路地裏
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3部分:第三章
第三章
そのカードを全部広いました。二人で半分ずつ分けました。
明人はここで、です。春音に対して言いました。
「好きなカード全部あげるよ」
「全部なの?」
「半分こだけれどね。好きなカードは全部言って」
こう妹に顔を向けて言うのでした。
「全部あげるから」
「いいの?お兄ちゃんだって欲しいカード一杯あるのに」
「それは御前だって同じじゃない」
にこりと笑ってこう言うのでした。
「それは一緒じゃないか」
「一緒なの」
「だからさ。好きなカードを言って。ただし数は半分こだよ」
「うん、じゃあ」
お兄さんのその言葉に頷いてです。そうしてカードを選びます。けれどそれは途中で終わったのです。
明人はそれを見てです。目を少し丸くさせて妹に尋ねました。
「まだ半分いってないじゃない」
「けれど欲しいカードは全部貰ったから」
こう言うのでした。
「だからもういいの」
「いいの」
「そう、後は全部お兄ちゃんが持って」
お兄さんへの言葉です。
「それで御願い」
「後は僕が全部持っていいの」
「そう、いいから」
また言うのでした。
「だって欲しいカードは全部貰ったから」
「そう、だったら」
明人もにこりと笑って春音の言葉に頷きました。そうしたのです。
こうして拾ったカードを分け合ってです。さらに先に進みます。そしていよいよ出口でした。
「もうすぐだよ」
「公園に出られるのね」
「そうだよ、ほら、明かりが見えてきたよね」
「うん」
見ればその通りです。先が出口みたいになって明るい光が差し込んでいます。少し暗い道からそこに出られるのはその光を見てすぐにわかったのです。
「じゃあもうすぐ公園ね」
「そこを出たらすぐだよ」
明人は妹に顔を向けて言いました。
「もうすぐだよ」
「もうすぐなの」
「何か一杯いいものが手に入ったけれどね」
「そうよね。こんなにいいことがあるなんて」
「よかったよ。ただ」
「ただ?」
春音はお兄さんの言葉の調子が変わったことに気付きました。
「どうしたの?お兄ちゃん」
「うん、最後も何かあったらいいなって思ってね」
こう春音に対して言うのでした。
「何かね。あったらいいよね」
「そうよね。何かあれば」
「面白いよね」
「そうだよね」
そう話をするのでした。そしてその出口の傍に来るとです。
まずは右の壁の上に一匹、そして左の壁に二匹でした。
電柱の傍にもいますし二人の足元にもです。何匹もいました。
「あっ、猫ちゃん達よ」
「そうだね」
二人で話すのでした。
「何か一杯いるし」
「見て、この黒い猫ちゃん」
春音は自分の足元でごろごろと寝転がってお腹を見せている黒猫のところにしゃがみ込みました。そしてそのうえでその身体を撫でて言うのでした。
「凄く可愛いわよ」
「こっちのシャム猫は奇麗だしね」
シャム猫は壁の上にいました。そこから二人を見下ろしています。明人はそのシャム猫を見ているのです。
「まさかここに集まってるなんて」
「最後の最後まで。楽しかったわね」
「うん、こんなこともあるんだね」
明人は明るい言葉で言いました。
「本当にね」
「ねえお兄ちゃん」
春音は相変わらず猫を撫でています。
「またこの道。入る?」
「どうかな。一回だからいいんじゃないかな」
「一回だからなの」
「ビー球とかカードとか滅多に手に入らないよ」
こう妹に話すのです。明人も足元にいる子猫の頭を撫でています。
「たまたまだろうし」
「たまたまなの」
「うん、けれど楽しかったね」
このことはしっかりと言うのでした。
「とてもね。楽しかったよね」
「うん、とてもね」
春音はにこやかに笑って答えました。
「私こんな楽しかったこと久し振りよ」
「けれどもっと楽しくなることも出来るよ」
「もっとなの?」
「皆のいる公園に行こう」
妹をこう言って誘うのでした。
「公園にね」
「うん、じゃあ」
二人は猫達の見送りを受けて公園に向かいました。何気に入ったその路地裏で思わぬ冒険をしてそのことに満足しながら。明るい公園に入るのでした。
路地裏 完
2010・5・4
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