ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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出発と契約
前書き
本当なら、一昨日くらいに更新できたんですが……まぁ、たまにあるうっかりで消してしまい、遅くなりました。
あれだね、一度書いた後に消えると、消失感とか絶望とかやる気の低下とかが凄い。
塞ぎこむレベル
ナンバ・式
Lv6
力 I 91→G 298 耐久 I 81→G 289 器用 I 73→G 231 敏捷 I 98→F 302 魔力 I 94→G 274
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スキルと魔法には変化がないため割愛させてもらおう。
【ロキ・ファミリア】、【ヘファイストス・ファミリア】との遠征を明日に控えた前日の夜。俺は【ステイタス】の更新のためにバルドル様の部屋を訪れていた。
あの食料庫の事件の日から一度も更新をしていなかったが、評価Iだった俺のステイタスは軒並みGにまで上がった。敏捷に関してはFにまで到達している。
「相変わらずの伸びっぷりだねぇ……」
「ハハ、なんかすみません」
共通語に訳してもらったステイタスが書き込まれた羊皮紙を眺めていると、目の前のバルドル様がはぁ、とため息をついた。
まぁこれが原因で昔他の神様から疑われたのだから仕方ない。というか俺が原因だがらすごく気まずくなってしまう。
俺は苦笑いで謝った。
「いいよ。もう。それで強くなってくれるなら僕も嬉しいから」
グッ、と腕を真上に上げて伸びをするバルドル様はそのままベッドにパフンっ、と倒れ込む。顔を枕に埋めながら数秒、息苦しくなったのか顔を横に向けて視線をこちらに向けた。
見た目少女なだけに、男神だと知らなかったらドキッとしてしまうであろうシチュエーションだ。
今度、リューさんverで見てみたい。
「にしても、もう明日か……大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。俺、ちょっと変わってますから」
「う~、だからこそなんだけどなぁ……」
「安心してくださいよ。【ロキ・ファミリア】の精鋭もいますし。俺も一応Lv6ですから」
ヨイショッ、とベッドから身を起こすバルドル様を横目に、俺は更新のために脱いでいた上を羽織った。
「それでも心配なんだよ。君は昔から変わらず無茶をするときがあるからね。今は強くなったからそういうのはなくなったけどさ」
「本当、心配性ですね、バルドル様は」
呆れたような仕草をするバルドル様にそう答える。
心配性のこともそうだが、性格やら癖やらも昔から全く変わってない。
超越存在である神様たちは不変だから当たり前なのかもしれないが、内面は育ってくれてもいいような気がする。
「当たり前だろ。ダンジョンなんて、何が起こるか分からないんだから。それに、最近はロキ達の騒動に関わってるから余計にだよ。この前の話を聞く限り、五十九階層にも何かあるらしいし」
「ですね。ただ俺も死ぬつもりでいくわけじゃありませんし、バルドル様はホームでドンッと構えて待っといて下さいよ」
「分かってるよ。僕は君の主神だからね。あと式。もしもの時はあの魔法の使用を許可しておく」
「……マジですか?」
あの魔法というのは王の軍勢で間違いないだろう。
俺の命の危険を感じたとき以外では、バルドル様かハーチェスさんの許可なしで使うことを禁止された魔法。
「【ロキ・ファミリア】に見せることになりますよ?」
「だろうね。ただ、僕は情報漏洩どうこうよりも、眷族の身の方が大切だからね」
「バルドル様……」
「それに、そう思っているのは僕だけじゃない。ハーチェスもエイモンド、このファミリアの皆が思っていることだよ」
ね、と微笑んで見せるバルドル様。
なんと温かいのだろうか。心地よいのだろうか。
包み込むような優しさが身に染みる
「……バルドル様」
「ん? どうしたんだい?」
「俺、このファミリアで良かったです」
「……フフ、そういってもらえると、神様冥利につきるね」
ちゃんとお帰りって言わしておくれよ? と念を押されて、俺はバルドル様の部屋を出た。
「ええ。必ず。ただいまって言わせてもらいますよ」
誰もいない廊下でただ一人、俺の声が闇に消えていった。
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「それでは、行ってきますねバルドル様」
「ああ。気を付けるんだよ」
翌日、つまり【ロキ・ファミリア】との遠征の日。
肩の袋に四つの得物を入れてバベルに向かおうとする俺を皆が玄関口まで見送りに来てくれていた。
「皆さんも、行ってきます」
「うん。頑張ってね、式」
「ハーチェス様のことなら任せておきなさい」
「気落ちしたら、筋トレするといいっすよ!」
「……しっかりな」
「気張ってこいよ」
「体には気を付けてくださいね」
「フッ、暫く帰れないんだろ? なら、今のうちにこの僕の美貌を目に焼き付けておくことだ」
「あ、あの、式さん! ファイトです!」
そうやって声をかけてもらうなか、俺は皆に手を振って出発した。
時間的にそろそろ【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】が集まってくる時間のはずだ。
遅刻するのは流石に印象が悪いと思い、少し歩を速める。
フィーネさんももうそろそろ来るだろう。【ロキ・ファミリア】の人達に宣伝する約束をしてるからそれもやらなければ。
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式が急ぐなか、【ロキ・ファミリア】の面々はすでに中央広場に移動していた。
装備品と物資を積んだ大型のカーゴを何台も伴い、バベルの北門正面から距離をおいた場所で待機していた。
泣く子も黙る道化師のエンブレムが刻まれた団旗、そして都市最大派閥の面々に周囲から注目と喧騒を集めて、出発の時を待っていた。
「おう、【剣姫】! 全くもって久しいな、壮健であったか?」
「椿さん……」
アイズがバベルを見上げていると、真横から声がかかる。
左眼を眼帯で覆う鍛冶師、椿・コルブランドだ。
彼女は今回の遠征についてくる鍛冶の大手ブランド、【ヘファイストス・ファミリア】の団長でオラリオの中でも随一の腕を持つ最上級鍛冶師。更にLv5ときたものだ。
東洋の人間を彷彿とさせる顔立ちの彼女は、実は極東出身のヒューマンと大陸のドワーフの間に生まれたハーフドワーフ。だが、ヒューマンの血を濃く受け継いでいるのか、手足はすらりと長く、身長も一七〇Cに届く。
島国独自の真っ赤な袴に、上は大陸式の戦闘服。正に和洋折衷といったところか。腰には得物である漆黒の鞘に収まった太刀が差されていた。
これで【ヘファイストス・ファミリア】も合流である。
「今日から、よろしくお願いします」
「うむ、任された。だが畏まる必要はないぞ? 手前も行きたいから付いていくのだ」
気さくな態度で理由を告げた椿は、からからと笑うと何かを発見したようだ。
「お」と言ってからアイズから視線を外すと、その男のもとへと向かった。
「いたな、ベート・ローガ。無理強いして滅茶苦茶な予定で銀靴を手前に作らせたのだ、また壊したら承知せんぞ」
「ほいほい壊すかよ、わかってるっての。それより、おいっ、近づくんじゃねえ!?」
怖いもの知らずの光景に周囲から畏怖が集まるなか、ふと、アイズに近づく影があった。
「やぁ、【剣姫】、調子はどうだ?」
「……ルルネ、さん?」
そらは【ヘルメス・ファミリア】所属の盗賊。犬日とのルルネ・ルーイ。
以前の食料庫の事件で知り合った冒険者だ。
「どうして、ここに……?」
「『遠征』の見送り、かな。お前には何度も助けられてるし」
これ、差し入れな、といって自身がよく使うという携行食の入った小袋を差し出すルルネ。
そして、その影で青水晶をアイズに手渡した。
アイズやルルネに度々接触してきた黒衣の人物からということらしい。
また今度酒を飲もうと約束し、その場を去るルルネ。
その他にも、よく利用する【ディアンケヒト・ファミリア】の治癒師である銀髪の人形のような少女が選別として高等精神力回復薬や高等回復薬、万能薬を持ってきたり、個人的に親交のある冒険者と話したりなど、たくさんの冒険者が未踏達領域に挑む冒険者を応援していた。
「フィン、まだ出発しないのか?」
「ん? ああ、リヴェリアか」
【ロキ・ファミリア】の首領であるフィンの隣でリヴェリアがそう尋ねた。
「まだ待っている冒険者がいるんだ」
「……なに? 【ヘファイストス・ファミリア】のところで遅れているものでもいるのか?」
「いや、そうじゃないんだ」
勿体ぶるように話すフィンに、リヴェリアは顔をしかめた。
「今回の遠征はロキの提案であと一人、同行してもらうことになっている」
「私は聞いていないのだが……なるほど、ロキか」
あれがやりそうなことだな、と納得したリヴェリア。そんな中でもフィンは北のメインストリートの先を見据えていた。
「うん、どうやら来たみたいだ。君も知っている冒険者だから、安心はしていいはずだよ」
フィンの言葉につられて、リヴェリアも視線をそちらにやる。
見えたのは、紫の羽織袴に身を包んだ、一人の青年であった。
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「ありゃ、一寸ばかり遅かったか?」
道中でフィーネさんに回復薬を手渡されたので少しだけ時間をくった。
曰く、ホームをほったらかしてどっかにいった変態神を探さねばならないとのこと。
まぁ、こうしてちゃんと届けてもらえただけでもありがたいことだ。宣伝はしっかりとやっておこう。
「すみませんフィンさん、遅れました」
「いや、まだ時間じゃない。大丈夫だよ」
出迎えてくれた【ロキ・ファミリア】の団長さん、フィン・ディムナに軽く挨拶。
小人族ということもあってかなり幼く見えるが、実際は四〇を越えているのだとか。
流石【勇者】。恐ろしいぜ。
「リヴェリアさんも、お久しぶりです」
「ああ、久しいな。なるほど、確かに式なら安心できる」
「そういってもらえると、嬉しいですね。……あ、フィンさん。この回復薬、一緒に入れてもらってもいいですか?」
そう言って、俺はフィーネさんから渡してもらった商品をフィンさんに見せた。
「ああ、構わないよ。……ところで、これはなんだい? 見たことのない回復薬だけど……」
よしっ! 食いついた!!
「俺がお世話になってる【アスクレピオス・ファミリア】のオリジナル商品ですよ。こっちが強化薬でこれが付与薬。それぞれ、一定時間アビリティをあげたり一定時間毒とかの耐性をつけたりできるんですよ」
「へぇ、それはいい。今度僕も行って、買ってみることにするかな」
「ええ。効果は保証しますよ」
味は別だけど。
まぁ、これで約束は果たせたのでよしとしよう。
俺はフィンさん促されるまま、持参した回復薬を積ませてもらった。
「それじゃ、今日から暫くよろしくお願いします」
「ああ。こっちもね。よろしく」
「よろしくな、式」
二人と握手を交わして、俺はその場から離れる。
士のやつも来ているらしいから、ここで顔を出しておいてもいいだろう。
「バンダナ、もしくは禿げだから見つけやすいとは思うが……」
「おい、お前」
「あ?」
士を探そうとしてまだ一分もたたないうちに呼び止められた。
このセロリのような声、そして挑発的な口調からして俺は一人しか知らない。
「何か用か? 狼」
「何でてめえがここにいんだよ」
【ロキ・ファミリア】幹部の狼人ベート・ローガ。別名狼
「何でって……俺も同行するんだよ」
「お前そんなこと一度も言ってねえだろ」
「おう。言ってないからな。詳しいことはフィンさんに聞けよ?」
んじゃ、とローガに別れを告げると俺は先程の捜索の続きを再開する。
探すのはバンダナ、もしくは禿げの青年ヒューマンだ。
「バンダナ禿げっはど~こっかな~」
「……それは誰のこと言うてんのか聞いてもええか?」
「もちろん、禿げ……士のことだ」
「今禿げ言うたよな!? 言い直しても言った後やないかっ!!」
今日は赤いバンダナを頭に巻いた士が同じ鍛冶師達の間をぬって現れた。
遠征のため、今日はいつもの作業服ではなく、ダンジョン探索用の戦闘服にその身を包んでいた。
士は極東の人間だが、大陸風のものを好むのは昔から変わっていないな。
「んで? ここにおるっちゅーことはお前も遠征かいな」
「おう、流石禿げ。分かってるな」
「せめて言い直せや! それと、これはスキンヘッドや言うてるやろ!」
「そうやって叫んでたら、髪の毛がバックオーライしちまうぞ?」
「元々髪の毛は生えてないわ! ……いや、生えてないんやなくて剃ってるだけやからな!?」
うむ、狙った通りに嵌まってくれてお兄さん嬉しいよ。
「まぁ、そんなお前の剃りすぎてもう二度と生えてこない毛のことはどうでもいいんだ」
「……いろいろツッコミたいのは山々やけどな。とにかく、お前さんもついてくんねんやな?」
「そういうこと。ま、これからよろしくな、士」
もう疲れたといった表情の士に右手を差し出す。それを見た士も、はぁ、とため息をつきながら右手で握り返した。
「……お前さんの武器がふざけたもんやのは分かっとる。ただ、何かあったら持ってこい。見てやるくらいはできるからな」
そして辺りを見回して誰もいないのを聞いているやつがいないのを確認すると「あと、振りだけでも研磨とかはやっといたほうがええ」と小声で付け足した。
こいつは、【物差し竿】とか【破魔の紅薔薇】のことを知っている数少ない外部の者だ。
まぁ、不壊属性ついてて、尚且つ威力切れ味も下がらない一級品なんて、そんな壊れ性能な武器存在するのがおかしいものな。
最初見たときは驚かれた。家宝だと説明してはいるがな。
「ーー総員、これより『遠征』を開始する!」
士と話し込んでいると、そんな声が正面から聞こえた。
顔を向けてみれば、そこには左右にリヴェリアさんとガレスさんを伴ったフィンさんの姿。
「階層を進むに当たって、今回も部隊を二つに分ける! 最初に出る一班は僕とリヴェリアが、二班はガレスが指揮を執る! 十八階層で合流した後、そこから一気に五十階層へ移動! 僕らの目標は他でもない、未踏達領域ーー五十九階層だ!!」
フィンさんの声がこの場の全てのもの達の耳朶を震わせた。
見上げるバベル。その下にあるモンスターどもの巣窟。
「君達は『古代』の英雄にも劣らない戦士であり、冒険者だ! 大いなる『未知』に挑戦し、富と名声を持ち帰る!!」
「犠牲の上に成り立つ栄誉は要らない!! 全員、この地上の光に誓ってもらうーー必ず生きて帰ると!!」
俺は無意識に拳を作る。
「遠征隊、出発だ!!」
さぁ、遠征開始だ!!
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「式さん、もう出発したんでしょうか」
「さぁな。つかお前も気ぃ引き締めろよ。このあと、来るんだろ?」
「はい」
正面のソファーで寝転ぶヒルさんにそう言われた俺は無意識に背筋を伸ばした。
今日は昨日訪ねてきたという【熊紋】と【銅鑼衛門】の制作者、ヴェルフ・クロッゾさん。その人が今日改めて俺を訪ねてくる。
鍛冶師の人と会って話をすることになるとは思ってもみなかったため、少しだけ緊張してしまう。
「スウィード。ヴェルフ・クロッゾ様がいらっしゃいましたよ。ヒル、そろそろ」
「おう、了解。んじゃ、落ち着いてやれよ」
勢いをつけて立ち上がったヒルさんは、パディさんと共にリビングから出ていった。そして、入れ違うようにして入ってきた真っ赤な髪に黒い着流しを着た男。年は俺よりも少し上に見える。
「あなたがヴェルフ・クロッゾさん、ですか?」
「お、おう。そうだ。……てことは、お前が俺の作品を買ってくれたっていう……」
「【バルドル・ファミリア】所属、スウィード・バルクマンです。どうぞ、こちらへお座りください」
元々狩人の俺には礼儀も何もあったものではなかったが、そこはパディさんに色々と教えてもらった。
俺の対応が丁寧だったことに少し驚いたのか、クロッゾさんは「あ、ああ」と緊張した面持ちで俺の正面に座った。
「あんまり緊張しなくても大丈夫ですよ、クロッゾさん。楽にしてください」
「わ、悪いな。こういうとこは慣れてなくてよ……あと、クロッゾさんは止めてくれ。ヴェルフでいい。敬語も止してくれると助かる」
「……分かった。正直、慣れてないから喋りづらかったからさ。助かるよ」
「俺もそっちの方がいいぜ」
そこで漸く落ち着いたのか、ヴェルフはニカッと笑った。まだ若干緊張気味だが、先程よりもぎこちなさは抜けている。
「それじゃ、早速用件を聞こう。今日は俺に用があって来たんだろ?」
その話に入ると、ヴェルフは「おう、それだそれ」と言って少しだけ身を乗り出す。
「聞けばお前さん、俺の名前だして武器を探したって聞いたんだが、それは合ってるんだよな?」
確か……出したな。
弓を探すときに店員さんに「ヴェルフ・クロッゾさんの弓ってありませんか?」と聞いたと思う。
そのことを店員さんから聞いたのだろう。
俺はヴェルフの問いに首肯した。
「嬉しかったぜ。冒険者の方から態々俺の作品を求めてくれたって聞いたときはよ。なんだ、こう、俺の作品を認めてくれたみたいでさ」
「そんな大袈裟な……」
「って思うだろ? ところが、そうじゃねえんだなこれが」
聞けば、ヴェルフさんのような下っ端の鍛冶師は客を奪い合っているらしい。有名になれば誰も彼も寄ってくるが、無名だとそうはいかず、結局は未熟な冒険者がたまたま値段をみて買っていくというものなのだようだ。
「あんまりないんだよ。お前みたいに冒険者の方から俺みたいな下っ端の鍛冶師の作品を求めてくれるのは」
「鍛冶師も大変なんですね……」
今まで、武器の製作者とか全く気にしたことがなかったけど、末端の鍛冶師にとっては冒険者との繋がりはかなり重要なもののようだ。
「でも、ヴェルフくらいの腕なら、売れそうな気がするんだけど……」
「だろ! そうなんだよ。自分でいうのも何だが、いい作品は出しているつもり……なんだが、購入される手前で返却される。解せねえ」
話を聞くと、俺の買ったものを含めてまだ四つしか売れてないのだとか。
……名前が問題なのでは? と言うのは止めておこう。素人が口出ししても仕方ない。
かくいう俺も、帰ってから初めて武器の名称を知ったわけだし。
「それで? その話のためだけに来たんじゃないんだろ?」
「おう。単刀直入に言わせてもらう。スウィード、俺と直接契約しないか?」
直接契約……確か、式さんがガドウって人と契約してるって言ってたっけ。
何でも、冒険者はドロップアイテムを持ち帰って、鍛冶師は冒険者のために武器を作って格安で譲る。ギブアンドテイクの関係。
少しだけ考える。
ヴェルフはLv1。だが、Lv1であれだけのものが作れるのだ。なら、【ランクアップ】して『鍛冶』のアビリティが発現したとき、どれ程のものができるのか。
……これは、俺にとってもいい話だろう
「……分かった。ヴェルフとの直接契約。結ばせてもらう」
「本当か!!」
「おう。よろしく頼む、ヴェルフ」
「こっちこそだ! いや、断られるの覚悟で来たんでな。ダメ元でも言ってみるもんだ」
ソファーの背にもたれて一安心といった様子のヴェルフ。
「何で断られると思ったんだ?」
「何でって……そりゃ【バルドル・ファミリア】なんて上位派閥、下位構成員でもコネで有名な鍛冶師と契約すると思ってたからな」
「どうなんだろうね。俺もそこらへんはあんまり知らないから」
その後、正式な契約書は後回しにすることになり、二人で色々と話した。
基本、ヴェルフの愚痴が多かったが、年が近くてこうやって親しく話せる人は少ないのでかなり楽しかった。
途中、パディさんが紅茶を淹れに来て、ヴェルフが恐縮していたが、それ以外はなんともなかった。
「それじゃ、今日はありがとな。これからもよろしく頼むぜ」
「こっちこそ。また」
ヴェルフを玄関まで見送り、今日の話し合いは終了した。
俺はヴェルフが帰ったあと、リビングに戻る。
集まっていた先輩たちにことの次第を話し、直接契約することになったことを伝えた。
「スウィードが直接契約っすか~。よかったっすね!」
「ありがとうございます」
「それで? やっぱ、魔剣でも打ってもらうのか?」
「……え?」
魔剣? て、どういうことだろうか。
「フッ、その顔はなにも知らなかった顔だね」
いつものように髪をなびかせながら立ち上がるエイモンドさん。
「ヴェルフ・クロッゾ。間違いなく、彼の鍛冶貴族の家系だろうさ」
「鍛冶貴族?」
「昔、王国で名を馳せた魔剣鍛冶師のことだね。何でも、あの家が打った魔剣はそこらの魔剣とは比べ物にならない威力があったらしいよ」
「噂じゃ、海を焼き払ったとかあるな」
「……」コクリ
「や、焼き払ったって……」
そんなすごい人だったのか、ヴェルフは
先程まで、話していたヴェルフの顔が頭を過る。
「でも、私達エルフには良い印象はないらしいわ」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。『クロッゾの魔剣』で、同胞の里や森が焼かれたとも聞くしね。恨んでいるのもいるんじゃないかな」
ま、僕らは違うんだけど、と付け足したエイモンドさん。
なんでも、王国に仕えていたクロッゾ一族は、魔剣を作ることで地位を得たとか。
王国も『クロッゾの魔剣』を兵士に所持させ、圧倒的な火力をもつ軍で他国を攻めたとか。
そのお陰で、連戦連勝の不敗神話だったようだ。
「ま、用はそんなけすげえもんが打てる一族ってことだよ。で? スウィードも作ってもらうのか?」
ヒルさんのその言葉に皆の視線が俺に集まる。
「確かに興味はあるんですけど……俺はあんまりですかね」
「そうなの?」
「はい。なんか、魔剣使っても、それは俺の力じゃないような……流石に四の五の言ってられない場合には使いたいとは思うんですけどね」
それに……と俺は付け足す。
「俺の憧れは、もっとすごいと思ってますから」
「「「「「「「ああ、なるほど」」」」」」っす」
あの人、魔法も使ってないのに魔法みたいなことしちゃうからなぁ……
それに、ヴェルフが魔剣を打てるなら、今頃もっと有名になっているはずだ。
でもそうじゃないってことは、何かあるのだろう。
とにかく、俺はそこまで魔剣を求めているわけではないのだ。できれば、式さんみたいになりたいと思っている。
今はこの場にいない憧れに思いを馳せ、俺はグッと拳を作った。
後書き
自己解釈で直接契約は複数人可にしてます。描写がないしね。
あと、スウィードの考え方に「嘘だっ!」と思うかも知れませんが、そういうことにしておいてください。あれです、気にしたら負けってやつ
感想待ってます
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