戦国村正遊憂記
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第弐章
十……種ハ芽ヲ出ス
「っかー! また負けた! 村正ちゃん、強ぇなー」
「そうか? 君こそ手加減してるんじゃないか?」
村正と左近は、庭で賽を使った丁半博打をしていた。賭けるものは何もないのだが、それなりに楽しんでいる様でもある。
勝負は五分五分。村正も初心者なりに頑張っての結果である。
「だが、本来博打とは何かを賭けるものだろ?」
「いやぁ、賭けなくても楽しけりゃいーんだよ。それとも、そろそろ何か賭けたい?」
「じゃあ……首を」
「いやいやいや何言ってんの!?」
クスクスと笑う村正。可愛らしく、冗談、と言い放つと、ほっとした様な表情になる左近。
「冗談でも驚くからやめてくれよ……」
「ははっ、面白い男だ、君は」
さて、と村正は後ろを振り向く。その先には…………
「……貴様ら……!」
「おやおや、何てことでしょう。では左近さん、私は失礼しますよ……っと!」
「いでっ!!」
村正は左近の頭を踏み台に、屋根の上へ飛んでいってしまった。
残された左近は当然……
「三成様すいませえええええええええん!!!!」
「はぁ……平和だ」
空を見上げれば、雲一つない快晴の空が広がる。妖孽血刀、と呟いて刃を太陽にかざしてみる。刃は爽やかな空を背景に、鈍く妖しく映った。
「おお、ぬしが村正か」
「ん、そうだよ」
宙を浮く輿に乗った男が、太陽を隠す様に現れて村正に話しかける。その身体は包帯に包まれ、異形ではあったが、村正は気にしない。
その反応に男は少し驚いたような反応を見せる。
「われは大谷吉継。刑部、と呼ばれておる」
「刑部さん、だね? 宜しく!」
その手を優しく握る村正の白い手。刑部はまた驚く。
「病が」
「知ってるさ」
ニコリと笑う目の前の女の手を、無意識に握り返す。その己の行動すら、刑部には驚くべき事であった。
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