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インフィニット・ストラトス if 織斑一夏が女だったら

作者:しばいぬ
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最終話《『 』》

 
前書き
誰もが必ず、憧れた。

英雄(ヒーロー)

『私』にとっての英雄は、やっぱりお姉ちゃんだった。

モンド・グロッソで優勝して、それなのにまだ、上を目指している。

とても誇らしかった。

『私』は、お姉ちゃんみたいなことはまだ、できないけれど。

いつかお姉ちゃんみたいになりたいな。と、ずっと思っていた。

でも、少しくらい、『私』と話をしてほしかったな。

*

私にとっての英雄は、お母さんだった。

幼い私でも解るくらい、お母さんは頑張っていた。

でも、耐えきれなくなって、こんなことになってしまった。

ねぇ。どうして相談してくれなかったの?

私が子どもだから?

私は、子どもである前に、家族なんだから。家族の悩みは、家族で立ち向かう物でしょ?

*

俺にとっての英雄は、千冬姉だった。

だが織斑千冬という存在は、しだいに、俺に大きくのしかかった。

才能の差。

いつしか、俺の中の英雄は、重みとなっていた。

そして、気付いたら、こう思うようになっていた。




あいつさえいなければ。と


 

 
だんだんと、暖かい光が近づいてきた。

一歩、また一歩と、進む度に昔のことを思い出していく。

政府からの援助に頼った生活。

下手なお姉ちゃんの料理。

『私』が問題を起こす度に、一緒に謝った。

いっしょに稽古をした。

喧嘩もした。

笑った。泣いた。怒った。哀しんだ。

辛いときもあった。でも、一人じゃなかった。だから、楽しかった。

『私』の伸ばした手が、お姉ちゃんの手に触れた。

光が、『私』を優しく包み込む。

いっしょに手を繋いで歩いた河川敷。

『私』はただ、何でもない日常がほしかった。

豊かな生活なんて要らなかった。

こう言えば、綺麗事に聞こえるかもしれないけれど。

ただ、それ以上に一人になるのが恐かった。

『私』の闇が、音を立てて崩れた。

胸に空いた穴が、ふさがった。

『私』はもう、ISの影でしかない。でも、最期に、お姉ちゃんを救いたい。

いろいろな感情が喉まで込み上げてきた。

謝りたかった。感謝したかった。怒りたかった。嬉しかった。

でも、『私』の影はまず、「ただいま」と、精一杯の明るい声で、お姉ちゃんに抱きついた。

球が急速に縮まった。

二つの影は、まだ胸に穴を開けたまま。

でも、今、『私』に出来ることは。私の時間を稼ぐこと。

*

スコールは、ただ気にくわなかった。

自分の子どもが、自分より他人になついている。

自分だって頑張っていた。誰よりも頑張っていた。

愛も与えた。これ以上ない愛を。

なのに、自分からは離れていくだけ。

夫も。アリアも。

でも、自分は頑張った。

ならば、悪いのは自分ではない。

悪いのは、他のやつらだ。

スコールはまず、千冬のそばの影を壊すことにした。

アリーナの客席であった瓦礫から観察していたスコールが、動き出そうとしたとき。

一番小さい影が消えていることに気づいた。

一番小さい影は、スコールの隣に座っていた。

「・・・なによ。あんた」

小さい影はゆっくりと。

スコールを見上げた。

『お か あ さ ん』

聞き覚えのある声に、嫌気がさした。

「ふざけんな。私に餓鬼なんていねえんだよ」ヒステリックになり、叫んだ。

全てが嫌だった。私を裏切った夫が、私のことなどなにも知らない子どもが。

叫びながら高熱火球『ソリッド・フレア』を影に打ち続けた。

もうなにも要らなかった。一人でいた方がよかった。

影が球を発生させていることに気づかず、火球を打ち続けた。

小さい影は、スコールが球に飲み込まれる時。呟いた。

『産んでくれて、ありがとう』

球が消えたとき、そこにはもう。

なにも残されていなかった。

*

俺から発せられる球が、更に縮小し『私』達は球の外に出た。

と、同時に。人格が一つ、なくなったのがわかった。

私がどういう終わり方をしたのか、『私』は知ることができなかった。

「一夏。男の一夏はどうなっている」織斑千冬は尋ねた。

正直、『私』でも解らなかった。でも、彼はもう正気でないのは伝わってきた。

「解らない。でも、そうとう危ないのは確かかな。」

高校生程の影は、球を縮め、消した。

恐らく、彼も私がいなくなったのに気づいたのだろう。

お姉ちゃんはもう、戦えない。

『私』は、お姉ちゃんを後ろへと下がらせた。

もう、誰にも頼れない。自分だけ。自分にしかできない。

一つ、気づいたことがある。今の『私』の体には体温がない。つまり、『私』は彼のISの片割れかもしれない。

つまり、今の『私』の本体は、彼。

ここまでとなると、逆に清々しかった。『私』は俺自身に止めを指さなければいけない。

そこで、問題となるのは力の差。

彼は槍を創り出した。

でも、『私』は身構えることしかできない。

たとえお姉ちゃんとの稽古で力量の差があったとしても、スペックの差が開きすぎればどうしようもない。

『私』は飛んできた槍の二つは避けることができた。

だが、後ろから、右から、上から、前から、左から槍が飛んで来、『私』に当たり砕ける。

槍が当たるごとに『私』にヒビが入っていく。

一つの槍が『私』の胸に突き刺さった。

血が出ない。痛くもない。あるのは刺さった時の衝撃だけ。

『私』に次々と槍が突き刺さる。

だが、どの槍も五秒程で形を保てなくなり、崩れた。

次第に創り出される槍の数が減ってきている。始めは十本ほど現れていたのが徐々に数が減り、今は二本ずつしか飛んでこなくなっていた。

『私』は走り出した。

身体の破片を撒き散らし、ひびの入った左脚を引きずり『私』はすこしづつ、俺に近づいた。

彼はかまわず槍を創り続けた。 最早槍の形すらしておらず、狙いもずれている。

――もう、あなたも限界なんだよね。

だが、『私』の影の胸を、一本の槍が貫いた。

『私』の役目は終わった。お姉ちゃんが彼の後ろについたから。

千冬は織斑一夏に雪片を穴の空いた胸に突き刺した。

俺の影から、闇が溢れ出した。

闇は負の感情そのものだった。

嫉妬。劣等感。焦り。責任。苦しみ。恥。

俺が抱えたものが一気に流れ出、彼は、『私』は、私は、崩れ落ちた。

お姉ちゃんが、急いでこちらへ駆け寄ってきた。

でも、もう。

『私』は、ゆっくりと、目をつぶった。

*

蝉が大きく鳴き、日光が皮膚に入り込んでいくような暑さの中、子ども達は公園の噴水で涼を得、はしゃいでいる。

IS学園襲撃事件から3ヶ月、世界は大きな節目を迎えていた。

事の始まりは、行方をくらませていたIS制作者、篠ノ之束だった。

いつものうさみみを付け、報道陣の前に現れた彼女はこう告げた。

「束さんはね、宇宙運用のためにISをつくりだしたの。でも始めは誰も、注目なんてしなかった。そして『偶然』起きた『白騎士』事件で注目をあびたわけだけどさ。」

束はわざとらしく間をおき、そしてわざとらしく笑った。

「結局使われるのは軍事目的としてだけ!他国より優位に立とうと武器ばっか作ってる!宇宙運用なんて誰もしないし、災害救助には自衛隊しか使わない!そして極めつけには各国IS器官襲撃・・・」

束は少し、眼を閉じた。

そして、次に発した言葉は全世界を驚愕させた。

「だから。束さんは、全ISコアの活動を停止させます」

報道陣が一斉にシャッターを切った。各IS関連企業は反発の声をあげた。

だが、束はそんなものがまるで聞こえていないかのようにその場をあとにした。

急いで束の研究室、『我輩は猫である』に戻ると、そこには織斑千冬がいた。

「よかったのか。これで」千冬は少し楽しそうだった。

「良いもなにも、束さんは印税でがっぽがっぽしたからね。これで何代も安泰だよ」束は顔の前に両手でVの字をつくった。

「まぁ、お前らしいな」

「所で、ちーちゃんはこれで無職になるわけだけど、束さんが養ってあげようか。」

「死んでもごめんだ」千冬は、心の底から嫌そうな顔をして答えた。

確かに、束がISのコアの活動を停止させることで、IS関連企業は大打撃を受け、小さい企業から次々と倒産した。大きい企業では新たな事業を開発し難を逃れたが、世界で約500万人の失業者が産まれた。もちろん、IS学園の教師陣も打撃を受けたわけである。

職をなくし、久しぶりの休暇。千冬は、久しぶりに自宅へと帰った。

長い間留守にし、誰も行き来しなかった家は、雑草が生い茂りどこか不気味な雰囲気を醸(かも)し出していた。

確かに自宅なのだが、あまりにもひさしぶりのためそこまで帰ってきたと言う感覚が生まれなかった。

一夏がIS学園へと入学してから初めての来訪者を招き入れた自宅から、行き場をなくし、熟した嫌な感覚のする空気が水を得た魚のように泳ぎ出てきた。

なかを見ると所々に埃が積もっている。この調子では色々なところにカビも映えているだろうと想像すると、今から嫌気が指した。

だが、自宅とは不思議なもので、そこにいると心が落ち着いた。

荷物をおいてリビングへと脚を踏み入れる。中学生の頃とあまり変わらない配置の家具。窓からはいる日差し。それらを見るたびに自分がどれ程家へと帰っていなかったかを知らされた。

何を見ても懐かしく感じる。床も、天井も、いつか一夏のつけた壁の凹みも、そのままだと言うのに。一夏は、もう、いない。

急に孤独が千冬を包んだ。

ここまで広い家。一人でいるには広すぎる。私は、一夏をここで一人にしてしまった。

悔やんでいても仕方ない。千冬はそう思い、掃除から始めることにした。

炊事も、洗濯も、掃除も、何一つ出来ない千冬にとって、ISを操縦する以上の苦行となることは目見えていた。

千冬は大きくため息をついたあと、窓を大きく開け放った。

白い蝶が一匹。部屋に入り込んだ。












 
 

 
後書き
『私』達は、道なき道を歩いていた。

芝生のような短い草に獣道が何本も延び、いくつにも枝分かれしている。

どんなに遠くを見ても、山もなく、ただ緑と土の色が続いている。

『私』達がゆっくりと歩いていく横を何人もの人が通りすぎた。

中には自ら壁を創り、座り込む人。脇道には眼をくれず、まっすぐと進む人。寄り道をしつつも確実に歩を進める人。まだまだたくさんの人が『私』達を越していった。

『私』達は、大きく獣道から外れてみた。

歩いたあとには、凹凸の激しい道ができていた。

つまずきながらも『私』達はゆっくりと、歩を進めた。

気づくと、『私』達は草原の中に立っていた。

どちらを見ても緑。来た道もわからなくなってしまった。

でも、『私』達はかまわず歩き続けた。

一歩一歩と、一見変わっていないようでも、ちゃんと景色は変わっている。

回りと少し違う草花。小さな生き物。

『私』達を越していった人々は気づかなかったであろうものを胸にしまい、『私』達は歩き続けた。

例えどんな景色が待っていようと、どんなにのろまと言われようと、『私』は『私』らしく歩いていける。

『私』はもう、一人じゃないから。みんなと、支え合えるから。

『私』から一匹。白い蝶がとんだ。 
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