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真田十勇士

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巻ノ七 望月六郎その三

「地の利がある」
「その地の利を活かしてですか」
「徳川家と戦うのですな」
「それが我等の戦ですな」
「左様、そしてその戦う豪傑を手に入れる為の旅じゃが」
 他ならぬ今の旅である。
「間もなく橋じゃな」
「ですな、その橋におる者」
「一体どうした者か」
「是非見たいですな」
「それが結構いい男なのよ」
 ここで不意に一行の声がしてきた、一行がその声の方を見ると巫女の格好をした長い黒髪に切れ長の目を持つ艶やかな女がいた。鼻は高く透き通る様な肌だ。歳は二十歳を少し越えた辺りであろうか。その女がだ。
 妖艶な笑みを浮かべつつだ、こう幸村達に言うのだった。
「惚れる位に」
「御主は」
「旅の巫女と言えばいいかしら
 こう清海に答える。
「それで」
「その手にある笛を吹いてか」
「旅の路銀としているわ」
「ほう、笛か」
「聴くのなら銭をもらうわよ」
「いや、生憎それがし達には余分な銭がない」
 幸村が妖艶な笑みを浮かべる女に答えた。
「残念だが御主の笛を聴くことは出来ない」
「何なら簡単な曲を吹いてあげるわよ。その曲は銭はいらないわ」
「それでも聴けば銭を払うのが義理というもの」
「真面目に言うわね」
「こうしたことは守らねばな、御主もそれで生きているのであろう」
「そうよ」
「では聴く訳にはいかぬ」
 銭を出せぬとあればというのだ。
「また会った時に銭があればな」
「聴くんだね」
「そうさせてもらう」
「そう、わかったわ」
「それはそうとじゃ」
 由利は女に鋭い視線を向けて問うた。
「御主橋の男を知っておるか」
「さっき橋を渡ったからね」
「それで男を見たのか」
「拳が強そうでね、しかも動きも素早くて」
「強いからか」
「いい男だよ、旦那に欲しいね」
「巫女で亭主が欲しいか」
 由利は女のこの言葉にはどうかと返した。
「それはせめてその服を脱いでからにせよ」
「これは上段よ、これでも身持ちの固い女でね」 
「まことか?」
「そうよ、だから旅の間も身体は売らないわよ」 
 そうしたことはしないというのだ。
「あれは下手したら瘡毒にもなるからね」
「あれは厄介な病じゃ」 
 瘡毒と聞いてだ、穴山も顔を顰めさせる。
「罹ったら最後身体が病みきり腐って死ぬ」
「だからね、そうしたことはしないよ」
「それは何より、身体は大事にせめばな」
「その通りだね、それでお侍さん達は橋に行くんだね」
「そうじゃ」
 今度は海野が女に答えた。
「これからな」
「そうだね、それで会ってどうするんだい?」
「拙者が相手をする」
 根津が女に言う。
「そうする」
「そうするんだね、見たところ剣を使うね」
「わかるか」
「その腰の立派な二本差しと格好を見ればね」
 根津の袴まで見ての言葉だ。
「わかるよ」
「そうか」
「じゃあいい勝負をするんだよ」
「うむ、そうしてくる」
「頑張りなよ」
「それではな」 
 こう話してだ、そしてだった。
 女は笑ってだ、幸村達にこうも言った。 
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