| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  いの

「動いているものを見るのは面白い。でも止まっているものはつまらないでしょう? 止まっている風車なんて――ま、偶に情緒があっていいときもあるけれど……大抵は見るに値しない」

 するりと大蛇丸は、懐から何かを抜き取った。

「木ノ葉崩しという風で。私が風車(ふうしゃ)を回したい」

 パステルカラーの風車(かざぐるま)が大蛇丸の病的な白い肌に鮮やかに映えていた。
 
「相変わらずよのお……」

 オレンジの瓦の屋根の上。四人の音の忍びによって張られた結界が、大蛇丸と火影と、そして外界とを隔離する。外で火の車の少年が雷を落とし、暗部達が結界が張られるのを黙ってみていることしか出来なかったという事実に拳を握り締めた。

「……まさか、あなた方と戦うことになるとは」

 火影は顔を歪め、かつての師に視線を向けた。
 かたや初代火影、木ノ葉の里の創設者であり、「御伽噺」のような強さを持つ木遁使い、千手柱間。
 かたや二代目火影、初代の弟にして彼らを生き返らせた「穢土転生」の発案者、水遁使いの千手扉間。
 兄弟そろって仲良く火影岩に刻まれた顔は、この位置からもよく見える。
 この二人を相手に戦う。
 それはそれこそ死の覚悟を伴うものであると、ヒルゼンは顔を引き締める。
 笑う大蛇丸の手の中の風車は、どういうわけか、風もない結界の中で回った。

 +

「こっちだッ」

 キバが方向転換した。いのとチョウジもそれに続く。

「あとどれくらいで追いつけるの?」
「わかんねえ……あっちも相当のスピードで移動してる」

 チョウジの質問にキバが腹立たしげに答えた。ぐっと唇を噛み締め、いのがスピードを上げる。それを見たチョウジとキバもスピードをあげた。
 そのまま緑の中を駆け抜けていたその時だった。

「おいっ! スピードをあげろ!!」
「こ、これ以上なんて無理だよ……」
「サスケ君が見つかったの?」
「違うッ! 追っ手だ!」

 出し抜けにキバが声を張り上げた。チョウジがげんなりした声をだし、いのが慌てて問いかける。焦りと苛立ちの入り混じった声でキバが答え、目を見開く二人を視界に治めながらも精一杯加速しようとするが、これ以上の加速は流石に無理だ。

「二小隊で八人……いや、九人! まだ俺たちの正確な位置は掴んでねえみてえだが……」
「それも時間のうちってことね……!」

 木の上を猛スピードで駆け続ける。キバが状況を説明した。彼らは全員中忍以上の実力者であり、そして待ち伏せを警戒しながらも確実にこちらに迫っているらしいということ、そして――今自分たちに出来ることは、待ち伏せに見せかけた囮作戦しかないこと。

「……囮」

 相手の不意をつければ待ち伏せは有効なものとなるが、それには地の利などの様々な要素も関連してくる。一見木ノ葉の里出身のこちらが地の利では上に見えるが、しかし彼らは木ノ葉崩しのために編成された特別部隊。木ノ葉の地形を大蛇丸から教えこまれ、シュミレーションを重ねているはずだ。よって待ち伏せは効かない。
 だから今のキバ達に出来るのは囮作戦――一人が残って相手を足止めするしかないのだ。相手の実力が実力だから長くは持たないかもしれないが、トラップなどを上手く運用すれば時間稼ぎにはなる。
 問題は誰が行くか、だった。

「ボクが、行くよ」

 言ったのはチョウジだった。

「チョウジっ!?」
「キバは感知タイプだから当然居なきゃいけないし……いのの心転身だって感知には随分役立つしね。僕が行くよ。心配しないで、二人とも。仮にシカマルだったとしても、同じこと言うと思うから」

 にこりと笑ったチョウジの蒼白な顔に、キバが頭を振って叫んだ。

「俺が行くッ! いのの心転身だって感知は出来るんなら、俺と赤丸で行った方がいい! 連携で言うなら俺と赤丸、いのとチョウジだろ!? だから俺が――」
「――私が行くわ」

 いのの言葉に、キバとチョウジが言葉を失って振り返った。いのの顔は青白く、唇は震えていた。それでも彼女は必死に笑顔を浮かべて見せた。

「キバと赤丸は感知タイプで、二人の使う牙通牙は強いし、速い。それにチョウジの肉弾戦車の火力は同期一だわ。二人は私なんかよりもずっとずっと強い。今回の任務は砂の我愛羅とカンクロウ、テマリを倒すこと……なら二人がいった方がずっと倒せる確立は高い。違う?」
「でも、女のお前に……!」

 言いかけたキバを、いのは遮った。

「心配しないで、二人とも。仮にシカマルだったとしても、同じこと言うと思うから」
「でも、シカマルの影真似と違って、いのの心転身は……!」

 シカマルの影真似の術はもともと足止めようの術だ。しかしいのの心転身は一度に一人の対象にしか使えない上、サクラとの試合でサクラが述べたように、ゆっくりと、且つ一直線にしか精神エネルギーを飛ばせない、術の使用中術者の体は人形状態であるというリスクを伴う。それを誰も体を庇ってくれない状況でどうやってやるというのだ。髪は前の試合で既にきり飛ばしてしまっているから、予選の時のように髪で相手を縛るというわけにもいかない。
 その上相手は九人。仮に一人に心転身が成功したとしても、他の八人がいのを潰しに来る。これは余りに危ない。キバやチョウジの方がまだ勝算はある。

「シカマルもサクラも頑張ってるのに、私だけ……私だけ無力なままは嫌なの。ちょっとでもいいからサスケくんの助けになりたい。ちょっとでもいいからサクラの、シカマルの、チョウジの、キバの助けになりたい。ちょっとでもいいから同期皆の助けになりたい。ちょっとでもいいから木ノ葉の助けになりたい」
「そんなこと言ったって――!」
「大丈夫。アカデミー時代にはマナがトラップしかけるのよく見てたし、下忍になってからはシカマルがトラップしかけるのもよく見てた。トラップくらいなら私にも張れるわ。キバ、巻物の中に武具口寄せの術式があるでしょ。それ、頂戴。私がなんとかする」
「でも、いの――」

 それでも反対し続けるキバとチョウジに、痺れを切らしたかのようにいのが怒鳴った。

「死ぬの怖いけど。死にたくないけど! でもサクラは死の森で音忍にたった一人で勇敢に立ち向かっていた。でも私は隠れて震えていただけ。そんなのもういやなの! 私もう、逃げないし、隠れない。例え足が震えて立てなくなっても、隠れない! 戦い続ける! 奴らの心も体も、かき乱してやる! ――今決めたの! 私は弱くて、二人には私が信用できないかもしれない、でも!」

 いのの口元に笑みが広がっていった。こわばった笑顔ではなく、自然な笑顔だった。

「私たちに残された道って、例えどんなに弱くても、我武者羅にぶつかってくことくらいだと思うから」

 いのがキバの手から巻物を奪い取った。青い瞳は爛々と煌き、両手はぎゅっと握り締められている。

「私たちの故郷がかかってるのよ! もうグダグダ言ってられないでしょ!」

 叫んでいのは踵を返すと、前方に向かって全力疾走を始めた。例え弱くても我武者羅にぶつかっていくこと。それが今の自分たちに残された道だ。相手がどんなに強くて、自分がどんなに弱くても、全力でぶつかっていかなければ。里の危機を里の者が救わないでどうする?
 巻物を開く指は強張っていたけれど、でもこのまま引き下がるわけにはいかなかった。
 武具を口寄せして、トラップを張っていく。シカマルならどう考えただろうか、サクラならどうしただろうか、チョウジなら何をしようと思うだろうか、サスケならどんな応用をしただろうか。思考を巡らせながらやっていく。

「焦らない。焦らない。焦らない」

 焦りすぎると余計にトラップが張りづらくなる。落ち着いて、でも迅速に。一通り張り終えてから、ぽっかりと開いた木の虚の中にもぐりこみ、敵を待つ。クナイで樹皮の一部を切り落とし、外部の様子を伺う。
 深呼吸。焦るな。焦るな。焦るな。焦ってはいけない。緊張しても、焦ってはいけない。怯えても、焦ってはいけないと、そう自分に言い聞かせる。
 不意に視界に入った音符マークの額宛て。いのはワイヤーを一本断ち切った。

「――ッ!?」
「な、なんだッ!?」

 爆発する起爆札に動揺の声があがる。これはただの「縛り」だ。動き回る彼らを、術の範囲内にいれるためだけの。
 ――見てわからない? トラップよ
心の中で、馬鹿にしたような言葉を吐き捨てる。緊張が幾分和らいだ。印を組み、精神エネルギーを集め、対象に向ける。
 ――忍法・心転身の術!
 意識が乗り移った先は音の忍びだった――というのはあたりまえだろうか。何にせよ術が成功したことに一安心し、トラップに動揺し、取り乱したふりでクナイを投げる。

「誰だッッ!?」
「おい、よせ!」

 そしてその方向はちょうど、トラップを密に張り巡らしたところだ。一斉に飛んでくるクナイの群れをかわそうとして転んだふりをし、二人ほどを地面に突き飛ばす。悪態をつきながらも空中で姿勢を立て直そうとする彼らだが、仕掛けておいたワイヤーと衝突し、さらなる爆発音が森の中で轟く。突き飛ばすだけならクナイで突き刺すよりもずっと簡単だ。ゆえに下方にはかなりの数のワイヤーが仕掛けられてある。
 ――私は皆ほど強くはないかもしれないし、皆よりずっとずっと弱いかもしれない、でも

「くそっ、一体なんなんだ――!?」

 木の幹を拳で叩き、掌に隠した千本を投擲してワイヤーを切る。飛来した丸太を避けて、着地失敗をした振りをして更に一人を蹴り飛ばした。また爆発音。
 ――だからって負けていい理由には、ならない!
 そこで内一人が、いのの演技に気づいた。どうやら彼が、リーダーのようだ。警戒した顔つきで近寄ってくる。喉元にクナイを突きつけられた。

「お前、裏切っていたのか」

 あがるどよめき、向けられる殺意。
 演技しても無駄だ、そう悟ったいのは笑って、高らかに言い放った。

「ああ、その通りだ!!」

 叫んで、心転身を解除。自分の体に戻り、間一髪だったわねと喉を切り裂かれた音忍が落下していくのを視界にとどめながら呟き、そしてそのリーダーらしき者に心転身を行う。

「お前も裏切り者だろう」

 振り返ってもう一人の首根っこを掴み、その首にクナイを突き立てる。先ほど一人を罠にはめて殺したとはいえ、直接手を下すのは初めてだった。心臓が高鳴り、同時に任務で駆り立てられている彼らに一抹の同情心すら催す。
 しかし、容赦はしない。
 今しがた殺したばかりの男の体を投げ飛ばす。血のついたクナイ片手に後ろの者どもを振り返る――

「おい、女だ! あっちの木の虚に女がいるぞっ!」
「――!」

 気づかれた。
 感知系の男であるらしい彼が指差すいの本体のいる方向に全員が視線を向け、そして起爆札つきのクナイを放った。
 ――やばいっ
 心転身を解除して本体に戻り、急いで虚から脱出する。爆破された木の爆風に揺らめく金髪と紫の衣服が音忍の視界のど真ん中に躍り出る。意識を戻したリーダーの殺意のこもった視線がこちらに向けられる。
 一気に囲まれてしまった。先ほどやったのは五人、残りは四人。しかし先ほどの五人は心転身とトラップのあわせ技でなんとかやれたのであって、この四人を自力でなんとかするのは殆ど不可能に等しい。心転身を使っている間に体を潰されてしまうし、トラップももうそろそろ品切れだ。

「雌豚が……中々やるじゃないか。だが、ここで終わりだッ」

 クナイ片手に飛び込んでくる音忍の姿に足が竦む。先ほどまでの自信も吹っ飛び、泣き出しそうになる。

「八卦掌・回天ッ」
「双升龍!!」

 その時響いた声に、いのは弾かれるように頭を上げた。
 音忍が独楽のように回転する少年の全身から散発されるチャクラに弾かれ、次いで二匹の龍のように回転する少女の巻物から出てきた忍具が次々と音忍めがけて飛んでいく。音忍がそれをよけたと思いきや、忍具の上の糸が忍具を引っ張りよせ、音忍を追い詰めていく。

「八卦六十四掌ッ!」

 忍具を操る少女はテンテン。
 そして柔拳を音忍に食らわせる少年は、日向ネジだ。
 
「……!」

 柔拳を突かれた動きを鈍らせた彼らがテンテンの忍具によって大樹の幹に固定される。と時を同じくして、テンテンが地面に崩れ落ち、ネジが力なく大樹によりかかった。

「ネジ、なんて無茶してんのよ……あんたの腕は巻物の中の医療忍術の術式で簡単に治療して、点穴でチャクラ循環をよくしただけなのよ!? しかも私は医療忍者じゃないし……もう、あんたもリーも、無茶ばっかりするとこは本当にそっくりなんだから!」

 愚痴るテンテンに、「俺とリーがそっくり?」とネジが眉根に皺をよせて真剣に自分とリーの共通点に思案しはじめ、それからふと思い立ったように反撃した。

「テンテンこそ、九尾チャクラの循環を一時的に止めただけじゃないか」

 あの後、テンテンは巻物の中の術式でネジの腕を治療し――といってもテンテンは医療忍者ではない上、そんな術式で治せるほどネジの傷は浅くなかったが――ネジはテンテンの体内を流れる九尾チャクラの比較的多い部分の点穴を封じて九尾チャクラの循環を封じ、他の点穴を押してその他の部分のチャクラ循環をよくしたのだ(といってもこれは一時的なものであったし、多少はよくなるものの、テンテンにとって九尾チャクラの苦痛があり続けることに変わりはなかった)。

「テンテンさん……ネジさん……どうして……?」
「どうしてもこうしてもないでしょ。私たち、同じ木ノ葉の人間じゃない」
「……とはいえ、流石にこれ以上の任務遂行は……ッ」

 ネジが右腕を掴んでうめき声をあげた。テンテンの息も荒い。ネジの言うとおり、二人にこれ以上の任務遂行は不可能だろう。いのは後ろを振り返り、そして前を見直した。
 今は音忍達の始末をし、かなりの重傷らしい先輩二人を木ノ葉まで送ることが先だと、そう判断していのは震える足で立ち上がった。思う以上に自分はあの音忍と対峙するのが怖かったんだということに気づく。

「ありがとうございます……ッ」

 木ノ葉崩しはまだ終わっておらず、始まったばかりであるというのに、いのはまだ生きているという安堵にぼろぼろと涙をこぼした。
 結局がたがた震えてて、果ては先輩達に助けてもらってしまったけれど。
 逃げないで戦い続けることには成功できたということに、いのの口元には自然と笑みが浮かんだ。
 
 

 
後書き
原作では同期が人を殺してるって描写はゼツや飛段、サソリなどの暁以外(不死身の飛段が殺した範疇に入るのかどうかは疑問ですが)ほぼないんですけど、でも小隊長くらいの中忍となればそれなりに危険な任務も増え、人を殺さなければいけないときも増えると思うんです。多分殆ど相手はモブ忍かなんかだったりするんでしょうけれど。
「木ノ葉の里の大食い少女」では同期が人を殺す描写もそれなりに入れる予定です。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧