異界の王女と人狼の騎士
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第三十七話
「何を訳の分からないことを言うんだ? お前、頭おかしいんじゃないのか」
そう言って漆多を見るが、彼は眼を逸らした。ちらりと盗み見る彼の顔には疑いの色が濃厚になっている。
親友が俺を信じてくれないことにショックを感じながら、必死で弁解しようとする。
「何を根拠に嘘を言ったっていってるんだ。ふざけるなよ」
「クックックックック……。月人、俺は須佐野から聞いたんだよ」
勿体ぶって言う蛭町の言葉に言いようのない不安を感じる。須佐野は俺たちの通う学校の教頭だ。
「先生は立場上、警察からも事情をいろいろ聞いていたようなんだよ。そんで、訳ありで俺の親父は教頭とはツーカーなんだよな。で、いろいろ事件のことは教えてもらってるのさ」
俺は顔面蒼白になっていないだろうか? 俺の顔には動揺が出ていないだろうか? 俺の眼は泳いでいないか?
「お前は夕方学校を出たって言ってたな。……学校からの出入りはゲートシステムで管理されているっていうのはお前も知っているだろう? ふふん。須佐野は下校者リストを持っていてな、機械が一時ダウンしていたみたいだが、午後7時までのデータはしっかり残っていたんだよ。お前は日暮れまでには学校を出たと言った。あの日の日没は6時12分だ。当然、システムがダウンする前なんだよな。当然リストにはお前の名前が載っているはずだよなあ……」
そして蛭町は俺を見、仲間を見、王女を見、漆多を見、再び俺へと視線を戻す。
「OH! No!! ナンテコトデショウ! アリマセーン!! オ前ノ名前ハ、しすてむだうんスルマデアリマセーン! オ前、嘘ツイテマスネ」
ふざけた調子で蛭町は戯けてみせる。
「そ、それは……。システムの調子が悪くて俺をカウントできなかっただけだろう、そうに違いない」
自分で言いながら嘘くさいと思う。学校のシステムは最先端技術で構築されている。サポート体制も最高レベルだからそうそう故障もしないし、仮にしたとしてもすぐに復旧する。おまけに予備のシステムが何重にも構えているからダウンなどしないんだ。
ダウンしたのは寄生根の封絶の影響なんだから。
「ほうほう。お前は少なくともシステムダウンした後でないと帰っていないわけなんだな。で、さらに!! この写真を見てくれ」
そういってポケットから1枚の写真を取りだした。
そこには歩いている俺の姿が映っている。
日付は寧々が殺された日、王女と出会った日、如月流星と戦った日。そして時間は午後5時30分。
言葉を失ってしまった。
その写真が如実に真実を語っている。
……俺が廃校舎へ歩いていっている姿を鮮明に捉えた写真だったんだ!
そしてさらに、蛭町はもう一枚の写真を取り出す。
そこには同じように廃校舎へと向かう寧々の姿があった。時間は5時。
「ちなみに、このカメラは廃校舎側から撮影しているんだよな。学校の生徒なら、みんな知ってる。この道は一本道で、この先には廃校舎以外何も無いんだよな。さてさて、嘘つきの月人君、君はどう答弁するのかね」
しばらくの沈黙。何も言えない。漆多を見ることもできない。どうしたんだよ……俺は被告人席に立たされている。蛭町達をぶちのめしにきただけなのに……。
「そ、それは……」
言葉に詰まる。本当の事を言うべきか、それとも誤魔化すべきか。まだ決定的じゃない。決定的じゃないからなんとか誤魔化せるんじゃないのか? そんな誘惑に駆られそうになる。
でも、そんなの駄目だよな。今まで隠してきたのも駄目だけど、この期に及んでまだ嘘をつこうなんて無理だよ。嘘に嘘を塗り固めたってすぐにぼろが出るだけだ。
それにこれ以上、友達に嘘はつけない……。嘘がばれて友達を失うより、本当の事を告白して友達を失う方がいい。
「実は、」
俺が告白しかけた時、かぶせるように漆多が唸るような声を出す。
「もう、嘘はやめろぅ。……全部、蛭町君から聞いたんらよ。彼のお父さんは警察にも顔が利くみたいれ、いろんな情報を知っているんだ。そして何もかも教えてくれた。写真も見せてくれらんよ。……お前が廃校舎に行くところ、寧々が同じく行くところ。廃校舎の惨状。そして、寧々の遺体。……本当に素っ裸だった。ただの噂だって思ってたんだ。そんなことする子じゃないって俺は信じてたんだ。でも、証拠を見せられて、俺は気が狂いそうだった。何かの間違いだって。……れも、そんなの甘い幻想でしかなかったんだな。……何を信じたらいいんだぁよ。俺は、俺は、お前の事だって信じていたんだぞ、この裏切り者、馬鹿野郎がっ……」
その言葉が心に突き刺さる。
痛いよ、……殴られるよりずっと。
「違う……」
「何が違うっていうんだよ。お前と寧々は廃校舎に放課後待ち合わせていた。そんで、あそこはラブホ変わりに使われていた。じゃあ結果は明らかだろ。糞っ、やったんらろう? お前ら。 お前と寧々は俺を裏切ったんらよ」
「じゃあ如月は何であそこにいたんだ」
「そ、それは」
俺と寧々が逢い引きしていたのなら、なんで如月が全裸で発見されたんだという問いに、漆多が戸惑う。そう計算が合わないのだから。
「そんなのどうでもいいんじゃないのか? 漆多。まずはこいつが日向とどうだったかが大事だろ? そこをきちんと確認しておかないといけないんじゃないの? 」と、蛭町が口を挟んでくる。「もう結論は出てるだろうけど、な」
「そうだよな。……月人、正直に答えてくれよ。お前と寧々は、本当に会っていたのか? 」
俺は力なく頷いた。
それを見て漆多は大きなため息をついた。
「やっぱりか。……でもどうしてなんだよ」
「日向に呼び出されたからだよ。何でか分からない。……メールが来たんだ。放課後待っているって」
「呼ばれたからホイホイ言ったってわけだな、まあ当然だけどな、確かに、……日向はいい体してたっからな」
蛭町がまた割り込んでくる。困惑する俺を見てせせら笑っているように見えた。
「どうして行ったんだよ」
「それは、……あそこはラブホテル代わりに使ってる連中がいるっていう噂は俺も知っている。覗き目当てにうろついてる連中もいるって聞いたことがあるからな。だから、そんなところに彼女一人放っておくなんてできないだろう? メールでは待っているってことだったから、とにかく行って連れ帰るしかなかったんだ。無視して放っておくなんてありえない。分かるだろう? 」
「それなら、俺に声をかけてくれたら良かったんじゃないのか? 寧々と俺は付き合ってるんだからな。……それに、あんなところで待っているって言われてお前一人で行ったら、誤解されるって思わなかったのか。普通そう思うんじゃないのか? それとも俺はおかしいのか」
漆多は傷みもだいぶ収まったのか、滑舌も良く俺を責め立ててくる。
被告人席に立つ俺はどんどんと追い込まれている。
「……そうだ。確かのお前の言うとおりだよ。一人で行くべきなんかじゃなかった。でも俺は行ってしまったんだ」
「どうしてだ? 」
と漆多。
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