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変革者

作者:雨の日
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第六話

第六話

「さて、次はそろそろ実戦的な練習だ。ってもめんどくさいからひたすら模擬戦闘だ。対戦相手は次までに揃えとくから、まぁ期待しとけ」

「おう!それじゃまた明日お願いします雨さん!」

午前中で水風船は合格をもらえたので、午後はフリーとなった雄太
案の定、やる事はない

と、そこに

「よう新人。調子はどうだ?」

曇りの日だ
黒のタンクトップを着て、額から汗を流しまだ昼だと言うのにビールを片手にしていた

「調子、は好調ですけど、雨さんの教え方が放置過ぎてキツイデス・・・」

「仕方ない。雨さんはここで一番の適当さを誇っているからな。だが、雨さんのとこの門下生は成績優秀の精鋭揃いだ」

なんだかにわかには信じられないが、曇りの日が嘘をつくとも思えないし、つく必要性もないだろう

「曇りさんは雨さんの門下生ですか?」

「ん?あぁ。あの人より俺は年上だが変革者としては年下だからな。お前さんのおやじもな」

この時雄太は、あの雨さんからここまでしっかりとした人格者が巣立つことに心底驚いていた
あれだけいい加減に放置プレイされたら嫌になって投げだすだろう
実際雄太も何度かやめようとしたが、その度に雨の日に妨害されて止められなかった

「今の訓練内容はなんだ?」

「いまの修行は、とりあえず力の使い方身に付けたんで、明日から実戦形式らしいですね~」

「お、中々順調じゃないか。でもな、その訓練にクリアするのは骨が折れるぞ?比喩じゃなくホントに、だ」

骨が折れる程の訓練
その響きが少し雄太の体をこわばらせる

「ど、どんな内容なんですか?」

「それは明日のお楽しみだ。と、暇なら俺の実戦相手でもやるか?明日の予行を兼ねて、な」

せっかくのお誘いを断るわけもなく二つ返事でOKした
もちろん、実戦なんて初めてだし、熱で怪我させたら、と考えると怖くもなったが、それを克服するのも修行に付きものだと割り切った



「さて、実戦は初めてだろうしルールの説明だ」

「はい!ぜひ詳しくお願いします!」

「雨さんと違って俺は1から説明派だから安心しろ。まず、ルール1、殺傷の危険がある力は無し。もちろん、加減してれば問題ない。ルール2、どちらかが降参するまで続ける。ルール3、これが一番大切だ。お互いの制約破壊はしないこと。なぜだかわかるか?」

制約破壊、と言う単語自体初耳の雄太は首を横に振る

「制約ってのはな、制約を払わなきゃ使えないんじゃなく、払わなきゃ死ぬんだ」

「それは・・・?」

「つまり、お前は銃なしでも熱を使える。が、制約を払わなければ、体は消滅する。その後の事は誰にもわからん・・」

雄太は背筋に悪寒が走ったのを強く感じた
だが、それと同時に、もしほんとの殺しあいになれば相手の制約を破壊すればいいのだとも理解する

「そろそろ始めるぞ?構えろ」

構えろ、と言われても雄太はまだ自分の構えを持っていないのでてきとうに銃口を曇りの日に向けた

「Figntっ」

曇りの日の背後から真っ黄色の煙が大量に溢れ出てきた
その一つ一つからは、いかにもな匂が漂う

「煙って熱で溶けんのか!?」

半信半疑、せめてもの抵抗として煙に熱線を放つが、案の定大して効果は見られない

「ほらどうした?来ないのか?」

「え、えぇと・・・既にお手上げなんですが・・」

「む。流石にそれは戦闘の勘が無さ過ぎるぞ?」

そんなことを言われても、と言い返したかったが曇りの日の口調からしてなにかしら突破口があるのだろう
その事に気付き考え始めた雄太、だが

「棒立ちはやめておけ。せめて立ちまわりながら、だな」

声が脳内で理解できるとほぼ同時に煙が雄太を襲った
お世辞にも回避とは言い難い回転で何とか直撃は免れる
雄太の居た場所は黄色の煙の影響か、じゅわじゅわと音を立てて溶けていた

「げ・・・酸ですか・・」

「そう。酸性の強い煙だ。さぁ、次の攻撃行くぞ?」

雄太は走りだして、煙の直撃をかわしながら考えた
もちろん熱線を曇りの日に当てれば致命傷とまでは行かなくてもかなり痛手を与えてしまうだろう
しかし曇りの日は容赦がない
この違いから、両者の力の差は歴然。曇りの日はしっかりと自分の力をセーブしているのだろう

「くそっ・・!?足場がぼこぼこしてきやがった!」

「どうだ?打開策は出たか?」

余裕そう、いや実際に余裕な曇りの日は半ば笑い気味で次々と雄太の廻りの床を溶かしていく

「あ!・・・一か八かでやるかっ!」

雄太はポケットに入れてあった水風船ののこりに息を吹き込み、膨らませた

「・・・?」

曇りの日の動きが一瞬止まる
その瞬間を雄太は見逃さなかった

「そりゃっ!」

中身が空気だけとあって、全力で投げたにもかかわらず風船はゆったりと飛んでいく
曇りの日は何のためらいもなく、ふわふわ飛ぶ風船目掛けて煙を操る
しかし、それこそ雄太の狙いだった

「・・・イメージ!!」

「な!?そういうことか!」

慌てて煙をのけようとした曇りの日だったが、雄太の方がワンテンポ速い

銃口を風船に向けて、引き金を引く
頭の中で、風船の中の空気だけを熱するようイメージしながら
と・・・・
一瞬で加熱された空気は膨張し、風船を限界まで引き延ばし、そしてはじけ飛ぶ
その際に生まれた風圧が、曇りの日の煙を大きく吹き飛ばした
するとどうなるか
雄太から曇りの日までの間を遮る障害物は何もなくなるのだ
その瞬間雄太は駈け出し、曇りの日の煙が雄太の元へ辿りつくより早く、曇りの日の元へ駆けより、銃口を曇りの日の胸に押し当てた

「はぁ・・はぁっ・・・」

「・・・良く思いついた。これなら俺の煙をよそにやれるな」

「ふぅ・・・っ。ほんと一か八かでしたけどね・・・」

額から汗がにじむ

「でもな、新人。俺は煙を一度に一種類しか操れないなんて言ってないからな?」

「え?!」

直ぐに振り返ると、そこにはおおよそ煙とは呼びがたい、ほぼ金属の様な光沢を放つ煙が、雄太の首筋に刃を向けていた

「・・・・降参です」

「ふ。初戦にしては良い動きだったぞ。だが、敵の懐へ飛び出すのはまだ早いな」

「そう・・・デスヨネー・・・」

「おっと、もうこんな時間か。ちょうど切りもいいな。では、俺は会議に出なきゃならんのでな。明日からがんばれよ?きついだろうが、な」

それだけ言うと曇りの日は何事も無かったかのように涼しい顔でその場を立ち去った
しかし雄太は息切れでその場に倒れこむ
この時少しでも勝てたと思った自分を、殴れるのなら殴りたかったと後に雄太は語ったのだった

 
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