黒魔術師松本沙耶香 天使篇
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27部分:第二十七章
第二十七章
沙耶香に向かうその鬼火がだ。一つずつ消えていく。だがその数はあまりにも多い。沙耶香は徐々に追い詰められていっているように見えた。
しかもその鬼火の数はさらに増えていく。沙耶香は今度は翼を一閃させた。それで鬼火をまとめて燃やしたがそのすぐ側からだ。また出て来るのであった。
「きりがないというのね」
「さて、幾ら攻撃してもそう容易には消えはしないが」
「その様ね」
彼女もそれはわかった。鬼火は話している間にもさらに増えてきていた。
鬼火達にまた囲まれて。沙耶香は動きを止めた。そうして言うのだった。
「どうやらね」
「何かわかったというのか」
「ええ、わかったわ」
鬼火達がまた来る。しかし彼女は冷静に笑ったまま答える。
「この鬼火を消す方法がね」
「ではそれは何だ」
「簡単なことだったのよ」
わざと素っ気無く言ってみせる。しかしであった。
沙耶香はアルスターを見ていた。そうして。
翼を前に出した。六枚のその翼を一斉にである。
それでアルスターを襲う。そうしてだった。
彼を焼こうとする。だが彼はそれを鬼火で退けた。己の前にあるその鬼火達でだ。
防ぎはした。しかしだった。バランスが崩れた。鬼火の数が一気に減った。
「今ね」
それを見てであった。沙耶香はさらに動いた。その漆黒の翼を一斉に飛ばした。それは無数の闇の矢になり彼に襲い掛かった。
それで翼は消えた。しかしであった。その夥しい数の矢はアルスターの今の鬼火の数では防げなかった。それで決まってしまった。
何とか致命傷は受けずに済んだ。しかし手足のあちこちにかすりその傷は決して浅いものではなかった。焼け焦げそこから煙を出し血が見えている。少なくとも満足に動ける傷ではなかった。
「くっ、そう来たというのか」
「勝負ありね」
沙耶香がここで言った。
「これで貴方は先頭不能になったわね」
「忌々しいがその通りだ」
彼もそれを認めた。苦い声で。
「見てわかることか」
「そうよ。さて、これ以上闘うというのなら止めを刺させてもらうけれど」
「生憎だが今死ぬ気はない」
彼にそのつもりは全くなかった。
「それは言っておく」
「ではこの娘のことは諦めるというのね」
「そうするしかあるまい」
それを今ここではじめて認めたアルスターだった。
「今のこの傷では貴殿の相手をすることは無理だ」
「私の勝ちを認めるというのね」
「その通りだ」
「わかったわ。では帰ることね」
まだ六枚の翼は出したままである。しかしそれでも沙耶香は言うのであった。
「スコットランドにね」
「命は取らないというのか」
「もうこの娘の魂を奪うことは出来ない筈ね」
アルスターに今度はこのことを問うてみせたのである。
「そうね。もう」
「十六になった魂にはもう何の興味もない」
「大人のものになり純粋さがなくなるから」
「その魂では魔力を高めることはできはしない」
「だからこそ」
「それでは何の意味もない」
こう言い切った。言葉にはまだ未練が感じられるがそれでもであった。彼はこう言って偲ぶの魂を諦めると沙耶香に対して話したのである。
「それではな」
「だからよ。それだと私は貴方と闘う理由はないわ」
「それで私の命を取らないというのか」
「そういうことよ。わかったわね」
「わかった。礼は述べておく」
アルスターはここまで聞いて沙耶香に言葉を返した。それははっきりとした礼の言葉だった。
「それはな」
「そう。では今度会う時は」
「敵か味方かはわからないが」
それはわからないという。魔術師やそうした世界に住んでいる者達は基本的に一匹狼でありそれぞれの目的により敵になったり味方になったりするのである。
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