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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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すれ違った時間の分だけ

「変わってないな、エルザ。もう俺が脱獄した話は聞いているか?」
「ああ・・・」

牢にいるはすのジェラールに戸惑いっているのか、エルザさんは弱々しい声で答える。

「そんなつもりはなかったんだけどな」

ジェラールはどうやら脱獄しようとしていたわけではないらしい。エルザさんが前に言っていた六魔将軍(オラシオンセイス)とは別の脱獄事件ってジェラールのことか。

「私とメルディとカミューニで牢を破ったの」
「私は何もしてない。ほとんどウルティアとお兄ちゃんでやったんじゃない」
「まぁ、メルディの魔法じゃあんま脱獄には使えねぇからな」

黒髪のウルティアさんと桃髪のメルディさん、そしてカミューニさんがジェラールの脱獄の経緯を話している。

「メルディ・・・」
「ん?」

ジュビアさんがメルディさんを見て感極まっていると、メルディさんがジュビアさんに視線を向ける。

「ジュビア!!久しぶりね!!」

笑顔で手を振って答えるメルディさんを見て嬉しそうな顔をするジュビアさん。ん?メルディ・・・

「カミューニさん」
「あ?」

俺はメルディという名前であることを思い出してカミューニさんに近づく。

「もしかしてカミューニさんの言ってたメルディって・・・」
「そ、こいつだよ」

カミューニさんはしれっと答えたけど、俺は正直動揺している。だって・・・

「俺・・・てっきり年下だと思ってました」

カミューニさんの話の印象だと俺よりも幼いイメージを持っていたけど、全然年上で驚いている。

「年下だぜ、実年齢的には」
「あ・・・」

言われてみて気づいたが俺たちは時が7年間止まってたんだ。だから年齢を追い越されていても何ら不思議はないか。

「ジェラールが脱獄!?」
「こいつら・・・グリモアの・・・」

ルーシィさんはジェラールが脱獄したことに驚いており、ナツさんはかつての敵の登場したことで少し殺気立っているような気がする。

「まぁ待て」

そんな2人を後ろからグレイさんがなだめる。

「今は敵じゃねぇ。そうだろ?」
「ええ」

グレイさんの問いにウルティアさんが答える。

「私の人生で犯した罪の数はとてもじゃないけど一生では償いきれない。だから、せめて私が人生を狂わせてしまった人を救いたい。そう思ったの」

ウルティアさんはかつて悪魔の心臓(グリモアハート)の煉獄の七眷属の1人として色々な悪いことをしてきたらしい。評議院に潜入していたって話も聞いたことあるし。

「人生を狂わせてしまった人々」

ウェンディはウルティアさんの狂わせてしまった人の中で一番最初に思い付いた人物の方へ視線を向ける。

「例えばジェラール」

ジェラールもウルティアさんによってゼレフの亡霊に取りつかれたことがあるらしい。それで乱心してしまい、エルザさんや仲間たちをキズつけてしまうことになったのだ。

「いいんだ。俺もお前も闇に取りつかれていた過去の話だ」
「ジェラール、お前記憶が・・・」
「はっきりしている。何もかもな」

ニルヴァーナの時はエーテリオンの影響で記憶喪失になっていたジェラールさん。だけど、今は記憶がはっきりしているらしい。それを聞いたエルザさんは驚きの表情を浮かべている。

「6年前、まだ牢にいる時に記憶が戻った。エルザ・・・本当に、何と言えばいいのか・・・」

ジェラールは罪悪感からか真っ直ぐエルザさんを見ることができない。

「楽園の塔でのことは私に責任がある!!ジェラールは私が操っていたの。だから、あまり責めないであげて」

ウルティアさんがそう言ってジェラールを弁護する。

「俺は牢で一生を終えるか死刑。それを受け入れていたんだ。ウルティアたちが俺を脱獄させるまではな」
「それって、何か生きる目的ができたってことですか?」

ジェラールに対してウェンディが質問する。

「ウェンディ、それとシリル。そういえば君たちの知っているジェラールと俺は別人のようだ」
「あ、はい!!そのことはもう解決しました」
「ちゃんと本人に会うことができましたから」

ジェラールにそう言われてウェンディと俺はそう答える。

「生きる目的・・・そんな高尚なものでもないけどな」
「私たちはギルドを作ったの」

ウルティアさんがそう言うとカミューニが手の甲を俺たちに見せる。そこにはかつての悪魔の心臓(グリモアハート)のギルドマークではなく、どことなく魔女の横顔を彷彿とさせるようなギルドマークが刻まれていた。

「正規ギルドでもない、闇ギルドでもない、独立ギルド。魔女の罪(クリムソルシエール)
「独立ギルド?」
「どういうこと?」
「連盟に加入してないってこと?」
「そんなギルドもあるんだ~」

ウルティアさん、レビィさん、ハッピー、シャルル、セシリーがそう言う。

魔女の罪(クリムソルシエール)、聞いたことあるぞ!!」
「ここ数年で数々の闇ギルドを壊滅させているギルドがあるとか」

ドロイさんとジェットさんはカミューニさんたちのギルドの名前を聞いたことがあるみたいだ。

「私たちの目的はただ1つ」
「ゼレフ」
「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

ジェラールの発した名前に俺たちは動揺する。

「闇ギルド、この世の全ての暗黒を払うために結成したギルドだ。二度と俺たちのように闇に取りつかれた魔導士を生まないように」
「オオッ!!」
「全ての闇を払うって」
「それってすごいことよね!!」

ジェラールたちの目的を聞いた俺たちはそれぞれ思ったことを言う。

「評議会で正規ギルドに認めてもらえばいいのに」
「脱獄犯だぞ」
「その手助けした連中だぞ」
「私たち、()悪魔の心臓(グリモアハート)だし」

グレイさんの言葉にジェラール、カミューニさん、メルディさんがそう返す。確かに見つかったら一発で捕まりそうなメンバーですよね。

「それに正規ギルドでは表向きには闇ギルドとはいえ、ギルド間抗争禁止条約がある」
「そんなのお構い無しに闇ギルドと戦ってる奴もいるけどな」

カミューニさんの言いたいことはたぶん俺たちのことだと思う。この間も六魔将軍(オラシオンセイス)と戦ってたしね。

「俺たちのギルドの形はこれでいいんだ」
「んで、あなたたちを呼んだのは別に自己紹介のためじゃないのよ」

ここに来て俺たちを呼び出した理由を教えてくれることにしたウルティアさん。

「大魔闘演舞に参加するんだってね」
「お・・・おう・・・」
「どこでそれを?」
「フィオーレ中で噂になってんぞ」

ウルティアさんにナツさんは自信なさげに答え、俺がどこで聞いたか聞いたらカミューニさんがそう答えてくれる。

「会場に私たちは近づけない。だからあなたたちに1つ頼みたいことがあるの」
「誰かのサインが欲しいのか?」
「んなわきゃねぇだろ!!」

ナツさんのボケに怒鳴るカミューニさん。ナツさんもよくとっさにそんなボケが思い付きますよね。

「毎年開催中に妙な魔力を感じるんだ。その正体を突き止めてほしい」
「妙な魔力?」
「なんじゃそりゃ」

ジェラールたちのお願いに俺とナツさんは疑問を感じる。

「大魔闘演舞にはフィオーレ中のギルドが集まるんでしょ?」
「怪しい魔力の1つや2つ・・・」
「俺たちも初めはそう思っていた。しかし、その魔力は邪悪でゼレフに似た何かだった」

ルーシィさんとレビィさんが俺の思ったことを言ってくれたのだが、ジェラールがそれを否定する。

「ゼレフに似た何かだと!?」
「それはゼレフに近づきすぎた俺たちだからこそ、感知できたのかもされない」

エルザさんとジェラールさんがそう言う。

「私たちはその魔力の正体を知りたいの」
「ゼレフの居場所を突き止める手掛かりになるかもしれないしな」
「もしかしたらゼレフの側近とかそんな奴が大会を見てるのかもしんねぇからよぉ」

ウルティアさん、ジェラール、カミューニさんが目的の意図を話してくれる。

「もちろん勝敗とは別の話よ。私たちも陰ながら妖精の尻尾(フェアリーテイル)を応援しているから。それとなく謎の魔力を探ってほしいの」

メルディさんたちも俺たちの勝利を願ってくれているらしい。ありがたいですね。

「雲を掴むような話だが、請け合おう」
「助かるわ」

エルザさんはどうやらジェラールたちのお願いを受けるようだ。

「いいのか?エルザ」
「妙な魔力の元にフィオーレ中のギルドが集結してるとあっては私たちも不安だしな」

エルザさんの言う通り、もしそれがゼレフの何かだったらフィオーレ中が危険に晒されるわけですしね。

「報酬は前払いよ」
「「食費!!」」
「家賃!!」

ウルティアさんの言葉にナツさん、ハッピー、ルーシィさんが食いつく。どんだけお金に困ってるんですか。

「いや、金じゃねぇんだ」
「だったら何なんですか?」

報酬といえばお金のような気がするんだけど、それはカミューニさんに否定されてしまった。

「私の進化した時のアークがあなたたちの能力を底上げするわ」
「「「「え?」」」」

ウルティアさんが水晶を手の甲で転がしながらそう言う。

「パワーアップ、といえば聞こえはいいけど、実際はそうじゃない。
魔導士の場合、その人の魔力の限界値を決める器のようなものがあるの。例えその器が空っぽになってしまっても大気中のエーテルナノを体が自動的に摂取してしばらくすればまた器の中は元通りになる」

ウルティアさんが魔導士の魔力の回復の原理を説明してくれる。

「ただ、最近の研究で魔導士の持つその器には普段使われていない部分があることが判明した。それが誰にでもある潜在能力、第二魔法源(セカンドオリジン)
「セカンドオリジン?」

聞き慣れない言葉に俺たちは頭を悩ませる。

「時のアークがその器を成長させ、第二魔法源(セカンドオリジン)を使える状態にする。つまり、今まで以上に活動時間を増やし、強大な魔法が使えるようになる」
「「「「「「「「「オオッ!!」」」」」」」」」」
「全然意味わかんねぇけど!!」

ウルティアさんの説明にその場にいた全員が喜ぶ。ナツさんは意味分かってないけど、ようはもう1つある魔法の器を使えるようにして単純に今の魔力の倍にするってことでしょ?よく分かってないけど。

「ただし、想像を絶する激痛と戦うことになるわよ」
「はわわわ・・・」
「ウルティアさんの目が・・・」
「怖い・・・」

ウルティアさんは俺たちにこの第二魔法源(セカンドオリジン)を使えるようにするための注意を先にしてくれる。その目はさっきまでの優しい目ではなく、恐怖を感じさせるほど赤く光らせている。

「全然構わねぇ!!ありがとう!!ありがとう!!どうしよう!?だんだん本物の女に見えてきたぁ!!」

ナツさんはウルティアさんに抱きつきスリスリしている。本物の女に見えてきたって、ウルティアさん女じゃないの?

「だから女だって!!」
「まだ引きずってやがったか」

どうやらナツさんの勘違いでウルティアさんを女装している男の人だと思ってたみたいだ。
そんなこんなで俺たちはウルティアさんの時のアークでできなかった3ヶ月分のパワーアップをすることになり、皆さん大盛り上がりを見せていた。
しかし、エルザさんだけはジェラールを見て険しい表情を浮かべていた。























夕方・・・

「が・・・あ・・・あが・・・」
「「・・・・・」」

ウルティアさんの魔法でパワーアップすることになった俺たちだが、ナツさんがその魔法陣をかかれるとすぐに白目を向きながら苦しそうにもがいている。

「うう・・・うあああ!!」
「服脱がなきゃ魔法陣書けねぇのかな?」
「あんたはそれ心配しなくていいんじゃない?」

苦しむナツさんを見て間抜けなことを言うグレイさんと突っ込みを入れるルーシィさん。

「頑張って!潜在能力を引き出すことは、簡単じゃないのよ」

ウルティアさんは真剣な表情でそう言うけど、あのナツさんの苦しみようを見るともう嫌になってくるんですけど・・・

「ちょっと・・・あれ大丈夫なの?」
「どんだけの痛みなんだよ」
「感覚リンクしてみる?」
「ざけんな!!」

ナツさんの苦しみようにルーシィさんたちも心配になってきたらしい。
メルディさんが自分の魔法でナツさんの痛みを体験させてあげようとしたが、グレイさんが怒鳴ってそれはやめさせる。ジュビアさんはそんなメルディさんを見て嬉しそうな顔をしてたけどね。

「ていうかもしかしなくても・・・」
「私たちもあれやるの?」
「泣きそうです・・・」
「もう泣いてるじゃない」
「だ・・・大丈夫~?」

俺とレビィさんとウェンディはナツさんを見て抱き合いながら迫り来る恐怖に怯えている。それを見たジェットさんとドロイさんは関係ないと逃げて行きましたけどね。

「情けねぇなぁシリル。男だったら諦めて潔く散れ」
「散れってひどくないですか!?」

怯える俺たちを見てカミューニさんは呆れてるけど、あんなのやったら本当に痛みでショック死するかもしれませんよ!!

「が・・・あ・・・」
「ナツゥ」

ハッピーも苦しむナツさんに心配しながら近づく。

「そういえばエルザは?」
「どこにもいないけど~?」

シャルルとセシリーはこの場にいないエルザさんの心配をする。そういえばジェラールもいないような・・・

「ジェラールと2人でどこか行ったよ」

ハッピーがそう言うとそれを聞いていたジュビアさんが、

「そういうことならジュビアたちも」
「どういうことだよ」

グレイさんをどこかに連れていこうとしたがグレイさんに素早く逃げられてしまう。メルディさんがそんな2人をじっと見つめていたけど、ジュビアさんとメルディさんって意外に仲いいんですね。

「あ・・・そうだ。カミューニさん」
「ん?」

俺はカミューニさんに聞いてみたいことがあったので声をかける。

「ちょっとだけいいですか?」
「あ?」

























砂浜の脇の森の中にて・・・

「相手の魔力の流れを見るだぁ?」

俺はポーリュシカさんからもらった魔法書に書いてあった一文についてカミューニさんに聞いて見ることにした。

「はい。そうすることで相手の魔法の種類とか強さとかを把握できるって書いてあったんですけど」
「つまりあれか?六魔のコブラの聞く魔法みたく相手の動きを知ることができるって訳か?」
「たぶんそうなんだと思いますね」

コブラは相手の思考と動きを聞くことができるって言ってた。俺のは相手の魔力の流れを見て動きを見極めるってところかな?

「それで、やり方がどこにも書いてなくって、もしかしたらカミューニさんなら分かるかな?って思って」
「なるほどなぁ・・・」

カミューニさんは事情を把握すると腕を組んで何かを考え始める。俺よりも魔水晶(ラクリマ)を持ってた期間はカミューニさんの方が長いし、もしかしたらヒントになるかも。

「遠くを見る時ってその一点に集中してるよな?」
「そうですね」
「だったら同じ原理で相手の魔力の器・・・(オリジン)の位置に意識を集中させれば見えるんじゃないか?」

カミューニさんはもっともなことを言う。確かに魔水晶(ラクリマ)の使い方なんてそれくらいしか分からないしな。

「てかその魔法書見せてみろ。なんか見落としてる点があるかもしれねぇし」
「そうですか?じゃあ・・・」

俺は持ってきていた魔法書をカミューニさんに手渡す。カミューニさんはそれをパラパラと見ていくと、あるページで手が止まる。カミューニさんは突然そのページを夕日で透かして見る。

「【水の流れを見るように、魔力の流れも見極める】・・・」
「?」

カミューニさんの呟いた一文に覚えがなく、覗き込んでみるとそこには夕日の光によって新たな一文が見えていた。俗に言う“透かし”というものである。

「なんだよ、魔法書自体にも目を意識させて見るための仕掛けがあるのか」
「そんなの気づかなかったらどうするつもりだったのかな?」

実際カミューニさんが気づかなかったら俺は間違いなく気づかなかっただろうし。

「もしかしたら他にも透かしとか炙り出しとかの嫌がらせがあるかも知れねぇぞ?」
「嫌がらせって・・・」

別にヴァッサボーネはそんなつもりでやったわけではないと思うんですけど・・・

「あとはなんとかしろや。とりあえず俺にわかったのはここまでだし」

カミューニさんはそういって魔法書を俺に渡し立ち上がる。

「帰るか。そろそろお前にもあの恐怖タイムが来る頃だしな」
「・・・・・」

ついに俺にもあの想像を絶するという痛みの時間が来てしまうのか・・・なんかもう泣きそう・・・

ドサッ

「「!!」」

俺が恐怖で涙目になっていると何かが俺たちの目の前の砂浜に転がってくる。その周りの植物から、金粉が舞い、辺りを黄金に輝かせていた。

「あれって・・・」
「エルザさん?」

転がってきたものの方を見るとそこには地面に横になっているエルザさんとそれに馬乗りになっているジェラールがいた。
2人は見つめ合い、何かを話しているようだ。

「何の話してるのかな?」
「おま・・・盗み聞きしようとするな」

俺が2人の声に耳を傾けているとカミューニさんがその耳を塞いでしまう。うぅ・・・いい展開なのに・・・
すると、エルザさんがジェラールの顔に手をそっと添える。
ジェラールもそれに答えるようにエルザさんの顔に手を添えた。このパターンはもしかして・・・

「き・・・キス・・・」
「見るなバカ」

カミューニさんは今度は俺の目を隠してしまった。でも大丈夫。俺にはこの目があるからね。2人の様子を見るのくらい簡単簡単。

互いの顔に手を添えた2人は次第に唇を近づけていく。そして、2人の唇が合わさったかどうかのタイミングでジェラールさんがエルザさんを引き剥がしてしまう。

「「?」」

何が起きたのかわからない俺とカミューニさんは黙ってその様子を見守ることにした。
ジェラールさんに引き剥がされたエルザさんの顔も心なしか動揺している。
2人の声は微かすぎて聞こえない。だったらこの目を使って読唇術で・・・
何かを発するジェラールさん。その唇はこう動いていた。

【婚約者がいるんだ】と。

それを聞いたエルザさんは驚いて距離をとる。慌てるエルザさんと黙り込んでしまうジェラール。

「カミューニさん・・・ジェラールさんの婚約者って誰ですか?」
「はぁ?」

俺の質問にカミューニさんが思わず声を出してしまい慌てて口を塞ぐ。

「ああ・・・あれだな。うん、お前の思ってる奴で合ってると思うよ」

妙に言葉を濁すカミューニさん。ジェラールさんの身近な人だとウルティアさんかな?メルディさんはカミューニさんだろうし。

「そっか・・・あの2人が・・・」
「まぁ・・・な」

どこかを見ながら答えるカミューニさん。でも、それだとエルザさん可哀想・・・だって楽園の塔って奴の時も8年くらいジェラールさんを待ってたんだよね?それなのにジェラールさんは他の女の人となんて・・・
俺がそんなことを思っているとカミューニさんがポンッと頭に手を乗せてくる。

「ガキのお前にはわかんねぇだろうけど、大人には色々あるんだよ」

カミューニさんはそれだけ言うと皆さんがいる方向へと歩き出してしまう。俺も急いで立ち上がってそのあとを追いかける。

「エルザの想いはジェラールに届いてるよ、シリル」

カミューニさんが何かを呟いていたが、その声は小さくて俺には聞き取ることができなかった。

























夜・・・カミューニside*

「「「「「「「「「「うわあああああああ!!」」」」」」」」」」

ビーチにあるテラスの中から聞こえてくるシリルたちの悲痛な叫び。俺たちはそのテラスの前で別れを告げようとしている。

「おかげさまで、みんなは動けそうにない」
「なんであんたは平気なの?」

俺たち4人を見送ってくれるのはなぜか魔法の痛みを感じることなく平然としているエルザ。こいつマジで化け物なんじゃねぇの?

「ギルドの性質上、1ヶ所に長居はできない。俺たちはもう行くよ」
「大魔闘演舞の謎の魔力の件、何かわかったらハトで報告して」
「了解した」

ジェラール、メルディ、エルザがそう言う。

「競技の方も陰ながら応援してるから、頑張ってちょうだい」
「できもしねぇことやろうとしてケガとかはすんなよ。かっこ悪ぃからな」

ウルティアはエールを、俺は無理しないように伝える。

「本当は見に行きたいけどね・・・」
「変装していく?」
「お!それ名案だな!!」
「やめておけ」

ウルティアの名案に乗っかろうとしたがダメだった。つまんねぇ奴だな。

「それじゃあまた会おう、エルザ」
「バイバーイ!!」
「みんなによろしくね!!グレイのことも、お願いね」

ジェラール、メルディ、ウルティアはフードを被り直して歩き出す。

「シリルとウェンディに伝えとけよ、結婚式は俺らも呼べって」
「なっ!!/////」

俺が冗談でそんなこと言うとエルザはリンゴみたいに真っ赤になる。なんでてめぇが恥ずかしそうにしてんだよ。
そして俺はメルディたちのあとを追いかける。エルザは俺たちの姿が見えなくなるまで、ずっとテラスの外にいて俺たちを・・・いや、ジェラールを見送っていた。























「謎の魔力・・・妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなに危険がなければいいが」

あは洞窟の中で俺たちは食事をしている。ジェラールはよほど奴等が心配なのか、そんなことを呟いている。

「まぁ、あの子たちならなんとかしちゃうかもって期待もあるのよね」
「散々困難を乗り越えて来てるギルドだからなぁ」

ウルティアと俺はそう言う。あいつらは何かと問題に巻き込まれる。むしろ、今回の魔力も実はあいつらを待っているのかもしれない。

「うん!!それよりさジェラール。どうして婚約者がいる、なんてウソついたの?」

メルディは夕飯を口に入れながらジェラールにそんな質問をする。

「う・・・聞いてたのか・・・」
「つーかシリルが読唇術で聞いたんだけどな」

さっき俺とシリルが聞いていたジェラールの“大嘘”はウルティアとメルディにちゃんと報告させてもらった。おもしれぇことになりそうだし。

「少しは自分に優しくしてもいいんじゃないの?それとも、自分への罰のつもり?」
「罰こそが魔女の罪(クリムソルシエール)の掟だろ?みんなで決めたじゃないか、光の道を進む者を愛してはいけない。俺はエルザが幸せならばそれでいい」

ジェラールは顔をうつむかせ、燃えている焚き火を見ながらそう言う。

「にしてももっとまともなウソなかったの?」
「最ッ低ねぇ、何カッコつけてんのかしら」
「男の風上にもおけねぇぜ」
「なっ・・・そこまでいうか!?」

俺たちから猛烈な批判にあい動揺するジェラール。

「つーか、シリルの奴がお前の婚約者、ウルティアだと勘違いしてたぜ?」
「なっ!?」
「なんでそうなるのよ!?」

俺がシリルの勘違いを伝えるとジェラールとウルティアはすげぇ嫌そうな顔をする。そんなに嫌か?この組み合わせ。

「ジェラールとウルティアが・・・アハハハハハッ!!」

メルディだけはシリルの勘違いを聞いて大爆笑してた。おかげで少し落ち込んでたジェラールにも元気が出てきたみたいだ。
まぁ、ジェラールのウソなんてエルザなら気づいているだろうし、これ以上気にするのはやめておこう。
その日俺たちはその場で休むことにした。
俺たちが夕食を食べ終わる頃、青い小さな動物が月に向かって飛んでいっていたらしいが、それがハッピーだったなんて俺たちには知るよしもなかった。











 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルのとんでもない勘違い、ジェラールとウルティアのカップリングってシリルの頭の中はどうなっているのか我ながら不安になりました。
次回もよろしくお願いします。  
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