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ジガバチ

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4部分:第四章


第四章

「あそこも。それでな」
「あのおじさんもいるかな」
「やっぱりいるだろ」
 健太は特に深く考えることなく竜太に答えました。
「この辺りはあまり変わってないしな」
「そうだよな。家は増えたけれどな」
「まだまだ空き地とか山とか多いからな」
「あの泉だってな」
「残ってるだろ」
 そしてお百姓さんもです。いるのではないかというのです。
「それならな。まだあっているのかどうか気になるんならな」
「行ってみるか、そこに」
「ああ、行ってみようぜ」
 こうお話をしてでした。
「それじゃあな」
「まだ生きていたりしてな」
「泉もあればいいな」
 こんな話をしてです。二人は梅酒を飲むことを中断してです。そのうえで、でした。
 その泉のところに向かいました。するとです。泉はそのままだった。そしてです。
 あの畑、茄子やトマトのそれもありました。まさにあの時のままです。その昔と変わらない光景を見てです。健太は微笑んでこう竜太に言いました。
「変わらないよな」
「だよな。何か嬉しいよな」
「泉もそのままでな」
 その泉の中を見るとです。まだ湧き出ていて幾条の溝の様なその中にです。
 ミズカマキリやタイコウチ達がいます。水蜘蛛や蛙もです。
 そうした小さな水の中の生き物達を見てです。健太は言うのでした。
「バケツ持って来てな」
「よく捕ったよなあ」
「ああ、もう手掴みで取ってな」
「マツモムシに刺されてな」
「痛かったよな」
 子供の頃のことをです。二人は笑顔で話すのでした。その子供の頃のままの泉を見てです。
 けれどです。畑にはでした。
「あのおじさんはもういないか?」
「あれから十年以上経ってるからなあ」
「やっぱりもうな」
「死んだかな」
 こんなことを話すのでした。しかしです。
 その二人の前にです。そのお百姓さんが出てきました。あの時の姿のままです。
 静かに出て来ました。そのお百姓さんを見てです。最初に健太が言いました。
「ああ、おじさんも健在か」
「ちゃんといるんだな」
「そうだな。生きていてくれてるんだな」
「ちゃんとな」
 こうお話するのでした。そしてです。
 お百姓さんも二人に気付いてです。畑の方からこう言ってきました。
 
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