真田十勇士
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巻ノ十三 豆腐屋の娘その三
「銭で済むかと言って娘殿を連れて行こうとする」
「そうした者もおるな」
「あの者達はそれはありませんでした」
「銭さえ貰えればでした」
「それならよいな」
「まことに」
「それで娘御」
猿飛が娘に声をかけた。
「御主何故売られそうになっておった」
「私のことですか」
「うむ、家が困っておるのか」
こう問うたのである、娘に。
「それでか」
「はい、実は今は母が病に倒れ」
娘は猿飛に答えて家の事情を話した。
「そのせいで」
「銭がなくか」
「私が」
「そうか、難儀な話であるな」
「父は反対していましたが」
「お父上は如何致しておる」
霧隠は彼女の父のことを問うた。
「一体」
「店をやっています」
「店をか」
「豆腐を作っています」
「ほう、豆腐をか」
「ですがそれだけでは足りず」
銭がというのだ。
「それで」
「そうした事情か」
「では母君の病が癒えぬ限りまたこうしたことが起こるな」
根津は難しい顔で述べた。
「そうなるな」
「うむ、母君を診せてもらえぬか」
筧が娘に言って来た。
「そうしてくれるか」
「母をですか」
「うむ、治る病かどうかな」
それをというのだ。
「さすれば薬もどうにかなるやも知れぬ」
「こ奴は薬のことにも長けておるのじゃ」
望月はその筧を親指で指し示しつつ娘に話した。
「だからな」
「では診て頂けますか」
「うむ、そうしてくれるか」
「わかりました、それでは」
娘も頷いてだ、そのうえで。
右京の中にある一軒の豆腐屋、結構賑わっているその店の裏にだ。幸村達を案内した。途中表を見たが。
海野はその賑わいを見てだ、こう言った。
「店はは繁盛しておるな」
「父と兄が豆腐を作っていますが」
「お二人の腕はか」
「都でも評判なので」
それで、というのだ。
「賑わっています」
「それでもか」
「はい、母の病は重く」
それでというのだ。
「薬代はとても賄えないので」
「それでか」
「私が考えたのです」
「自分を売ってか」
「そして金を作ろうと」
「親孝行ではあるがじゃ」
それでもとだ、清海が娘の話を聞いて難しい顔で言った。
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