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真田十勇士

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巻ノ十一 猿飛佐助その九

「それよりも退いて」
「降った方がましでござる」
「戦って下手に死ぬよりは」
「大抵はそう考えまするな」
「そういうことじゃ、戦の真髄は戦わずに勝つこと」
 まさにそれだとだ、幸村は言い切った。
「それが最良なのじゃ」
「ですか、戦になる前にですか」
「戦に勝つことですか」
「相手に戦う前に頭を下げさせる」
「それが最善なのですな」
「そうじゃ、戦は常に勝つとも限らぬ」
 戦の場でのそれもというのだ。
「負ける場合もある、桶狭間を見るのじゃ」
「あの織田家が今川家を破った」
「あの戦ですか」
「あの戦は今川が圧倒的に優勢じゃった」
 二万五千の軍勢で尾張に攻め込んだ、しかし二千の織田軍の奇襲を受けてそれで敗れ主の今川義元が討たれた戦である。
「しかし負けたな」
「はい、主まで討たれてしまい」
「以後今川家は落ちる一方でした」
「例えどれだけ有利な状況でもですか」
「敗れることはありますか」
「勝敗は戦の常、どれだけ兵の数が多くとも敗れることはある」
 それが戦いだというのだ。
「だからじゃ。戦の場で戦うよりもな」
「政の場においてですか」
「戦う前に勝つこと」
「そのことがですか」
「大事ですか」
「そうなのじゃ、しかも戦になれば人は死ぬし飯も食うし銭もかかる」
 こうしたこともだ、幸村は話した。
「何度もしていては家がもたぬわ」
「そうしたことからもですか」
「戦の場での戦はせぬに限りますか」
「そういうものなのですな」
「それが戦なのですな」
「そうじゃ、拙者は戦いは好まぬ」
 幸村ははっきりと言い切った。
「泰平が好きじゃ」
「戦で暴れるのではなく」
「殿は泰平がお好きですか」
「何、暴れることには困らぬぞ」
 二人にだ、穴山が横から話した。
「賊の征伐なり何なりあるからのう」
「それに手合わせしてもよいであろう」
 望月も二人に言う。
「身体を使うには困らぬぞ」
「そうか、賊の征伐もあり」
「我等で鍛錬として手合わせをすればいいか」
「そうじゃな」
「戦にならずともよいな」
 こうしたことを話してだ、猿飛と清海も納得した。
 そしてだ、猿飛は幸村にあらためて話した。
「それがし戦になれば暴れますが」
「鍛錬の時もじゃな」
「それ以外の時は殿に教えて頂きたいです」
「泰平のことをか」
「はい、確かに暴れたくて殿にお仕えしましたが」
 それでもだというのだ。
「何かその泰平が気になりまして」
「それでじゃな」
「泰平のことを教えて頂きたいです」
「わかった、ではな」
「宜しくお願いします」
 こう幸村に頭を垂れて話すのだった。
 そしてだった、一行は山城の国に入ろうとしていた。だが。
 その一行を遠目に見つつだ、あの南蛮の派手な格好をしていた男がだ。周りに潜んでいる黒い忍装束の者達に言った。 
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