黒魔術師松本沙耶香 天使篇
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22部分:第二十二章
第二十二章
「契約に基き」
「そこまで察したか」
「貴方達は上の階級の存在に言われるか契約するかでないと動かないわ」
これもわかっていることであったのである。沙耶香にとっては。
「そして私が見たのは間違いなく」
「人だからか」
「そうよ。人よ」
異形の者の目には今はそれは映っていない。しかしもう見てしまっていたのである。
「人が見えたのだから」
「どうやら貴様は只の天使ではないな」
「少なくとも普通の天使とは違うわね」
媚惑的な笑みにもなるのだった。
「私は」
「そうなのか」
「そうよ。私はね」
「では貴様はその天使としてこの娘を守るというのだな」
「だからこそこの鞭を出したのよ」
言いながらその右手の鞭を動かしてみせるのだった。それはまさに大蛇の動きをしてそのうえで異形の者の前で蠢くのであった。
「わかるわね。これは」
「天使ではなく黒魔術師の様だな」
「魔術師でも天使になれるわ」
今度はこう言い返す沙耶香だった。
「そういうことよ」
「そうか。そういうことか」
「わかったらいいかしら」
ここでも異形の者に対して告げる。
「それじゃあ」
「闘うというのだな」
「この娘を守る為にね」
まさにそうだというのだ。
「そうさせてもらうわ」
「そうか。それならばだ」
異形の者は沙耶香の言葉に応え牙を剥いてきた。その大きな牙をだ。
その牙で沙耶香を倒そうというのである。そして今まさに跳び掛かって来た。
「貴様には恨みはないが」
「それは私も同じよ」
「しかし。契約は契約だ」
最早それを隠そうしなかった。決してであった。
「倒させてもらう」
「生憎だけれど私も同じよ」
沙耶香はその向かって来る異形の者を見据えながら言葉を返した。
「それはね」
「同じだというのか」
「そうよ。ほら」
異形の者の攻撃を避けた。一瞬でだ。
相手の攻撃をすり抜けさせる。異形の者の牙は彼女の身体を空しく通り過ぎた。
「何っ!?」
「見切ったわ」
微笑んで一言で述べてみせた。
「既にね」
「見切っただと。俺の攻撃を見るまでに」
「そうよ。されではこちらは」
己の背中にいる魔物にその鞭が自然に迫る。そして幾重にも縛りそのうえで。
黒い瘴気が出てそれで包み込み。瞬く間に異形の者を漆黒に溶かしてしまったのであった。
異形の者は溶けたようになりながら。呻いて言うのであった。
「俺をここまで簡単に倒すというのか」
「言っておくけれど私を倒したければ」
この言葉は彼に向けられたものではなかった。
「自分で来なさい。これでわかったわね」
こう相手に告げるのだった。
「それだけは言っておくわ」
「見事だ・・・・・・」
異形の者はこれで倒れた。車はすぐに元の道に戻りそのうえで何事もなかったかのように進んでいく。忍にとっては何でもない日常が続いていた。
その夜だった。亜由美は忍の部屋の隣にある自分の部屋で眠っていた。その彼女の夢の中にだ。沙耶香がやって来たのである。
沙耶香は夢の中で彼女に対して。微笑んで告げたのであった。
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