真田十勇士
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巻の十 霧隠才蔵その六
霧隠を紹介した、霧隠も彼等に名乗った。
「霧隠才蔵という、伊賀で忍術を学び剣と霧の術に自信がある」
「ほう、だから霧隠なのじゃな」
根津がその言葉を聞いてすぐに目を光らせて言った。
「そこからか」
「うむ、それがしの家は代々霧を使う忍の家でな」
「それでか」
「この名になった、昔は違ったそうだが」
「そうであるか」
「無論手裏剣等も使える」
刀以外の忍の道具もというのだ。
「だから安心せよ」
「そうか、殿が認められただけはあるか」
「そう思ってもらっていい」
霧隠は根津達に自信に満ちた声で答えた、だが。
清海は怪訝な顔でだ、霧隠に問うた。
「御主の名等はわかったが」
「顔のことか」
「うむ、御主が顔を隠しているのはそれじゃな」
「実は顔がおなごにやたら注目されてな」
「それで隠しておるのじゃな」
「大津に来た時はつい顔を出していてじゃ」
それでというのだ、霧隠も。
「騒がれてな」
「それで今は虚無僧の格好をしておるのじゃな」
「これが一番顔が隠れるからな」
だからだというのだ。
「こうしておる」
「そうじゃな」
「うむ、それで顔を見たいというのじゃな」
「鋭いのう」
「そちらにも自信がある、あと兵法書も読んでおるからな」
「そちらにも通じているか」
今度は筧が声をあげた。
「では孫子等も」
「七兵法書に他にも色々と読んでおる」
「それは凄い、実はそれがしは」
筧は自分のことも話した。
「兵学の書は後回しで術のものばかり読んでおった」
「そうなのか」
「兵法書は殿も明るいが」
「軍師も必要じゃ」
幸村も言う。
「ならば余計に頼む」
「さすれば」
「ではじゃ」
兵学の話が終わったところでだ、清海がまた霧隠に声をかけた。
「顔を見せてくれるか」
「うむ、周りにおるのは我等だけ」
今はそうなっている。
「ならばな」
「顔を見せてくれるな」
「そうしようぞ」
霧隠も答えてだ、そしてだった。
虚無僧のその被りを取った、するとそこからだった。
髪は総髪の髷でだ、その髪は黒々としている。
顔は白い細面で切れ長の流麗なものだ、睫毛は長く眉は細いもので見事な形で曲がっている。
鼻は高く耳の大きさは程よい。唇は小さく引き締まっていて顎はやや先が尖った感じだ。その非常に整った顔を見てだ。
清海は唸ってだ、こう言った。
「わしと同じだけよい顔じゃな」
「そこでそう言うか」
「御主自分の顔を見たことがあるのか」
すぐにだ、その清海に由利と海野が驚き呆れて突っ込みを入れた。
「御主の顔の何処が整っておる」
「そのまま魯智深ではないか」
「御主の顔は整っておるのではなく勇ましいのじゃ」
「豪傑の顔じゃ」
「待て、わしが花和尚というか」
即ち魯智深である。
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