異界の王女と人狼の騎士
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第二十八話
「まず、寄生根はまだ存在していると思うわ。アレは単体では移動する能力がないから地面か何かに張り付いた状態で、今も存在しているんじゃないかしら」
「どんな形をしているんだ」
「基本的に糸くずみたいな形で大きさも数センチくらいしか無いの。重さがほとんどないから風が吹いたら跳ぶし、雨が降ったら流されたりもするわけ。だから非常に不安定な状態で今はいるはずだわ。でもはっきりと言っておくけど、寄生根を肉眼で見つけるのはほとんど不可能よ。」
「それはわかってるよ。でも困難さは寄生根が宿主を見つける事についても同様じゃないか。そんな風任せな状態で移動もままならない寄生根が宿主なんて見つけるのはかなり難しいんじゃないのか? 」
俺はもっともな疑問を述べた。誰にでも寄生できるわけではないようだからそんな受動的な移動で合致する人間に取憑くことなんてできないんじゃないか?
「アレが宿主を見つける方法は自分で宿主を探すわけではないの。テレパシーのようなもので宿主に呼びかけ、宿主はそれに反応することで通じ合うらしいわ。寄生根は呼ぶのよ。自分の宿主に相応しいモノを。つまりアレが発する呼びかけの電波のようなものを受信できる人間だけがそれに気づき、アレのもとに呼び寄せられるというわけ。その電波のようなものが怒り・嫉妬・憎悪・ねたみ・セックスなんかの人間にとっては負の想いへの強い渇望の充足ということなの。対象となる人間は負の感情を持っている者なら誰でもなりうるわ。でもその思いが強ければ強いほど寄生根とのリンクが強くなり、強く強く寄生根に引き込まれることとなる。その思いが強ければ強い者ほど寄生根と出会う確率が高くなるわ。当然想いの強さに比例して寄生後のアレの能力は高くなる。……そこがまた厄介なところね。今まだ動きが見えてこないのは、負の想いが強い者がいないか、いてもその想いがそれほど強くないから寄生根の呼びかけ反応していないだけかもしれないわけなんだから」
そう言いながら王女は冷蔵庫から持ってきたペットボトルのお茶を一口口に含んだ。そして「オエッ、これ苦い……不味いわね」とぼやいた。
だったら飲みかけの水飲んでろよ。……と思っただけ。
「でも、姫。俺は見つけられるかな? 寄生根を」
「どれだけ強運かにかかっているわ。多分無理だとは思うけどね。……寄生前に発見できたらそれを焼き払えば済むから簡単なんだけど。とはいってもどのあたりに寄生根があるかわからない現状では打つ手がないわね。いっそのこと学校を丸ごと焼いちゃえば簡単かもしれないわよ。うん、それが一番手っ取り早いわ」
と無茶苦茶な提案をする。
「そんなのできるわけ無いじゃん」
「馬鹿ね、ただの冗談よ。……だから結論はもう出ているわね。誰かが寄生されて暴れ出さないかぎり、発見することはできないってことが」
その事実を否定することはできない。最初からわかっていることだから。
つまり犠牲者が出るのは避けられないってことだ。
「まだ諦めた訳じゃないけど、俺だってそうなったらそうなったで仕方ないって思っている。そして、戦いも避けられないってことだってね。本当は厭だけど、避けて通ることはできないようだね。……もし、そうなった時のために教えて欲しいんだけど、俺は新たに寄生された人間と戦った場合、勝率はどれくらいになるんだろう」
少女は少し考えた。答えは出たようだけどそれを伝えるべきかどうか悩んでいるように思えた。
「シュウ、はっきり言うわよ。前にも話したけど、寄生根は宿主を変えるごとに強くなるって言ったのを覚えているかしら」
そう言って俺の反応を見た。
俺は頷く。
「如月流星が最初の宿主。そして次は二人目ということになる。如月流星との戦いではまだお前が戦いになれていなかったせいもあったし、本当はお前があれほどの戦闘力を発揮するとは思っていなかったんだけど、まあ互角以上の戦いだったわ。どちらかといえばお前の方が強かった。でも宿主が二人目ということは、前の宿主に憑いていた時に得た能力を保持したまま新たな宿主を確保することになるわけだから、戦いはより厳しいものとなる。お前が戦いになれたとしても、今度は良くて五分五分。今までの経験から言うと、お前の方が不利になるかもしれないわ」
「そうか……。やっぱり今のままだと不利なんだなあ。でも俺たちに負けるという選択肢はありえないんだろ? だったら教えてよ、姫、俺はどう戦えばいいんだ」
「【俺は】じゃないでしょ、【俺たちは】よ。お前の敗北は考えたくもないんだけど私の死に直結するんだから。あんなのになぶり殺しになんかされたくないから私も必死よ。当然一緒に戦うわ。……私が加勢すれば、なんとか互角にまでは持って行けると思うんだけど、うーん、どうかなあ」
王女が加わっても互角なのか。少しショックを受けた。ただ、王女が面白そうに話すのでそんなにヤバイ状況のようには思えないんだけど。
「今のままでは勝敗は不明ってことなんだよな。俺は、いや俺たちはどうすればいいんだ? 戦いまでになんとかレベルアップを図らないとまずいんだろ? 何か手立ては知らないのかな。こうなんていうか、パーッとパワーアップするような特訓とかさ」
「レベルアップっていったってゲームみたいに簡単に人間の戦闘力は上がるもんじゃないでしょ。本来なら日々のたゆまぬ鍛錬と、とにかく実戦をくぐり抜けて力を上げるなしかありえないわ」
「そんなリアルなこと言われても困るよ。敵はいつ現れるかわかんないんだよ。そんなチンタラやってたら間に合わない。姫だってそんなこと分かり切ってるでしょ? 」
「そうは言っても一朝一夕に能力値を上げるなんて魔法のようなことができるわけないでしょう? でも、まあもうすぐ満月だから……」
「満月だから? 」
俺は姫が言う満月が近いという意味に即座に反応した。満月に力が増すといえば狼男。ウェアウルフ、ルーガルーなどなど。しかしそれと王女がどういう関係にあるっていうんだ?
「私たち王族のバイオリズムの事を言っているのよ。私たちは満月をピークに、そして新月をボトムに能力値の上限が変化するわけ。それはどの生命体も同じでしょ? 生物は月の満ち欠けという自然の力に影響されているわけ。そして、もうすぐ満月が近いということは私の力も最大値まで引き上げられるということなの。それすなわち、私が使役する式鬼の能力も最大値になるということなの。前に戦った時以上に強い式鬼を使役できるし、数だって前より多く使える。それをうまく使えれば互角の状況を私たちに有利な方向へ持っていけるかもしれないわ。
それにシュウ、お前は私の下僕となっている。当然、主たる私の能力値が上がるということはお前の力も上がるということになるのよ」
つまり戦いが満月近辺になれば、戦闘能力がマックスに近い状態で迎えられるということなのか。
「今度の戦いが俺たちが勝利するチャンスになるということか」
「そう、そのとおり。寄生根は二人目の宿主を得て相当にパワーアップし、勝利を確信して襲ってくるだろう。その慢心の隙を突き勝利するのは私たちだということだ。今度の戦い、必ず私も一緒だ」
「もちろん」
俺は戦いに備えることになる。
「それと……」
王女は俺を見る。
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