夕鶴
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2部分:第二章
第二章
「つうさんですよね」
「はい」
よひょうの言葉に頷きます。
「お客さんにそんな気遣いはさせませんよ。ですから」
「いえ、それでも」
つうも引きません。あくまでといった感じでよひょうに言葉を返します。
「御願いします。是非」
「是非ですか」
「どうしても。いけませんか」
「いえ」
そこまで言うのなら。元来気の優しいよひょうはそれに頷きました。それで納得したのです。
「そこまで仰るのなら」
「有り難うございます。では今晩」
「今晩ですか」
「はい、今晩織ります」
こう言うのでした。
「お部屋をお一つお借りしますので」
「わかりました。では」
「ただ」
ここでつうは言葉を付け加えてきました。
「何ですか?」
「一つだけ御願いがあるのです」
こうよひょうに告げます。
「一つだけ。宜しいでしょうか」
「それは一体」
「機を織っている間。覗かないで下さい」
「夜の間ですか」
「そうです。いけませんか」
「約束させて下さい」
これがよひょうの返事でした。
「絶対覗かないです。絶対にですか」
「約束して下さいますね」
「はい、絶対に」
優しい微笑みを浮かべて頷きます。こうして夜の間につうは機を織ることになりました。よひょうはその間隣の部屋で布団にくるまっています。そのまま眠るのですがその彼の耳につうが機を織る音が聞こえてきます。
かったんかったん
「織ってくれているんだな」
そう思いまた寝ようとしたその時。障子の向こうの影が見えました。それは。
「・・・・・・そうだったんだ」
よひょうはわかったのですがそれで目を閉じました。そのまま眠りにまた入り朝起きてみると。目の前にはつうが座っておりその手には奇麗な反物がありました。
「これをどうぞ」
「反物ですか」
「はい、これを売れば幾らかのお金になると思います」
静かに微笑んでの言葉でした。
「ですから。どうぞ」
「有り難うございます」
よひょうは布団から起き上がりました。そのうえでつうに対して深々と頭を下げてお礼を言うのでした。彼はにこにこと笑っていました。
「それでは有り難く」
「はい」
「それでつうさん」
ここでよひょうはつうに尋ねるのでした。
「何でしょうか」
「暫く雪が続けばどうされますか」
「どうされるといいますと」
「ええ。その間のことですが」
穏やかな笑みのままでつうに述べるのでした。
「よかったらその間こちらで泊まっていかれては」
「昨日だけでなく」
「その様な水臭いことは申しません」
こう彼女に告げます。
「ですから」
「宜しいのですか?」
「はい」
頷いてもみせました。
「つうさんが宜しければですが」
「それでは。暫くの間」
「はい、暫くの間」
二人は言葉を重ねます。自然と心もそれに重なっていっていたのですがまだその自覚はありませんでした。それでもお互いに言い合うのでした。
「御願いします」
「こちらこそ」
こうして雪が止むまでの間よひょうの家に留まったのですがそれが次第に長くなり気付いた時には。二人は夫婦になって静かに、ですが幸せに暮らしだしたのでした。このことはすぐに村中の評判になりました。
「あのよひょうが遂にか」
「しかもあんな奇麗なかみさんをな」
皆羨ましいなり嬉しいなりでした。よひょうのことは皆知っていましたので心から祝ってくれています。よひょうはそのことに気持ちをよくしていてつうといつも仲良く暮らしていました。つうはそんなよひょうと一緒に畑仕事をしたり彼に蕎麦掻を作って食べさせてあげたりして。時には機を織ってそれで反物を作ってあげたりしていました。この反物がまたえらく評判だったのです。
「つうさんはな」
「全くだ」
村の人達は口々に言います。
「こんな反物を織れる人なんていないよ」
「どうしたものだか」
「いや、つうは凄いだろう」
よひょうも自分のことではないのに皆にほくほくとした顔で自慢しています。
「こんな反物を織れるのは他にはいないだろ」
「それ、高く売れるだろう」
「まあな」
よひょうはあまりお金は欲しがらないのですがそれでもつうの反物が評判になるのは嬉しいのです。そのことを素直に喜んでいたのです。
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