真田十勇士
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巻ノ九 筧十蔵その四
「それも相当に」
「はい、しかし」
「しかし?」
「中には譲ってもらった書も多いので」
「そうなのか」
「それがしも薬等を作られ芸も出来ますので」
そうした技もだ、筧は話した。
そしてだった、実際にその何もない手にだ。
花を出してみせた、そして笑って言った。
「こうしたことが」
「手品ですね」
伊佐は筧が今してみせたものを見てすぐにこう返した。
「それは」
「はい、こうしたことも得意で」
「それで銭を得ておられましたか」
「左様です、ですが稼いだ銭は」
「その殆どを書に使っておられましたか」
「それに薬も」
「仙術での薬じゃな」
海野が言った。
「それじゃな」
「他にも南蛮の錬金術の薬も」
「作って売っています」
「ふむ、南蛮の」
「それを売っています、ただ」
筧は真面目な顔でこうも言った。
「紛いものや毒は作っておりませぬ」
「ならよいがな」
「それがしも道を違えたことはしません」
強い声でだ、筧はこのことは断った。
「何があろうとも」
「仙術の薬は丹薬じゃ」
幸村は筧が強く言ったところでこの薬について述べた。
「よいものなら確かに不老不死になるというが」
「ご存知ですか」
「唐の太宗はその丹薬を飲んで死んだ、秦の始皇帝もな」
「はい、真の丹薬はです」
筧も言う、先程よりも強い声で。
「滅多なことでは作ることが適いませぬ」
「左様じゃな」
「これは錬金術も同じ、錬金術はあらゆるものを金に変えますが」
「石でも何でも金に変えようとすることも尋常なことではない」
幸村は全てを察している目で述べた。
「紛いものの話も多いであろう」
「そのこともおわかりですか」
「一歩間違えれば左道にもなる」
「その通りです」
「見たところこの書の中には陰陽道や修験に関するものもあるが」
しかしというのだ。
「左道はないな」
「そういえば確かに」
「そうした書はありませぬな」
「呪いのものは」
「巫蠱等は」
「巫蠱は左道の極み」
幸村は巫蠱についてはだ、険しい顔になって否定した。
「それを行う者は天下に害を為す」
「ではそれがしが巫蠱を行っていれば」
「この場で斬ることも厭わぬ」
これが幸村の返事だった。
「まだ学んでいるだけなら止める様に言っておった」
「左様ですか、どうやら」
幸村のその言葉を聞いてだ、筧はというと。
彼のその険しいが善悪をしかと見ていることがわかる確かな目の光を見てだった。こう幸村に言ったのだった。
「貴殿は仙術や魔術もご存知なのですか」
「少し書を読んだだけじゃ」
知っているとまではいかないというのだ。
「使えはせぬ」
「左様ですか、しかしその本質をご存知ですな」
「使い方を誤るとおぞましいものになることをか」
「はい、承知です。ならば」
「ならばとは」
「それがしの術もよきことに使って頂けますな」
こう言うのだった、幸村のその顔を見て。
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