うことはない。
それなら、健太のことを気にしないで、今まで聞きたくても聞けなかったことを聞いてみようと思ったのだった。
いきなりアオイの顔が近づいてきたので、美紅は少し顔を赤らめた。
「な、なんですか?」
驚きながらも、少し警戒をした。
アオイは少し上目づかいで美紅を見つめた。
「美紅ちゃんって、恥ずかしがりやなのに、どうして新体操なんてやってるのかなあって、前々から思っていたんだよね~」
その話は昔、友だちにも聞かれたことがあった。
「新体操、好きだから」
そのときはそう答えた。
「え?」
ただ、いきなり唐突な質問で、少し言葉を詰まらせたが、今回もそう答えた。
美紅には自分の思うキャラと人から思われているキャラに多少のブレがあることはわかっていた。
「でも、レオタードとか恥ずかしくない?」
それは自分でも思っていたことだ。確かにレオタード姿は今でも恥ずかしい恰好だと思っていた。でも、それが気にならなくなるくらいに美紅にとっては魅力的なスポーツだった。
美紅は顔を赤くして頷いた。
「でも……」
言葉を続けようとしたが、すぐにアオイが話し出した。
「だよね~、やっぱり男子たちいやらしい目で見てるもんね~」
ちょっといじわるそうな顔でほほ笑んだ。
美紅はさらに顔を赤らめた。
「でも、新体操は楽しいから……」
その言葉を聞いて、桃子は目を輝かせて美紅を見た。
「そうだよね! 私もそうだよ!」
そして美紅の手を握った。
「私もセイギマンやってるの、それが理由だし!」
中学にもなってヒーローの格好をしてアクションするなんて、桃子も恥ずかしいという気持ちがないわけではなかった。
ただ、人にどんな目で見られても、やっぱり自分が好きなことをしたという気持ちが強かった。そんな2人を見てアオイも微笑ましく思った。
「だよね、人にどんな風に思われても、自分の想いが大事だよね!」
3人の話は近況報告から気になった話題など、話をしていったが、不思議とだんだん健太の話に集約されていった。
やはり3人をつないでいるのは健太なのだということを改めて実感した。
アオイは空を見上げながら言った。
「こんな日がずっと続くといいんだけどな……」
最近は敵からの攻撃もなく、地球がライエルに狙われているということを忘れてしまいそうになってしまう。
美紅も頷いて、今の平和を噛みしめていた。
「でも、リーダーは嫌なんじゃないかな、勉強漬けだからね」
桃子の言葉に3人は笑った。
しかし、和んでいられた時間もそれほど長くはなかった。
ドーン!
ステージの方から大きな音がした。
「何っ!?」
完全に気を抜いていた瞬間の出来事だった。
3人の視線がステージに集中した。
ステージには噴煙が立ち込め、何があったのかわからない。
ただ、何かが飛来してきたことは3人にもわかった。
噴煙がまっていくと、だんだんと状況がわかってきた。
コンクリートでできたステージにはひびが入っただけで、音ほどの衝撃はなかったようだ。
そのかわり見たこともない人型の物体が立っていた。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!」
黄色と青に配色されたポップな色彩のプラス怪人だった。
「ハハハハ。お前らがウイングマンの仲間か! これからショータイムの始まりだぜ!」
3人はすぐさまその言葉に反応した。
「何がショータイムよ!」
アオイは変身した。
「健坊がいないからって甘く見ないことね!」
桃子もバッジを取り出し胸に付けた。
「誰も呼んでないんだけど……」
ブツブツ言う桃子に美紅も苦笑いをしながらバッジを胸に付けた。
2人は戦闘モードに姿を変えた。
「私たちはウイングガールズ!」
アオイはバルーンプラスを指差した。
「覚悟なさい!」
そう言うが早いか、3人は目の前の怪人に向けて連続攻撃を仕掛けた。
「ハハハ、小娘ごときにやられる私ではないわ」
バルーンプラスはするすると攻撃を避けてみせた。
「ハハハハハ」
大声で笑った。その笑い声は大きく、不自然に演劇がかっていた。
その声に釣られたのか、このタイミングで屋上に何人か入ってきた。
今まで、閑散としていたことを考えるとこの増え方は異常だった。
「なんで、このタイミングでこんなに人がやってくるの?」
屋上に来たのはバルーンプラスの着地の爆音に驚いた野次馬だった。
「何だ、さっきの音は!?」
「何が起きたんだ!?」
屋上に来た彼らが見たのは、ステージの上の怪人とコスチュームを着たかわいい女の子3人が格闘している姿だった。
野次馬は完全にアクションショーにしか思えなかった。
アオイたちは少し動揺し周りに目をやった。しかし、プラス怪人を目の前にそんなことを気にしている場合ではなかった。
「そんな攻撃にやられる私ではな~いっ!」
人の入りを確認すると、バルーンプラスは大見得を切った。
その大げさな態度と言い回しが、この戦いをよけいにアクションショー然としていて、来た人に誤認させていた。
「ハハハハハ。ウイングマンがいなければ大したことはないなぁああ」
野次馬たちはこの展開に興味をそそられてしまった。
さっきの轟音をこのショーのスタートの合図だと受け取ったのだった。
「どうせ暇だし、面白そうだから見ていくか」とかなんとか。
野次馬たちはステージ前のベンチにまばらに着席し始め、観客となった。
「え~っ!?」
アオイたちは鑑賞をし始めた野次馬たちの行動に驚いた。
「アクションショーと勘違いされているみたいですね……」
桃子は客席を見渡して、冷や汗をかいた。
完全に自分たちの戦いを楽しむ気が満々だ。
しかし、アオイはもう彼らを気にすることをやめた。それほどの人数はいなかったというのもあった。それに今は自分が頑張らないといけない事態なのだ。
「そんな言ってられるのも今のうちよ! ケン坊がいないからって舐めてもらっちゃこまるわ」
しかし、思わず出た言葉は、ギャラリーを意識してしまったかのような、啖呵になってしまった。
「ケン坊って誰だ?」などと疑問を言う言葉も聞こえてきたが、ほとんどの観客は喜んだ。
「おおおおおっ!」
これから始まる物語の期待を感じたのだ。
自分の言葉に対しての反応を感じ、アオイは自分が失言したことに気づき、少し顔を赤らめた。
「アオイさ~ん!?」
美紅も困惑をしていた。
「ごめん、ついつられちゃった……」
アオイは舌を出して失敗をアピールした。
しかし、桃子は完全にその雰囲気に飲まれていた。
「私たちだけでお前なんか退治しちゃうんだからね!」
そう言うと桃子も思わずガッツポーズをしてしまった。
ギャラリーもそのポーズに応援の声を上げた。
セイギマンでステージのアクションに慣れているためか、ノリノリだった。
「客席のみんなも応援してね!」
そう言ってギャラリーに向けて手を振った。
「桃子ちゃん!? ちょ、ちょっと……」
美紅は驚いてその完成に圧倒されて少し落ち着かない。
アオイも桃子の行動に影響を受けた。
「そうだよね、この状況を楽しまなきゃ!」
そう言うとアオイも観客に向けて、ガッツポーズをした。
そして、バルーンプラスを指差した。
「こいつを今からやっつけるから、みんな応援よろしく!」
美紅も自分だけしないのもどうかと思い、恥ずかしがりながらも小さくガッツポーズをした。
ギャラリーは大盛り上がりで、その歓声に釣られて、さらに客は増えていった。
アオイはギャラリーの歓声に後押しをされて、攻撃再開の口火を切った。
ディメンションビームがバルーンプラスの胸元を狙った。
そして、桃子が矢継ぎ早にラリアートを仕掛け、美紅も慌ててはキックで続いた。
素早い動きでバルーンプラスは3人の連続攻撃を次々とかわしたのだった。
さっきの動きはまぐれではなかった。
「こいつ、結構やるわね」
アオイは一旦、2人を集めた。
「ただ攻撃するだけではダメですね」
美紅も桃子も一筋縄でいかないことはすぐにわかった。
「頑張れ~!」といったギャラリーの黄色い声援に軽く応えた。
「フォーメーション組んでいくよ!」
アオイの掛け声と共に、再び攻撃を開始した。
今度は美紅のキックから、桃子、アオイという流れ。
そして、そこからすぐに美紅が再びキックを放った。
今までの流れよりも一段階多い。
この攻撃を受けてバルーンプラスも一瞬ひるんだ。
「その調子よ!」
アオイの掛け声で、もう一度フォーメーションを仕掛けた。
しかし、今度は同じようにはいかなかった。敵も警戒していたのだ。
ギリギリのところでキックは避けられてしまった。
さらに応戦が。
バルーンプラスは美紅の胸部に向けて、反撃の一打を放った。
手のひらで気功を放つかのように押し返した。
「きゃあっ!」
吹っ飛ばされた美紅は着地に失敗し、地面に尻餅をついた。
「美紅ちゃん大丈夫?」
桃子とアオイは美紅が心配で振り返った。
その時、桃子は一瞬、美紅に違和感を感じたのだが、すぐに気のせいだ思った。
美紅はすぐに立ち上がったのだから
美紅自身も、一撃を食らった瞬間こそ痛みはあったがコスチュームがディメンションパワーで守られているで肉体的なダメージはほとんどなかった。
しかし、桃子の感じた違和感は間違いではなかった。
美紅の胸が、みるみる膨らみ始めたのだ。
「え~、なに、それ!」
桃子も美紅の胸が大きくなっていることに驚き、自分の胸を思わず触ってみた。
自分の胸の変化はなかったが、美紅に唯一勝っている自信があった自慢の胸の大きさを美紅の胸がみるみる追い抜いていった。
15歳という年齢から言っても決して大きいとは言えない美紅の胸。しかし、今は桃子やアオイの胸よりも明らかに大きくなっていた。
しかも、今も成長している。風船でも入っているかのように膨らんでいいっている。
「お、お、おおおおおおおっ!?」
ギャラリーもこの展開には大喜びだ。
平日の昼間なのに、なぜか男性が多かったというのも、この盛り上がりに拍車をかけた。
ギャラリーの視線は美紅の胸に集中した。
「美紅ちゃん、グラマーっ!?」
美紅の胸の巨大化はGカップくらいになっても止まらない。
そして……
パンっ!
いきなり破裂した。
3.
破裂音にびっくりして、再び美紅は尻餅をついた。
破裂の衝撃自体は大したことはなかった。しかし、その音の大きさは驚くには十分だった。
「な、なに……!?」
アオイも桃子もそばで鳴った大きな破裂音に衝撃を受けて、耳がツーンとした。
少しの時間、放心状態になってしまうほどだ。
しかし、それとは対照的にギャラリーは大いに盛り上がっていた。
破裂音はもちろん、ハプニングなどではなく、演出だと思っている。
そして、盛り上がりの原因はその音ではなかった。破裂した後に姿を現したものこそが、その場の盛り上がりを加速させたのだ。特に男性の。
破裂したのは胸ではなかった。
破裂音と共に粉みじんになって跡形もなくなくなったのは美紅の上半身のコスチュームだった。
当然、美紅の上半身は素っ裸、街中のデパートの屋上でトップレス状態だ。
本来の、形はよいがまだ未成熟の胸。それが青小春日和の青空の下に晒されてしまった。
しかし、自分のコスチュームが消滅してしまうなんて想像もしていなかった美紅は、すぐには今の状況に気づくことはできなかった。
破裂音とギャラリーの歓声がさらに多くのギャラリーを生み、さっきまで閑散としていたはずのこのデパートの屋上は、かなりの人で埋まってきていた。
そんなたくさんの人の前に、美紅の胸は晒されてしまったのだった。
ただ、美紅は完全に気づいていなかった。
アオイも桃子も美紅に前を出て、バルーンプラスの攻撃を警戒していた。
当然、美紅の方には目がいっていない。
この程度のダメージで戦線離脱というわけにはいかないと、美紅も一緒に戦うつもりで前に出てきた。
そこで、アオイも桃子も驚いた。
美紅が隣に並んだ瞬間に2人は、思わず2度見してしまった。
まさか、美紅の上半身が裸になっているとは思ってもみなかった。
それでギャラリーがあれだけ盛り上がっていたのかと思ったのと一瞬納得したが、そんな場合じゃなかった。
ただ、美紅をこのままにしてはおけない。
慌てて桃子が声をかけた。
「美紅ちゃん、胸、胸!」
その言葉の意味が美紅には分からなかった。
しかし、言われるがままに自分の胸を確認しみると……
「いや~ん」
まさかコスチュームが消えてなくなっているなんて思ってもみなかった。
青天の霹靂。見事に何も隠されていない。
自分の発展途上の胸が、多くの見知らぬ人たちの前に晒されていた。
美紅は慌てて両手で胸を隠して後ろに下がった。
時間にすれば30秒も経っていなかったかもしれないが、美紅の胸を人が確認するには十分な時間だった。
その様子を見たヴィムはひとつアイデアを閃いた。
「なるほど! つながった!」
そう言うと、ヴィムはバルーンプラスを戦わせたまま姿を消した。
「早く開発しないと!」
バルーンプラスは、美紅を指差して高笑いだ。
「はははは。その格好ではもう戦えまい!」
美紅はステージの隅でしゃがみ込んで、両手で胸をギュっと押さえた。そして、恥ずかしさのあまり顔を伏せた。
「いいぞぉ~! もっとやれ~!」
ギャラリーはまさかのセクシー展開に好反応だ。
アオイは慌てて、両手を広げ美紅の前に立ちはだかった。
バルーンプラスからもギャラリーの目からも同時に守ろうとするポジションをとった。
「見ないで! この娘は私が守ってみせる!」
アオイのその動きは、バルーンプラスの癇に障った。
「だったらお前も動けなくするまでよ!」
そう言うとバルーンプラスのパンチが、アオイを目がけて飛んできた。
これはピンチだ。
アオイだけなら難なく避けることができる。
しかし、今、アオイが避けると動けない美紅が後ろにいるのだ。
なんとか止めなければいけない。
アオイはその攻撃を避けながらもバルーンプラスのパンチを捕まえることでプラス怪人のあの攻撃を防げごうと考えた。
そして、バルーンプラスの見事に攻撃を避けた。
身動きのできない美紅にパンチが迫った。
そこを間一髪、アオイが脇でバルーンプラスの腕を挟んだ。
そして、完全にバルーンプラスの動きを封じた。
しかし……
バーンっ!?
アオイの考えた通りには事は運ばなかった。
捕まえた状態でアオイが攻撃に移ろうとした瞬間に、今度はアオイの胸あたりが破裂した。
「何っ!?」
いきなりの爆発に当然アオイは驚いた。
そしして、バルーンプラスの手は放してしまった。そのために反撃はできなかった。
アオイには胸に攻撃を受けた感触はなかったが、確かに自分の胸辺りで何かが破裂した。
とっさに後ろにいる美紅をかばうように、さっと身を引いたので、まったくダメージは受けてはいない。美紅のように尻餅をつくこともなかった。
しかし、このギャラリーの盛り上がりは何だ?
嫌な予感がした。
アオイは敵を気にしながらもギャラリーの方を見た。
よく見ると盛り上がっているのは男性ばかりだ。それも異常なほどの大盛り上がりだ。
その理由は――
今度は、アオイの胸のコスチュームも吹っ飛ばされていたのだ。
跡形もなくなって、大きめのバストも白日の下に晒されていた。
しかし、アオイはバルーンプラスの動向に注意していたために、自分の格好に対して気を回す余裕がなかった。
今の自分の胸の現状にはまったく気づいていなかった。
美紅の場所からはアオイの背中しか見えない。恰好に違和感こそ感じたが、胸が晒されている現状はわかっていなかった。
桃子も最初はアオイと横並びだったが、アオイが美紅を守るために一歩引いたお蔭でアオイの姿が死角になっていた。
ギャラリーの歓声が大きかったことで振り返ってみて初めて気が付いたのだった。
「アオイさん!?」
いきなり桃子から声をかけられて驚いた。
「何、桃子ちゃん?」
アオイはバルーンプラスの攻撃を警戒しながら桃子の方に目をやった。
桃子は顔を真っ赤にして、大きく手を動かしながらこう言っていた。
「アオイさん、胸、胸」
桃子の言葉に自分の胸を見ると、一瞬目を疑った。
あるはずのコスチュームのブラが跡形もなく消えていたのだ。
「え~!? なんでぇ~!?」
自分としては胸に攻撃を受けた記憶はなかった。
しかし事実として、自分の豊満な胸が無防備にも白日の下に曝け出されていた。
理由は見当もつかなかったが、とにかく慌てて胸を押さえた。
その姿を見てバルーンプラスは大爆笑だ。
ギャラリーも完全に演出だと思い込んで、アオイの胸に大盛り上がりだ。
アオイは反射的に顔を赤くして、両手で胸をギュっと押さえた。
派手に動くと乳房が零れ落ちそうになる。戦えないわけではないが恥ずかしい気持ちが勝って、躊躇してしまった。
「どうだ? そんな恰好でオレを倒せるのか?」
バルーンプラスはそう言ってはいたが、すでにその視線は完全にアオイに向いてはいなかった。
その目線の先には桃子がいた。
アオイとしても恥ずかしがっている場合ではないのだが、なかなか一歩が踏み出せない自分をよそに桃子にピンチが迫っていた。
「ははは……」
桃子もその視線を感じ完全に冷や汗をかいていた。
悪い予感がする。
気づけばステージの前はギャラリーに埋め尽くされている。
「今日は平日よ! なんでこんなに人がいるのよ~っ!?」
こんなに多くの人の前で胸を曝け出すなんて、絶対に避けたかった。
当然、恥ずかしいということもある。何と言っても、まだ花も恥じらう中学生だ。
それなら逃げればいいだけだが、自分まであんな状態になってしまっては怪人を退治する人間がいなくなってしまう。
健太が都合よくこの場に現れてくれればいいが、そうなる保証はない。それどころかその可能性がほとんどないことはよくわかっていた。
今は恐らく受験勉強の真っ最中だ。そしてこの上ないくらい集中しているはずだ。
奇跡が起きる可能性は絶望的なのだ。
ということは、つまり……
自分がなんとかするしかない!
だからと言って早計に攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
いきなり攻撃をしたところで2人の二の前になることは見えていた。
まずは自分がすることは心を落ち着かせることだ。
相手を分析して、冷静に対策を考えなければいけない。
現状、アオイの動きは完全に止まっている。
バルーンプラスの攻撃は自分を標的にしている。それは確実だろう。
それなら、と怪人の動きに注意を払いながらも、今までの行動を思い返してみた。
確かに俊敏な動きは見せている。
しかし、攻撃らしい攻撃は手から出すコスチュームを粉みじんにする不思議な力だけだった。
アオイにはヒットしていなかったが手を取り押さえた状況でコスチュームが破裂した。
それはつまり、あの手に触れることこそが危険だ。ということかもしれなかった。
それならどうする?
今まで飛び道具系の攻撃は一切見られない。
もちろんまだ出していないだけかもしれないが、あったとしてもここまで隠しているのだ、奥の手に違いない。
それを考えると、有利な状況の今のタイミングにホイホイ使うとは考えにくい。
だとするならば、今のところは飛び道具はない!
桃子はそう判断した。
それなら、怪人の手の攻撃を的確に避けさえすれば、なんとかなるかもしれない。
あとは戦う場所だ。
攻撃をするにしても、アオイと美紅が近くにいるとやりづらい。
まずは怪人をアオイと美紅から引き離そうと考えた。
「よしっ!」
桃子は気合を入れた。
ビームを一発、放って、桃子は客席に飛び出した。
この行動に、ギャラリーは盛り上がった。
みんながセクシー目当てで見に来ているわけではないのだ。
演者がステージに降りてくれば、盛り上がらないわけがなかった。
怪人もすぐさま桃子を追いかけた。
追いかける姿を確認すると桃子は小さくガッツポーズをした。
「よし!」
しかし、その先の展開は考えていなかった。
「とりあえず、私に注目を向けたはいいけど、どうしよう……」
アオイと美紅が攻撃に参加してくれればなんとかなるのだが、胸を隠しながらそんなことができるだろうか?
しかも桃子は桃子で難題もあった。
飛び出した方にはたくさんの一般人がいるのはわかっていたが、特に子供が桃子の方に寄ってくるのだ。
それでも、とりあえず敵とギャラリーの目をこちらに向ければ、アオイと美紅が攻撃を仕掛けてくれる可能性も出てくるかもしれない。自分が敵とギャラリーの注意を引きつけることで、2人が動けるはず、とも思った。
「アオイさんなら、きっと何か活路を見出してくれるかもしれない!」
桃子は観客にハイタッチをしながら花道を駆け抜けた。
そして、思惑通り、ギャラリーの目の多くが桃子の方に向けられていた。
しかし完璧ではなかった。
4.
桃子はデパートの屋上をギャラリーの見える範囲で、ステージを見ていない人の邪魔をしないように心がけて、駆け回った。
バルーンプラスは桃子の思惑通り、追いかけてきている。
しかし、美紅とアオイの2人の一挙手一投足を注目するギャラリーも少なからずいたのだった。
しかも彼らはお色気目に期待していた。
もちろん桃子にもその可能性はあったが、それよりもこぼれ落ちそうな寸前のおっぱいの方が彼らのとっては魅力的だった。
特に美紅はお尻をついてしゃがみ込んでいるので、片手で胸を隠しながら立ち上がることは難しい。立ち上がる瞬間を今か今かと待ち構えているのだった。
アオイも立ってこそはいるものの片手は胸を隠すために塞がれている。
サイズの大きな胸は、あまり派手な動きをすればポロリしてしまうかもしれないといやらしい期待を抱いている人の視覚を釘付けにするには十分だった。
アオイとしても、本当ならすぐに桃子の応援をしたいところだが、いやらしいギャラリーの視線が気になって、動けなかった。
「何で、こんなに野次馬がいるわけ? 暇なの?」
思わずぼやいてしまった。
お蔭で2人は完全に動きを封じられていた。
「ちょこまかとすばしっこいヤツだ」
桃子の動きはバルーンプラスの想定外だった。
攻撃より避けることに集中できた結果だった。
ちょこまかと動きながらディメンションビームを手から放つ。
しかも、素早い。息つく暇ない連続攻撃のようだ。しかし狙いは荒い。
怪人も素早くその攻撃を避けた。
桃子としてもなんとかダメージを与えたい一心だったが、逃げつつ、正確な攻撃というのは難易度が高かった。それに、当然、一般の人を巻き込むわけにはいかない。そこは第一優先でビームを放っているので、なかなか狙いが定まらない、というのもあった。
「それはこっちのセリフよ! 何で当たらないの!」
桃子も言葉だけは威勢がよかった。もちろん、狙いの荒い自覚はあったが、まったく当たらないっていうのは、なんか納得できなかった。
それに、これだけバルーンプラスに攻撃を避けまくられるとだんだん焦りも増してきた。
予定していたアオイたちの援護も来ない。そのことも桃子の焦りを加速させていた。
「アオイさん、早く~っ!」
そろそろ自分だけでは限界が近かった。
アオイたちの様子をチラ見してみたが、全然状況は好転していないようだった。
2人の前にはまだ、ちゃっかりギャラリーがいたのだ。
アオイも当然、桃子のことは気になってはいたが、どうにもギャラリーが邪魔だ。
「もう、なんでやらしい人がこんなにもいんのよっ?」
桃子の動きにも多少、疲れが見える。こうなってくると、敵に追い詰められるのも時間の問題に思えた。
とにかく、いつまでもこんな状態で釘付けになっているわけにはいかなかった。
その焦りからアオイはついに、しびれを切らしてしまった。
「おおっ!?」
アオイと美紅の2人に注目していたギャラリーが歓声を上げた。
アオイは両手で押さえていた胸の片手を上に掲げ、ディメンションビームを放ったのだ。
その反動でバランスを崩し、豊満な胸がこぼれ落ちそうになった。
しかし、なんとか持ちこたえた。今回はとりあえずセーフだ。
目を皿のようにして注目するギャラリーからはため息がこぼれた。
アオイはバルーンプラスを追いかけた。
そして、アオイのポロリを期待するギャラリーはアオイの後を追いかけた。それはステージ前にいたギャラリーの約半分だった。
それでも美紅の前にはまだ何人かは残っていた。
少なくなったとは言え、美紅はまだ顔を真っ赤にして立ち上がることもできなかった。
「待ちなさ~いっ!」
アオイの声が桃子の耳に届いた。
美紅はまだ戦える状態ではなかったが、それでも1人援軍が増えた今がチャンスだと桃子は考えた。
逃げるのをやめ、立ち止まるとバルーンプラスの方に振り返った。
これから反撃だ。
「これでも食らえっ!」
桃子はディメンションビームを放つと、とっさにそれを避けるため、バルーンプラスはジャンプした。
「上っ!」
大声で叫んだ桃子の声に素早く反応したアオイは、ステージ上からバルーンプラスに向けてディメンションビームを放った。
しかし、その攻撃は読まれていた。まるでビームが放たれること知っていたかのように、迷いのない避け方だった。
桃子が続けざまに放ったディメンションビームも交わしてみせた。
そして、こう言った。
「ガハハハハ。これからが本番だぜ!」
そのセリフに、ギャラリーの期待値が急上昇だ。
「うおおおおおおおっ!何をやるんだ」
5.
バルーンプラスの本気モードが発動した。
素早いフットワークを見せて桃子に近づいた。スピードが速い。その動きに桃子は慌てたが、とりあえず逃げることに集中することでなんとか避けることができた。アオイの攻撃も助けになっていた。
バルーンプラスの動きは、確かに速くなっていた。今までの動きとは比べものにはならない。
しかし、それだけだった。別に新しい攻撃が加わることはなかった。
ただ、それでも桃子には脅威となった。完全に押され気味だ。
バルーンプラスは執拗に桃子にパンチ攻撃を仕掛けてくる。
「やっぱりこいつの技はこれだけか……」
パンチしかないと言っても、これに当たるわけにはいかないのだ。パンチがコスチュームにかするだけでも消滅させられてしまう危険性がある。
そして、この素早いスピードだ。パンチしかないとわかっていても、なめるわけにはいかない。アオイが攻撃に加わってくれても、避けるのがやっとなのだ。
ただ、アオイも片手を胸で押さえながらの攻撃に慣れてきたのか、だんだんと援護の攻撃は激しくなってきた。
それにアオイ自身、集中力が高まって、ギャラリーの視線が気にならなくなってきた。
激しさを増すアオイの攻撃のお蔭で、桃子にもだんだん余裕が生まれてきた。
バルーンプラスにとってアオイの攻撃がだんだんと脅威になってきて、額から冷や汗が垂れてきた。
「やはり3人を相手にするんだったら体力温存ってわけにはいかないようだな」
そう言うと両手を広げた。
すると体中に雷のような電流が走った。
「最大出力だっ!」
まだ日が明るいから派手さはないが、派手にバチバチという音が聞こえた。
「何、ついに奥の手!?」
桃子、アオイ、美紅は、この展開を警戒した。
ギャラリーは盛り上がり、次の攻撃を期待した。
しかし――
「そんなことって!?」
アオイも桃子も驚いた。
ギャラリーも予想外の展開だった。
美紅もあっけにとられた。
バルーンプラスの最大出力は、さらに動きが速くなっただけだったのだ。
完全に肩透かしだった。
体中に走っていたあの電流は完全に見かけ倒しで、何の役にも立ってはいなかった。
ただ、確かに今までよりもさらに速くなったので、狙われる桃子からすればたまらない。
倍速の攻撃が容赦なく桃子を襲ってくるのだ。
連続で放たれるパンチを桃子は必死に避けたが、避けるのも限界があった。
攻撃の一発が、スカートに命中したのだ。
「きゃああああっ!?」
桃子は吹っ飛ばされ尻餅をついた。
ギャラリーの視線が一気に桃子に集まった。
大方の予想通り、桃子のスカートは爆発して木端微塵になっていた。
「おおおっ!」
ギャラリーの声に、思わず自分の下半身に目をやった。
スカートが消滅し、パンツが丸出しになってしまった。
当然、パンツは自前だ。こんな状況になることは想像していなかったので、桃子が履いていたのはアンダースコートのような見られてもいいパンツではなかった。
趣味全開の、熊のキャラクターのプリントされたパンツだった。
あと少しで高校生にでもなろうかというのに、こんな子供っぽいパンツをはいていることがたくさんの人に知られてしまって、パンツを見られたこと以上にとてつもなく恥ずかしかった。
もちろん、パンツを見られたことも恥ずかしい。しかしまだ、肌を晒したわけではない。
桃子には最後の砦が残っていた。
現状だけを考えれば、美紅とアオイの2人より布1枚分マシなのだ。
「もう、みんなエッチなんだからっ!」
そう言うと立ち上がって、バルーンプラスにディメンションビームを放った。
「お前は恥ずかしくないのか?」
バルーンプラスは桃子の攻撃に驚いた。反撃があるとは思っていなかったのだ。
「恥ずかしくないわけないでしょ!」
桃子は反論すると同時に、すぐさま反撃を開始した。
怪人も当然、対抗する。しかもその攻撃速度は最大出力のままだ。
アオイも援護をしたが、やはり桃子は避けるのだけでいっぱいいっぱいだった。
「あ~ん、もうなんとかしてぇ~っ!」
桃子の悲痛な叫びが屋上に響き渡った。
最終防衛ラインしか残されていないのだから、桃子が嘆くのも当然だ。
ここを突破されるわけにはいかない。
必死の攻防だったが、桃子が押されていることは明らかだった。
「お、おおおっ!」
攻めるバルーンプラス、必死で避ける桃子。
手に汗握る展開だ。2人の攻防に多くのギャラリーが一喜一憂していた。
そして、だんだんとギャラリーの視線が動きのない美紅やアオイから桃子に集まってきていた。
美紅に注目していた人もほとんどが桃子のことが気になり、美紅のまわりにいた人の数も減ってきていた。
美紅としてもこのまま恥ずかしがっているだけ、というわけにもいかないことは自覚していた。
このまま戦いの行方を桃子にだけに押し付けていいわけもない。
自分が恥ずかしがって身動きができない間、桃子は体を張って戦ってくれたのだ。
そして今も、生パンツを晒しながら戦ってくれている。
アオイも片手で胸を隠しながらディメンションビームで応戦している。
自分だけが身を隠して傍観しているわけにはいかないのだ。
不幸中の幸いとでも言うか、美紅を見ているギャラリーもずいぶんと少なくなっていた。
今がチャンスかもしれない。
立ち上がるためには片手で胸を隠しながらやるのは難しい。
もちろん不可能ではないかもしれないが、バランスを崩せば胸を露わにした上に、また一からやり直し、という事態もかなりの確率で想定される。
ここは一瞬は恥ずかしいかもしれないが素直に両手を使って短時間で立ち上がることがベストな選択に思えた。
それに、ここにいる人たちにはすでに見られているのだ。
美紅は意を決した。
「今なら!」
今まで隠していた胸から手を離した。
そして、両手の手のひらをステージにつけた。
ちょうど腕立て伏せから体を起こすように腕を伸ばすと、目の前のギャラリーに見える位置に美紅の胸の先端が顔を出した。
「おおおおおおっ!」
それを目の当たりにしたギャラリーは興奮と共に声を上げた。
しかし、その人数は少なかったために、それ以上の注目を浴びることはなかった。
少ないとは言え見られるのはもちろん恥ずかしい。
美紅は顔は真っ赤にしながらも、すくっ立ち上がってすぐに片手で胸を隠した。
胸をオープンにしてからの時間は、美紅にとってはとても長い時間に感じた。しかし、実際のところ5秒とかかっていなかった。その素早い行動は、ほとんどの人には気づかれず、バルーンプラスもその気配すら感じていなかった。
立ち上がった美紅は、すぐさまバルーンプラスに向けて、ディメンションビームを放った。
早くこの戦いを終わらせたい一心だった。
「ぎゃああああっ!?」
ノーマークだった美紅の攻撃は見事に命中した。
バルーンプラスは背中に衝撃を受け、そのまま吹っ飛ばされた。
そのダメージでバルーンプラスの動きが一瞬止まった。
「お、お!?」
アオイは驚いた。今までの敵よりもダメージを受けているように感じた。
動きの素早さばかりに目がいっていたが、この怪人は意外に耐久性はないのかもしれないと考えた。
「こいつ、もしかして弱いの?」
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