DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~
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Chapter1「暮海探偵事務所へようこそ」
Story5:あの戦いを見ていた者達
前書き
はい、五日もかかってしまいましたが、五話目です。
前回も予告した通り、今回はこっちを更新。またも一万文字越えで、作者は久々にホクホクしています(笑)
今回は主人公の新たな仲間の登場です。
地面に足がつく感覚がする。視界も白から他の色を取り戻し始め、景色がよくなっていく。
しっかりと見えたそこには、正方形のデータでできたキューブが散乱していた。そこは確かに、EDENのクーロンの光景だった。
「着いた…のか…」
そう呟き、周りを見渡す。どうやらこの先が、先刻白峰達と出会った場所のようだ。後ろにはログアウトゾーンもあるな。
さて、どう行こう。このまま進んだところで、もしかしたらあの時の“壁”が残っているかもしれない。そうなればそこ止まりになってしまう訳なのだが…どうすっかぁ……
「―――お~~いッ! タクミ~~!」
「ん? ……あれは…!」
その時、何処からか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。何処からだ? と辺りを見渡してみると、少し離れたキューブの上で小さい手を振る影があった。
俺はそれを見て、思わず嬉しくなってしまい、大声を張り上げる。
「テリアモンッ!!」
「今そっち行くからね~! そこで待ってて~!」
大手を振って嬉しそうに叫ぶテリアモン。しかしテリアモンがいる場所から俺のところまで、かなりの距離がある。どうするつもりだろう、まさかこの距離を飛んでくるつもりじゃあ……
と思っていると、テリアモンがいる場所から何やら紐が伸びて、上の方のキューブに張り付いた。いや紐っていうより、糸かもしれないな。
で、テリアモンはその糸掴んで…あれ、なんかちょっと大きくなった? いやそんな事より近づいて……
「タ~クミ~~ッ!」
「オブォッツ!?」
どうやらテリアモンはさっきの糸を掴んでターザンやったらしい。それが見事俺の顔に到着し、受け止めきれなかった俺はそのまま後ろへ転倒。受け身は取れたが後頭部を打ってしまった。これが意外に痛い。
しかし何だろう、何故かこの間よりも重い気がする。さっき変に大きくなっているようにも見えたし、何かあったのか?
まぁ取りあえず……
「重いから離れろ!」
「わ~ッ!」
顔に張り付いて頬をすりすりしてくるテリアモンをはがし、叫ぶ。テリアモンはそれでも楽しそうに両手両足をばたつかせていた。まったく…ほんと可愛いなおい。
そのときようやく気づいた。テリアモンの身体―――というより耳に、別のデジモンが二体くっついていることに。
「きゃはは、だいせーこー!」
「だ、大丈夫!? 頭打ったように見えたけど…」
「紹介するね、この人が僕のパートナーのたく―――って、タクミが青くなってる!?」
「今気づくのか!?」
ならどうして俺だってわかったんだ?
「う~~ん…匂いとか?」
「電脳空間で匂いとかあるのか?」
まぁ取りあえず、それは置いといたとして…問題は……
「その子達は、どなた?」
「あ、うん! タクミが居なくなってから出会ったの! チビモンと…」
「オッス!」
「ミノモン!」
「こ、こんにちは…」
うん、それはわかる。だって知ってたもん。
でも俺が聞きたかったのは、そういうことではなくって…
「なんで一緒にいたの?」
「なんかね、僕達の戦いを見てたらしくて、一緒に居させて欲しいって」
「…ってことはつまり」
「仲間にしてほしいんだ!」
俺の言葉を奪う様に、チビモンが叫んだ。やっぱりか…
「俺は二人の戦い方を見て、これなら俺も強くなれるって思ったんだ!」
「強く、か……」
チビモンが元気よく跳ねる。それを落ち着かせようとする、ミノモン。中々のコンビに見えるのは、俺だけだろうか?
強く、強くか……
「…そうだな、俺も知りたいな」
「「…?」」
「君達がどんな風に強くなるのか、どんな強さを手に入れるか。見てみたくなった。それに…俺も強さってものがなんなのか、知りたくなった」
俺がそう言うと、二人ともポカンとした表情で見上げてくる。……あぁ、ちょっと難しかったかな。
「行こう、一緒に。強さの答えを探しに、さ」
「じゃあ…!」
「あぁ、居ていいよ」
「よっしゃぁ! それじゃあこれからよろしく!」
「よ、よろしくお願いします…」
「あぁ、よろしくな」
そう言って笑顔を見せると、二人は喜んでハイタッチした。テリアモンも「よろしく~」と言って両耳で握手をする。
「さて…取りあえず俺は今、この身体をどうにかしようとしてるんだが…先に進もうか」
「おう! それじゃあ行こうぜ!」
先行して歩き始めるチビモン。結構せっかちなんだな、ミノモンは俺が先に行くんじゃないの? 的な顔で俺とチビモンを交互に見てくるし。
まぁ急いでいる訳でもないが、取りあえず行こうか。そう思ってテリアモンとミノモンを引きつれ、チビモンを追いかけた。
進むこと数分。やはりと言うべきか、あの時の壁が残ったままだった。
「行き止まりじゃん!」
「まぁそう急かすなよ、チビモン」
「のんびりいこうよ」
そう言うテリアモンは、一旦俺の頭から降りて欲しいんだけど…
しかしこの壁、よく見ると「FIRE WALL」って書かれてあるな。“ファイアウォール”……本来は外部からの不正なアクセスから、コンピューターなどを守るシステムの筈なんだが…さてどうすっか。
この壁をどうすれば突破できるか思案していると、デジヴァイスに通信が入った。
『やれやれ、ようやく通じたな』
「暮海さん。どうしたんですか?」
『どうしたもこうしたもない。キミの追跡情報をロストして、再検索していたんだ…今度はどこに迷い込んでいたんだ?』
通信相手は暮海さんだった。どうやら先程御神楽さんのところにいたとき、見失ってしまっていたようだ。
取りあえず、先程御神楽さんのデジラボのところにいた時の事を、一通り説明した。
『―――そうか、御神楽ミレイに会ったか』
「? 暮海さん、御神楽さんを知っているんですか?」
『少しばかり、な。それにしても、自然の成り行きの中で、彼女にまで出会うとは…まったく騒々しいな、キミの“運命”とやらは』
「はぁ……」
運命か…なんかそう言われても釈然としな―――ちょっと暴れないの、っていうか勝手に肩に乗って画面覗かないの!
『さてと…ともかく、本来の目的を遂行するとしよう。まずは、そのファイアウォールを突破する必要があるな』
「でも、どうやって…」
『簡単な話だ、ハッキングすればいい』
「ハッキング…? あ、そっか…!」
暮海さんに言われ、デジヴァイスに触れて操作する。…やっぱり、あった。これだな、御神楽さんのくれたハッキングスキルは。
で、後は…うん、ウォールクラック。ファイアウォールを突破する為のハッキングスキルだ。使用もできる。
そして壁に向けて手を翳し、ウォールクラックを選択して使用。黄色い壁はどんどんと崩れていき、やがて消えていった。
「そうか…ハッキングもこんな風に使えばいいのか」
『ふむ、流石に飲み込みは早いな』
「ありがとうございます。で、次は…」
『あぁ、こちらでクーロンの入り口一帯をスキャンして、めぼしいジャンクデータにマーキングをしておいた。ジャンクデータが、キミの身体のパーツになる。探し出して、直接取得するんだ』
「はい、わかりました」
『しかしなにぶん即席の仕事だ、いささか精度を欠くかもしれないが、そこはキミの足と能力でカバーしてくれ。自分の身体を正常な状態に戻す為の、貴重な一歩だからな。気を引き締めて事に当たりたまえ』
「は、はい…」
『…そんなに気を張ることもない。身体のパーツを探すといっても、48体の妖怪を倒すような苦行ではないさ。常に気張っていても、疲れるだけだぞ。
応急的な措置とはいえ、正常な姿を取り戻したキミに会えるのを楽しみにしているよ』
暮海さんはそう言うと、通信を切った。
確かに、暮海さんの言う通りだ。あまり気を張っていても、いい事はない。締める時に締めればいい。
「さて、行こうか皆」
「おう!」
「お、おぅ…」
「もーまんたーい!」
そうして、俺達は暮海さんがしてくれたマーキングを元に、この身体(アバター)の一部(パーツ)を探し始め、順調に集めていった。
……その間は何があったって? そんな目立ったこともなかったから、言わないんだよ。
そして最後の一つを見つけ、アバターパーツを全て回収することができた。
それによって、俺の姿は青色のデータ怪人から一転、いつもの人間としての姿に戻った。
「タクミ~! 元の姿に戻った~!」
「こらテリアモン、あまりはしゃぐなよ」
俺が元の姿形に戻ったのが余程嬉しかったのか、途端に胸へ飛び込んでくるテリアモン。その後すぐに頭に乗っかり、だらんとだらしない表情を浮かべて寛いだ。いや、勝手に人の頭の上で寛がないでくれないかな。
それに根本的な問題が解決した訳じゃない。見た目が元の人間のように戻っただけで、身体が異常な状態になっているのは変わりないのだから。
すると、回収したのを見計らってなのか、暮海さんが通信をしてきた。
『ふむ、見た目だけは正常に戻ったようだな…』
「でも根本的な解決には…」
『まぁ、それでも大きな前進にはなっただろう。目的は達した、一度事務所に戻ってきたまえ』
「わかりました。―――って、普通にログアウトして大丈夫でしょうか?」
『そうだな…事務所の端末から入ったのだから、そこから出てくるのが道理であると推測するが……正直なところ、何が起こるかやってみないとわからないからな』
「そうですね…」
『まぁ、仮にデータがネットワーク中に散ってしまうような事態になっても、可能な限りサルベージしてあげよう』
「や、止めてくださいよそんな不吉な考えするの!」
俺が慌てて叫ぶと、彼女は「冗談だよ…半分は」と物凄く怖いことを言って、そのまま通信を切ってしまった。
さてと…普通にログアウトするとなると、ログアウトゾーンに行かなければならないが……
そう言えばここ、あの“黒い化け物”と出会った場所だな。ちょっと不吉、またあんなのが出なければいいが……
そうだ、ここにはあの時アラタが開けてくれた出口(ログアウトゾーン)があった筈。そこから出られれば…!
と思ったのだが、流石に古いログアウトゾーンだったからか、もう動きそうにもなかった。仕方ないな、来たところまで戻るとするか。
―――そう思った、矢先だった。
「“スピットファイア”!」
「ッ! おわっ!?」
無数の炎の玉が、俺の足元目がけて飛来して来た。
俺は思わず横へ飛び、その炎を辛うじて避ける。あまりの急な出来事に、テリアモン達は慌てて俺の下へ駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫タクミ!?」
「あぁ、なんとか。しかし一体誰が…」
「―――よく今のを避けたな」
今の攻撃の元を探ろうと周りを見渡していると、俺達の数メートル先に何かが降り立った。
その降り立った何かは、ゆっくりと立ち上がって俺達を睨みつけていた。しかも一体じゃない、二体いる……デジモンだ。
「やいやい! 急に攻撃してくるなんて、なんのつもりだ!?」
いきなり現れた二体のデジモンに対して、こちらもいきなり啖呵を切り始めるチビモン。お前、急に偉くなったな。
「なんのつもりかだって? そんなの……」
「戦うつもりに決まってるだろ!」
しかし二体のデジモン―――黒い“アグモン”と黒い“ガブモン”はそう言い放ち、するどいツメを立てて襲い掛かってきた。
いきなりの事で戸惑うチビモン、少し動きが遅れてしまう。このままだと、もろに攻撃を受けてしまう!
そう判断した俺はすぐにチビモンをミノモンと共に両脇に抱え、テリアモンを頭に乗せたまま避けた。
「あ、危なかった…!」
「自分から担架切っておいて、ダサいぞ」
「う、うるさいやい!」
さてと、どうやら奴さんは話も聞いてくれないみたいだな。彼らの言う通り、戦うしかないようだ。
「テリアモンはアグモンの方を、チビモンとミノモンでガブモンを頼む」
「お、おう…」
「で、できるかな……」
「今まで二人でいたんだろ? 心配するな、俺も指示を出すしな」
その代り、テリアモンの方が少しお留守になってしまうが……
「大丈夫、なんとかしてみるよ」
「相変わらず、頼もしいな」
「話し合いは終わったか?」
しびれを切らしてか、黒いアグモンが爪を構えた。
随分とせっかちのようだな、そんなんじゃモテないぞ~。……って、それは人に対してだけか?
「行くぞガブモン!」
「おう!」
彼らはそう声を掛け合い、こちらに向かって走ってくる。
「さ、こちらも行こうか。頼むぞ、皆!」
「「「うん(おう)(う、うん…)!」」」
テリアモン達は俺の声に応え、先程の指示通りに二手に分かれて対応する。
「この!」
「ハッ!」
アグモンはやってきたテリアモンに向けて、爪を振り抜く。しかしテリアモンはそれを避け、アグモンの肩に両耳を置いて、跳び箱の要領で飛び越えた。
すぐさま振り返り、爪を構えなおす。テリアモンも空中でアグモンに向き直り、次の攻撃に備えていた。
「だぁぁ!」
「ハッ!」
再び爪を振り上げ、テリアモンに迫る。しかしテリアモンはその攻撃を右の耳を器用に使い、自分の左側へ受け流した。
そしてまだ使っていない左の耳を、アグモンの顔目がけて振り抜いた。
見事に耳がアグモンの横っ面に命中、しかしアグモンは動じることなく、再び爪を振り抜いた。
少しは効くと思っていたテリアモンは、慌てて後ろへ飛ぶが、それでもアグモンの攻撃が一歩早く、テリアモンの腹部に掠り傷を与えた。
「このッ…」
「……“ベビー”…」
「ッ! “ブレイジング”…」
テリアモンはアグモンと距離を取る為、数歩後退。それを見たアグモンは、口に炎を溜めはじめる。それに合わせるように、テリアモンも熱気弾を構える。
「“フレイム”!!」
「“ファイア”!!」
ほぼ同時に放たれる二発の攻撃。それは二体の丁度真ん中あたりでぶつかり、炸裂する。大きな爆発音と共に、煙が二体を包み込む。
少しずつ煙が晴れていくと、先程と同じ場所に二体が立っていた。体中が少し煤だらけになっていたが。
「―――やるな…」
「…そっちこそ」
お互いの目を睨み合っていると、アグモンがニヤリと笑みを浮かべてそう言い、テリアモンも言葉を返す。
確かに、二体が言う通り互いの実力はほぼ拮抗していた。優位に立てる部分があるとすれば、アグモンが攻撃力と耐久力、テリアモンが素早さであろう。
「でも…なんでこんな事するの? もしかして、僕達の他にも誰か襲ったことがあるの?」
「言っただろう、俺達はただ戦いたいだけだ。更なる力を得るために」
「更なる、力…」
テリアモンが彼らの行動について質問すると、アグモンから笑みが消え、逆に怒りに近い表情に変わった。
アグモン達は力を欲していた。自分達が強い他の誰かと戦うことで、強くなれると信じて、誰彼かまわず襲っていたのだ。
しかし、テリアモンはそれを首を振って否定する。
「確かに、ボク達は戦うことで力を得られるかもしれない。だけど、それだけじゃきっと足りない、どこかで行き詰っちゃうと思うよ」
「何…?」
「ボクは今キミと互角に戦えているけど、以前のボクだったらこうはならなかったかもしれない」
テリアモンはそう言うと、別の場所で指示を出しているタクミをチラリと見て、アグモンに語り掛ける。
「ボクは今、自分の為じゃなく誰かの為に―――パートナーのタクミの為に戦っている。ボクのパートナーを、傷つけない為に…守る為に。だからボクは今、キミと互角に戦えているんだと思う」
「誰かの、ため…だと…? それが力になるとでもいうのか!?」
ふざけるなッ! アグモンはそう叫ぶと、テリアモンに向かって猛ダッシュ、鋭く尖った爪で攻撃する。
しかしテリアモンも、それをひらりと躱し再び距離を取る。
「そんなもの、認めん! 俺達は絶対に強くなってやる。誰かの為ではない、パートナーもいらない、俺達だけで強くなって…証明しなくてはいけないんだ!」
アグモンは避けたテリアモンに向け炎の弾丸を放つが、テリアモンはこれも跳んで避ける。
「…キミ達がそう思うなら、それでもいいよ。でもボクは、タクミを守る為に戦わなくちゃいけない、勝たなきゃいけない」
だから……
「勝たせてもらうよ、この勝負」
「このッ…ちょこまかと!」
「うわ!?」
「チビモン、大丈夫!?」
「あ、あぁ…」
それに対しこちらは、黒いガブモンvsチビモン&ミノモン。
二対一と、数の上では有利なチビモン達であったが、流石に幼年期と成長期との差は出かかった。火力のあるガブモンに対し、ダメージは負っていないものの、逆に決定打を与えられないでいた。
幼年期と成長期での違いはいくつか挙げられるが、その中でも武器(わざ)の数の違いというのは、戦いの中で大きく出てくる。
例えばミノモンと、その進化体であるワームモン。ワームモンになれば、糸をネット状にして吐き出す“ネバネバネット”で相手の動きを封じることができる。
しかし対してミノモンは、糸は出せるもののあくまでその形状はまっすぐ伸びる糸。そんな単純な攻撃では、成長期デジモンに軽々と避けられてしまうのだ。
(それに、ガブモンは火を使った攻撃をしてくる。そうなればミノモンの糸はあまり使えない、でも動きを止めないとこちらの攻撃も当たらない…どうする…―――ッ!)
当たらないなら、当たるように“工夫”すればいい。
そう結論付けたタクミは、近くにいるチビモン達に耳を貸すように言う。そして思いついた作戦を、ガブモンに聞こえないように声を抑えていう。
「―――すごい…それならもしかしたら…!」
「で、でもオレにそんな器用なマネできるかどうか…」
「大丈夫、自分を信じろって」
タクミの激励に、チビモン達は頷いて答えた。そして二体は覚悟を決めたような表情で、ガブモンに向き直った。
「今更何をしようというんだ…たかが幼年期二体に、負ける訳がない!」
「その言葉、後悔するなよ。準備はいいか、チビモン、ミノモン!」
「「おう(うん)!」」
チビモン達はタクミの言葉にうなずくと、すぐに駆けだした。チビモンはガブモンに向かって、ミノモンは別の方向へ。
「幼年期如きが…いい気になるなよ!」
そう言ったガブモンは、頭部にある角と鋭く尖った爪を使って、チビモンに攻撃を仕掛ける。しかしチビモンは自慢のジャンプで避ける、避ける!
攻撃が当たらない事に苛立っていたガブモンは、遂にしびれを切らし少し大振りの攻撃を仕掛けてきた。だがチビモンはそれを待ってましたと言わんばかりに、ガブモンを飛び越えるくらいのジャンプを見せる。
「えぇいッ!」
「ぐぉ…ッ!?」
すぐさま振り返るガブモン、しかしチビモンはそこへ自慢の跳躍を利用した頭突きを放つ。両手でガードしたガブモンであったが、勢いのあまり数歩後ろに下がってしまう。
「この…ッ!」
「わわ!」
だが流石は成長期、ガブモンはすぐさま反撃として爪を振るう。チビモンも慌てて後ろにジャンプして、その攻撃を躱した。
ならその着地した瞬間を狙って…。ガブモンがそう思い、駆け出そうとした―――その瞬間、
「食らえ!」
「ッ、何!?」
ガブモンの背後から、ミノモンが糸を吐き出したのだ。ミノモンの急襲に驚いたガブモンは、反射的にその糸を跳んで避けた。
しかし、それが彼らの狙いだったのだ!
「チビモン!」
「おう! おおおぉぉぉぉ!」
ミノモンが放った糸は、チビモンへと向かっていた。だがただ命中する訳ではなく、チビモンは自らの両手でミノモンの糸を掴んだのだ。
チビモンは幼年期にしては珍しい、両手のあるデジモンだ。それにより物を掴む事が可能となるのだ。
そして糸を掴んだチビモンは、その糸をガブモンの着地点の方へと投げるように引っ張った。
「な、何っ!?」
空中でその行動に驚いていたガブモンであったが、今更着地点を変えられる筈もない。そして着地したガブモンに、遂にミノモンの糸が絡みついた。
しかしそれだけではない。糸を吐き出したミノモン本人が、未だに糸を千切っていないのだ。そうなれば、どうなるか想像できるだろうか?
ガブモンを中心とし、遠心力を利用しミノモンの糸がミノモンを連れたまま、ガブモンに巻き付き始めたのだ!
これこそ、タクミが考え出した作戦。チビモンとミノモンの特徴を存分に生かした、ガブモンの動きを封じる一手だったのだ!
「くッ…この…!」
そして遂に、ミノモンが吐き出した糸が全てガブモンの身体に巻き付き、ガブモンは身動きが取れなくなってしまった。
それを確認してから、ミノモンは糸を千切ってガブモンから離れ、チビモンも糸から手を離し―――いや、ちょっとくっついてしまい、タクミと一緒にはがそうと必死になっていた。
「こ、こんな糸…俺の炎で!」
しかしガブモンは諦めていなかった。爪で切れないなら、炎で焼いてしまえばいい。そういう考えに至ったのだ。
それで自らの身体を焼くことになってしまうが、多少なら致し方ない。そう思い炎を口に溜めこみ、吐きだそうと―――
「させない、“パインコーン”!」
「ガッ!? こ、この…やめ…いたッ!?」
だがそれをさせまいと、まだ近くにいたミノモンが自らの必殺技を使用。松ぼっくり状の硬い物質を無数に投げつけ、ガブモンの気を逸らせようとしているのだ。
これが意外とこたえたのか、ガブモンは炎を吐き出さずにミノモンから離れようと、足を動かし始めた。
「待ってました!」
「なッ、お前は…!」
しかしその先には、先程手に付いた糸に苦戦していたチビモンとタクミが立っていた。まさか、誘導されたのか!?
「いくぜ、“ホップアタック”、“ホップアタック”、“ホップ”…“アタック”ゥゥゥ!」
「ぐはッ、ぐ、がぁぁぁ!?」
ミノモンの攻撃で誘導されていたことに気づいたガブモンであったが、時すでに遅し。チビモン渾身の必殺技“ホップアタック”の三連続攻撃が全て決まり、ガブモンはEDENのデータの壁まで吹き飛ばされた。
「ガブモン!」
「隙あり、“ブレイジング”、“ファイア”!」
「しまっ―――ぐはぁ!?」
ガブモンがやられてしまった事に動揺したアグモン、その隙を狙ってテリアモンが必殺技を命中させた。
熱気弾が命中したアグモンは、ガブモンの近くまで飛ばされる。二体とも、満身創痍なのは目に見えている。これで終わりだな、とタクミは思ったが……
「―――まだ…まだだ…」
「まだ、やれる…!」
アグモンとガブモンは、ボロボロの身体でも立ち上がって、タクミ達を睨みつけた。彼らの言った通り、まだやれる、まだ戦えるという意思が、彼らの目の奥に感じられた。
その意思を秘め、タクミ達に向かって歩き始める二体。しかし、やはり限界だったのか、その途中で倒れてしまう。それを見てタクミは、二体の下へ駆け出し、それに付いて行くようにテリアモン達も駆け出した。
「……テリアモン、こいつらに“ヒール”を」
「なッ…!?」
「何言ってんだ、タクミ! こいつらは…!」
「うん、いいよ~」
タクミはテリアモンの持つ技の一つ“ヒール”で、彼らの身体を癒してやろうと考えていたのだ。その言葉を聞いたアグモン達とチビモンは驚き、テリアモンはなんの疑問もないかのように、アグモン達の下へ向かう。勿論治療の為だ。
しかし技を使おうとしたテリアモンの手を、アグモンは振り払った。
「ふざけるな…情けなんかいらない! 俺達は負けたんだ! さっさと…消去(デリート)すればいいだろう!?」
「そうだよ、元はと言えばこいつらが仕掛けてきた喧嘩だ! それなら治療してやる必要なんて―――」
「アグモン、チビモン。俺は別に…情けで治療してやろうって訳じゃない。怪我をしている、だから治す。それだけで理由にならないか?」
そう言いながら、タクミはアグモンとガブモンの両肩に手を置いた。
「“生きている命”を大切にすることなんて、当たり前のことだろ。だからさ…死ぬとか、消去(デリート)とか…簡単に言わないでくれよ。もっと自分の“命”を、大切にしてくれよ。お前達は……“生きてる”んだから」
「「……ッ!!」」
諭すような声で、柔らかい表情で。アグモンとガブモンに、語り掛けるタクミ。それを聞いた二体は、ハッとした表情を浮かべた後首(こうべ)を垂れた。
「……だが、それでも…」
「怪我の治療は、いい」
しばらく考えてから、二体はやはりタクミの手を払い、治療を拒否した。
タクミはしばらく視線を下げる二体を見てから、「わかった」と言って立ち上がった。
「じゃあ、俺達の仲間にならないか?」
「「…はぁ!?」」
「お前らのこと、ほっとけそうにないんだ。だから、一緒に来ないか?」
しかしタクミは、仲間の勧誘へと話の主旨を変えてきた。それを聞いたアグモン達は、更に驚きの声を上げた。
チビモンやミノモンも驚くなか、タクミは続けてアグモン達に手を差し出した。
「―――それこそ論外だ」
「俺達は人間とつるむつもりはない!」
しかしアグモン達はまたもタクミの手を払いのけた。これ以上言っても聞きそうにないその態度を見て、タクミは「そうか…」と呟いて手を引いた。
「それじゃあ、俺達は行くよ。ちょっとばかし急いでるから」
タクミはそう言うと、手を振って別れを告げた。テリアモン達も、その後を追う様に動き出す。
途中でチビモンが、「あっかんベー」をアグモン達に向けてやっていたが、それに気づいたタクミが拳骨を一発プレゼントした。
「―――テリアモン、一つ聞いていいか?」
「……何かな?」
しかし一番後ろにいたテリアモンに、アグモンが喋りかける。テリアモンもアグモンの方へ振り返り、ちゃんと聞く素振りを見せた。
「……なんでお前は、あの人間についていくんだ? 強くなるためか?」
「違うよ、ボクはそうじゃない。まぁ、チビモン達はそのつもりみたいだけど…」
テリアモンはそこで一旦言葉を切り、続けて言った。
「―――“パートナーだから”だよ。タクミがボクをパートナーと言ったから、ボクもタクミをパートナーだと思うし、一緒にいようって思うんだ」
キミ達もパートナーを持つと分かるよ。
テリアモンは最後にそう言い残し、タクミの下へと駆けだした。
アグモンとガブモンはボロボロの身体のまま、その光景を眺めることしかできなかった。
後書き
という感じです。
主人公の仲間、二体目と三対目はチビモンとミノモンでした!
今回は解説するネタもないですし、ちょっとした予告を。
無事にEDENより帰還したタクミ、そこでまた新たな出会いをする。
新たな調査場所、『セントラル病院』。調べる物は謎の病気、『EDEN症候群』
そして、調査を進めていくうちに、タクミは驚愕の事実を知ることとなる。
タクミが知る驚愕の事実とは、一体…!
次回、『DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~』
Story6:浮き上がる謎 コーヒーの味は未知の味?(仮)
てな感じです。
設定とアンケートボードの方も更新しました。よかったら見てください。
ご指摘、ご感想等お待ちしております。次回もお楽しみに~!
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