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欲しいものは

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3部分:第三章


第三章

「そんな感じだよ。それじゃあ他のもしてみるんだ」
「次はこれとこれ?」
「あっ、それは合わないよ」
 見れば左右で全く違う形のパーツを出してきた弘道でした。お父さんはそれを見てちゃんと教えてあげるのでした。けれどあくまで弘道にやらせるのでした。
「それはね」
「合わないの」
「形をよく見て」
 弘道に言います。
「そうしたらわかるから」
「うん。そういえば」
 ここで弘道はまたあることに気付きました。それは。
「ここに何か書いてあるよ」
 プラモデルの箱の中にあったある紙を見て言いました。
「これって何なの?」
「これは説明書なんだよ」
「説明書?」
「お父さんが今弘道に言っていることが書かれているんだよ」
「そうなんだ」
「本当はこれを見ながら作るんだよ」
 このこともここで弘道に教えるのでした。
「これを見ながらね」
「そうなんだ。これを見て作るんだ」
「できるかな?」
 弘道に対して尋ねました。
「そうして。どうだい?」
「ううん、僕字が読めないから」
 弘道はまだ小さいので字が読めないのでした。それで説明書も読めません。そのことを自分でわかって困った顔になるのでした。
「全然わからないよ」
「字が読めるようになりたいと思う?」
「うん」
 このことも素直に答える弘道でした。
「そうしたらプラモデルもずっと簡単に作れるよね」
「そうだよ」
「だったら読めるようになりたい」
 こう答えるのでした。
「けれど今は」
「そう。作り方は少しずつお父さんが言うよ」
 今はお父さんが教えるのでした。
「今はね」
「けれど今度からは僕がこの説明書を読んで作るんだ」
「そう、何でもそうだよ」
「何でも」
「字を勉強しながら」
 字を勉強することを言うのは忘れませんでした。何しろそれができないとどうしようもないのですから。お父さんもそのことはわかっています。
「欲しいものは何でも自分で作ってね」
「そうしてなんだ」
「そう。焦ることなくね」
 また言うお父さんでした。
「作っていったらいいから」
「うん。じゃあこのプラモデルも」
 お父さんの話を聞き終えてまたプラモデルに顔を向ける弘道でした。
「作るから。僕が」
「作るのは楽しい?」
「楽しい」
 明るい声での返事でした。
「こんなに楽しいのはじめてだから。最後までやりたい」
「そうか、それじゃあ付き合おう」
 お父さんもそこまで聞いて腹を括ったように弘道に言うのでした。
「それで。今度は」
「これとこれ?」
「そう、その二つだよ」
 今度弘道が出してきた二つのパーツには笑顔で頷いてみせます。
「その二つにまたセメンダインを塗って」
「こうだよね」
「そう。それをさっきのと合わせてつけて」
「こう?」
「それでまた一つできたね」
「何か。できてきた」
 見ればそれは腕でした。ここで弘道は自分が作っているものがわかってきたのでした。本当に作っているうちに、でありました。
「これは・・・・・・うで?」
「そう、腕だよ」
「僕が作ったんだ」
 自分でそのことを言うのでした。
「僕が。今」
「そうさ。弘道が作ったんだ」
「嘘みたいだ」
 何か自分では信じられないのでした。自分が腕を作ったなんて。少し呆然とした声になっていました。
「僕が。そんな」
「けれど他の部分も作れるんだ」
「僕が?」
「そう、弘道が」
 このことをよく教えるお父さんでした。
「作れるから。それじゃあ次は」
「うん。じゃあこれとこれ」
 またパーツを取り出しながら話をします。そうして本当に時間をかけてプラモデルを作っていって何日もかかって。そうして遂に作ったのでした。あちこちに乱暴に取った跡があったり接着剤の跡があったり色も塗っていないし随分と汚いものですがそれでもできたのでした。それはロボットでした。
 
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