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黒魔術師松本沙耶香 天使篇

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8部分:第八章


第八章

「とてもね」
「私がいいといいますと」
「気付かれにくいでしょうけれど貴女はとても素晴らしいものを持っているのよ」
 こう言ってまた一歩前に出た。
「とてもね」
「とてもなのですか」
「校門での一見すると厳しい中に」
 校門のことも話に出してみせたのだった。
「貴女に艶を見たのよ」
「艶を」
「その顔に肢体に」
 外見を言ってみせた。そして見ているのはそれだけではなかった。
「内面も」
「私の内面ですか」
「凛としていてそこにたおやかさもある」
 彼女のその内面をだ。既に見抜いているのだった。
「それを味わいたくて」
「味わいたくて」
「ええ。ではいいわね」
 何時の間にか彼女のすぐ前まで来ていた。そうして両手をゆっくりとその背に回してそれから耳元に顔を近付けるのだった。
「今から」
「けれど私は」
「あら。嫌なのかしら」
 拒むものを認めたうえで目を細めさせた。
「こういうのは」
「私は教師です神聖なる校舎では」
「神聖なね」
「それを汚すのは」
「罪だというのね」
 彼女が言いたいことはわかっていた。それを先に取ってみせたのだった。
「それは」
「ですから。それは」
「罪ね」
「それにです」
 さらにだった。真央美はその拒む色をさらに強くさせてだ。沙耶香に対して言うのだった。
「女性とこんなことは」
「それも罪だというのね」
「ですから」
「二重の罪」
 真央美が言いたいことを一つにしてみせた。
「それね」
「それだけの罪を犯すのは」
「罪だからいいのよ」
 真央美の言葉を逆転させてみせた。彼女のその拒むものを読んでそのうえで、であった。その罪というものを受け入れさせる様にして言ってみせたのだった。
「罪だからね」
「だからいいと」
「そうよ。いいのよ」
 また言ってみせる沙耶香だった。
「この罪は罪は罪でも」
「罪でも?」
「甘い罪よ。決して他では味わうことのできない甘美な罪」
 それだというのだった。言いながら次第に真央美の背を抱いてだ。捕らえてしまった。まるで女郎蜘蛛がその獲物を手に入れた様に。
「それなのよ」
「けれどそれは」
「罪は。犯していいものと悪いものがあるのよ」
 最早完全に捉え離しはしないのだった。
「そしてそれはね」
「今なのですか」
「さあ。いいわね」
 身体を前にやる。ゆっくりと後ろに押し倒す動きであった。
「それでは」
「このまま甘い罪を」
「そうよ。味わいましょう」
 その甘い罪を二人で味わおうというのだった。そうしてその場に真央美を押し倒してであった。その甘美な背徳の宴を楽しむのであった。
 
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