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鬼館

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第五章

「そして今から貴方達を冥府に送り届ける女よ」
『女だと』
『女がどうした』
『男でも女でもだ』
『我等には』
「それは並の人間に言うことね」
 これが沙耶香の返答だった。
「私ではなく」
『並ではない』
『そう言うのか』
『そして我等をか』
『冥府に』
「人の霊魂はこの世に長く留まるべきではないわ」
 沙耶香は言う。
「ましてや怨みを持っているなら余計にね」
『何を言うのか』
『この怨み晴らさずにおけるものか』
『殺された怨み』
『死んだ怨み』
『貴様も死ね』
『そしてここに住むのだ』
 怨霊達は口々に言う、そして。
 洋館からだ、最早形すらはっきりしていない者達が出て来た。
 姿は透き通っている、だが。
 形はよくわからない、目鼻や口はあっても。
 不気味な黒い影達の様に見えた、その影達が言うのだった。
『ここは我等の場所』
『そして我等はここにいるのだ』
『誰にも邪魔はさせぬ』
『入った者は引き込む』
『そうするのみ』
『誰であろうともな』
「会話にはならないわね」
 分身の一人が彼等の言葉を聞いて呟いた。
「予想していたけれどね」
「そうね」
 沙耶香本人も答えた。
「わかっていたことだけれど」
「残念ね、これでは」
「実力行使しかないわね」
「用意は出来ているわよ」
 分身達も応える、そしてだった。
 沙耶香と彼女の分身達はそれぞれの右手から強い緑色の光を放った、その光は忽ちのうちに館全体を覆い。
 そしてだ、その中にいる怨霊達を。
 完全に捕らえてだ、光の中でだった。
『と、溶ける』
『これは一体』
『何なのだ』
「この結界は相当な怨念の持ち主も強制的に冥府に送り返すものよ」
 沙耶香本体が答えた、右手から光を放ちながら。
「強制的にな」
『無理にか』
『我等を冥府に送り返す』
『そうした魔術なのか』
「ディス=スペル。不死者の呪いを解いて」
 そのうえでというのだ。
「本来いるべき世界に戻すものだけれど」
「私の魔術は黒魔術よ」
 分身達もここで言う。
「だから強制的になるのよ」
「相手の意志に関わらず、説得もしない」
「相手をただ送り返す」
「それも力づくでね」
「そうしたものなのよ」
 それが今使っている結界の魔術だというのだ。
「この緑の光の結界の中でね」
「この世界から消えてもらうわ」
「貴方達の意志とは関係なく」
「そうしてもらうわ」
『お、おのれ』
『そうなってたまるか』 
 溶かされるその中でだ、怨霊達は抵抗を見せた。 
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