鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
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24.つまり私の使命とは
前書き
おまけ
「エアリー、って言うの?私、アイズ」
「へぇ~そうなんだ?よろしくアイズ!」
「で、エアリー………ちょっと触ってもいい?」
「へ?………きゃあっ!返事していないのにもう触ってるし!?」
「不思議……お人形さんみたいだけど、あったかい」
「わひゃあ!?く、くすぐったいからそんな所触っちゃだめぇっ!?助けてぇ~ティズ~!!」
暫く好奇心の赴くままにエアリーを触り尽くしたアイズであった。
その日、運命を変える出会いを果たしたティズは後からやってきたロキ・ファミリアの面々に非常に丁重に連行された。自覚は無かったが、なんと1週間も寝込んでいたらしい。
重篤患者の癖に魔物と喧嘩して崩落現場に向かうなんて何考えてるんだ!と周囲にものすごく怒られたが、同時にとても心配されていたらしい。ついでに先走ったアニエスとアイズ(彼女の名前はそこで知った)も叱られていた。
エアリーはティズの道具ポーチの中に隠れてしまった。何でもクリスタルの精霊の存在が神に知れれば大変な事態に陥る可能性があるそうだ。自身の存在自体を黙っていて欲しいと頼まれたティズは、素直に頷いた。正教と神の仲の悪さは噂に聞いていたのでその点は心得ている。
とはいえ、もし万が一神の質問の過程でエアリー関連のことに触れられると、嘘や隠し事は看破されてしまう。流石に人生初めて出会う神のロキと出くわしたときは隠しきれないかと不安になったが、幸いにもロキはそんなことより自分の身を案じてくれた。
「無理したらあかんで、ティズ・オーリア………顔は平気そうにしとるし心も今は落ち着いとるけど、それだけで癒えるほど心の傷は単純やあらへん。それはなんとなく分かるやろ?その身体も少しいたわりぃや」
「はい……神様」
「………キミの家族たちの魂は、天上の神がしっかり導いてくれる。せやから、キミはキミの生き方をするんや。死者の声は地上までは届かんけど、少なくともウチらロキ・ファミリアはキミが生き残ってくれたことに感謝しとる」
生きててくれてありがとう、とロキは言った。
そして、ひとりしか助けることが出来なくてすまなかった、と。
自分を知る者が誰も居なくなったこの世界で、見ず知らずの自分の身を案じてくれる存在がいる――そう考えると、抑えた筈の涙がまた零れ出た。
その後、カルディスラ王との謁見やこれからの事を話す機会があった。
王はティズを憐れみ住む場所を用意してくれると言ってくれたが、もうエアリーと話し合って今後の方針を決めていたので断らせてもらった。怒られるかな、とも思ったが、王は逆にティズの夢を後押ししてくれると約束してくれた。
「そこまでしていただけるなんて……僕、なんとお礼を言っていいか……」
「よいのじゃ。我等は結局お主以外は誰も助けることが出来なかった……なれば、残った希望に手を貸すくらいのことは王としてやらせてくれ」
為政者として、自らの統治する土地の民を助けられなかったことへの後悔あったのだろう。
王が悪いわけじゃない。全てはあの大穴がやったことだ。
「……ありがとうございます!僕、どんなに時間がかかっても必ずやり遂げてみせます!――ノルエンデ村の復興を!!」
ティズに出来た二つの目的。
一つはエアリーと共に大穴を消し去ること。
そしてもう一つが、ノルエンデ村の復興。
王には一つ目は言っていないが、二つともティズの悲願であることに変わりはない。
大穴を消し去る冒険を達成するのに王国の力は借りられない。しかし、村の復興に王国の全面協力は外せないことだった。
――復興が完了したら、王様に改めて感謝しよう。
そう、心に決めた。
= =
「………というわけで、僕は今日から『ノルエンデ村復興計画代表』に着任しました!……とはいっても、今は復興の為の人員を集めなければいけないから名ばかりですけど。つきましては、人員募集のためにオラリオに復興支部を置いて人を募集することになりました」
「なるほど……急にオラリオに連れてってくれとか言い出すから何事かと思ったら、そういうことかいな」
旅支度を整えてやってきたティズに何事かとざわついたロキ・ファミリアだったが、いち早く状況を理解したのは主神ロキだった。
「あの王も中々イキなことするやないか……まさかオラリオでスカウトさせるとはなぁ」
一見して無理のありそうな内容だが、オラリオに他国の人間がスカウト等に訪れるのは決して珍しいことではない。腕に覚えのある冒険者や、道具作りや薬物調合を学んだ者はオラリオの外ではなかなか得られない貴重な人材でもある。
ファミリア同士の競争率が高いオラリオにあっては、様々な理由でフリーになったり行き場を失う冒険者、あるいは冒険者として上手く行かずに燻る人材は多くいるものだ。中にはオラリオ内で生きていくことに不安を感じる人もいる。ティズはそんな人をスカウトして復興計画に参加させていこうというのだ。
計画参加者はカルディスラ王国の名の下に衣食住を保証され、村の完成に貢献した者や入村希望者には国籍をも用意する。治安が良くて移住者に寛容なカルディスラなら計画内容も信用に値するし、待遇としてはかなり好条件に分類される。
流石に前科者や乱暴者となるとその限りではないが、その辺はギルドと連携して上手くチェックすることになっているようだ。そのための書類や証明書なども含め、考え無しの計画ではない。
「ところでこの計画……ファミリアの参加も可能なんか?」
「ファミリアの参加、ですか?いえ、そういうのは全然……そもそも冒険者の人達は参加できないんじゃ?」
「計画そのものには参加できひんでも、オラリオ内でのスカウト活動を手伝ったり人材の仲介をしてくれるファミリアは考えてもエエと思うで?パンフとかを置いてもらう代わりに予算から礼金をあげるとかな。ただ、反結晶派の連中の勢力争いに巻き込まれるんも面倒やから出来るだけ勢力のちっちゃいファミリアを相手にした方が……」
「オラリオには旅行客も多いから、宿なんかおさえておいた方がいいんじゃない?」
「暇な時で良ければあたしたちも手伝うよ!」
「道は長いが踏ん張れよ、ティズ!がっはっはっはっ!!」
普段はこの手の事に興味がなさそうなファミリアのメンバーも、ティズのことを後押しした。
全てを失った少年の門出を、少しでも応援してあげたいのだろう。
あの災厄を奇跡的に生き残り、目が覚めるなり驚くべき行動力を発揮し、その翌日には王国の役人と化していたティズ。しかし、その心の傷はまだ深く刻まれたままだ。逆に行動していないと犠牲になった人々の事を思い出してしまうのかもしれない。
それでも、前へ。喪ったものを取り戻すように、前へ。
そんなひたむきな姿勢こそが彼の強さなのかもしれない。
ロキ・ファミリアはその日、カルディスラ王国からオラリオへの帰路についた。
魔物撃退のノウハウなども可能な限り伝授したため暫くは魔物に対応できるだろうが、危機が訪れたら本格的に他国への救援を考えるそうだ。
問題は根本的に解決していないが、あくまで一ファミリアに過ぎない彼等がずっと守っていくのは無理だ。業者の馬車から身近い付き合いだった城下町が次第に遠ざかっていく。
これから暫くこの地には戻れない。
知らない人だらけの街で、家族とも故郷とも離れて。
決して一人ではない。それは分かってるけど――
「さよなら、カルディスラ……いつか僕の夢が果たせたら、また戻ってくるから……」
自分の膝を抱いたティズは、小さく呟いた。
= =
その日の、夜。
ティズとエアリー……とティズのことを若干恨めしそうに睨むアニエスと、エアリーを頭の上に乗せてご満悦そうなアイズは、他のファミリアが寝静まったことを確認して静かな会合を始めた。
ロキには特にエアリーの事を知らせる訳にはいかなかったので念入りに確認したが、アイズ曰く腹を出してぐーすか鼾をかいていたとのこと。ちょっぴり神様のイメージが崩れたティズだった。
議題は言わずもがな、「世界を救う方法」である。
最初に口を開いたのは、言い出しっぺのエアリーだった。
「えっと……まず、アニエスはティズを睨むのやめようね?」
「うっ………わ、わかりました」
巫女をそっちのけで話を進めることなど許せない!と言わんばかりのアニエスは元々この話に参加する気満々で、エアリーも「知る権利があると思う」と同席を許した。が、未だに自分を差し置いて精霊に認められたティズの事に納得しきれていないらしい。
「それとアイズ?エアリー、本当にアイズの頭の上にいていいの?」
「昔読んだ物語で、主人公と妖精がこんなふうにしてたの」
どうやらそれに憧れていただけらしい。余程ご満悦なのかそのゆるみきった顔は実年齢より数歳幼く見えるほどだ。
この会合に参加させていいのだろうか……?とも思ったが、他言無用という約束には素直に頷いてくれた。アイズはアイズで自分なりにロキが危険視する大穴の塞ぎ方に興味があるようだ。
「さて、どこから話そうかなぁ………アニエス!世界に存在する人々の願いの結晶――すなわち大クリスタルは、いくつあると思う?」
「ナダラケス砂漠の奥にある風の神殿にある『風のクリスタル』、隣の大陸にある内海フロウ・ラクリーのそばにある水の神殿の『水のクリスタル』、中立エイゼンベルグの領地内であるカッカ火山の内部に存在する火の神殿の『火のクリスタル』……そしてエタルニア公国管轄地、不死の塔の地下にある土の神殿の『土のクリスタル』。大クリスタルと呼ばれるのは四大元素を司るその4つです」
「さすがは現役の巫女!場所までばっちり把握してるなんてエライわ!………でもね。実は大クリスタルはもう一つあるのよ」
「え……!?」
これにはティズとアイズも驚いた。4つのクリスタルは世界的にも知名度のある世界の理の一つである。その大前提が目の前でいともたやすく覆されるなどと、予想だにしていなかっただろう。
「これはきっとクリスタルの精霊たるエアリーしか知らない衝撃の事実なの!……そもそも、クリスタルは人の願いが固まってできた物よ。その存在を、人々が最初から四大元素なんて小難しい理屈こねて考えてたと思う?……答えはノー!4つのクリスタルは元々一つのクリスタルだったの!言うならばそれが、根源結晶ね」
「では、今ある4つのクリスタルはその根源結晶を何らかの方法で分けて作られた物なのですか!?」
「ちょっと違うかな……4つのクリスタルは、元々根源結晶から切り出されたものなの。言うならば4つのクリスタルは根源結晶の眷属みたいなもの!今も4つのクリスタルは大本のクリスタルとリンクしているわ」
世界の法則の更なる大本。これを正教の人間が聞いたら「出鱈目を言うな!」と怒ったことだろう。アニエスの知る限り、正教の教えにそんなものは欠片も登場しなかった。だが、それを説明しているのは他でもない、予言に登場したクリスタルの精霊本人。どちらを信じるかと問われれば、やはりエアリーの方だろう。
アニエスは正教での勉強では教わらなかった衝撃の事実に動揺しつつも、エアリーに質問する。
「何故、オリジン・クリスタルの存在が正教に伝わってなかったのですか?」
「カンタンなことよ!根源結晶を手に入れた人は、やりようによっては4つのクリスタルを遠隔操作して世界のバランスを崩すことだって出来るのよ?逆に自分の都合のいい法則を付与したクリスタルを増やすことだって出来る。そんな強大な力の存在を知ったら絶対に奪い合いになるわ!そして奪い合いの末に世の法則は乱れ………世界は滅茶苦茶になってしまう」
「確かに。反結晶派の神なら絶対欲しがる……あるいは破壊したがるかも」
「国も黙ってないよ。クリスタルの近くにある国はその属性の加護を大きく受けるって聞いたことがある。それをもしも全部手に入れられるんなら……誰だってもっといい生活を求める筈さ」
アイズとティズも、それは容易に想像できた。そしてその結果が悲惨な奪い合いに発展するであろうことも。だが、そんな中でアニエスがぽつりと呟いた。
「………そういうものなんですか?」
「へ?」
「え?」
「あ、あの……すみません。神殿から外にはほとんど出たことがなくて、国や神の動向についてはあまり知らなくて……」
恥ずかしそうに顔を逸らしながら尻すぼみな声で告げたアニエス。
一番真面目そうな彼女がまさか話について行けていないとは……なんとも気まずい沈黙が流れる。
そういえば、とアイズは思い出す。
巫女は清貧を貴び、一日中神殿に籠って祈りを奉げるのが日課だそうだ。
つまり、外――つまり世俗との繋がりは殆ど無い。さすれば必然、社会情勢に疎くもなるだろう。アニエスの事を友達として支えたいと思ったアイズだったが、かくいうアイズもそこまで博識な方ではない。
「アニエス」
「なんですか、アイズ?」
「……一緒に勉強しよう?」
「………お、お願いします」
その文脈だとアイズがアニエスの勉強に付き合う流れになっているが、アイズはリヴィエア辺りに頼む気満々である。噛みあってるんだかないんだかよく分からない二人であるが、仲良き事は美しきかな。同じ世間知らず同士、波長の合う部分があるのだろう。
「えっと……話を戻すわよ。ノルエンデを呑み込んだあの大穴なんだけど、あれはこの世界の法則に穴を空ける異物なの。つまりクリスタルの力とは対を為す邪悪な物!アニエスの話だともう神殿への襲撃があったんだよね?それもきっと大穴の影響なの。簡単に言えば、魔物の襲撃でクリスタルを弱めて世界の法則に綻びを作り、そこを大穴が貫いた!……ってこと」
「……ねぇ、エアリー。その言い方だと『誰かがこの大穴を意図的に空けた』ように聞こえるんだけど」
「え……そ、そうかしら?あの大穴から凄く嫌な感じがしたからそんな風に言っただけなんだけど……」
「それよりも、です!」
ずいっとアニエスが話に割って入る。
「原因はともかく、対処法です!一刻も早く大穴を塞がなければ他の神殿でも悲劇が繰り返されるかもしれないのです……教えてください、エアリー!」
「そ、そうだよ!エアリー、僕はまだオラリオに世界を救う手がかりがあるって事しか聞いてないよ!?」
家族同然の修道女たちを失ったアニエスと故郷を丸ごと失ったティズの二人は、異様な迫力でエアリーに迫る。百戦錬磨の冒険者であるアイズも迫力にちょっと引くくらい、二人の表情は鬼気迫っていた。それだけ、二人はこの話に命を懸けているのだ。
二人の様子を見たエアリーは、ふぅ、と小さな溜息をつく。
「なんだかなぁ……ちょっと出来過ぎてるよね、この状況」
「ど、どういうこと!?」
「ティズ、実は今まで言ってなかったんだけどね?オラリオの地下には、今でこそダンジョンになってるけど昔は根源結晶の安置場所だったの」
「え……!?それじゃ、クリスタルはもうダンジョンに呑まれて……?」
まさか、既にクリスタルは失われているのでは――最悪の予想が頭をよぎる。
だがエアリーはそれを否定した。
「ううん、今も多分ダンジョンに取り込まれる形でクリスタルは存在している。力の流れを感じるの。そして、世界の化身とも言える根源結晶の聖なる祈りの力を一気に解放すれば……大穴の邪悪な力も消し飛ばせる筈!なのよ!」
4つの大クリスタルの祈りの力もまた、根源結晶に流れ込んでいる。そこに込められた力は、間違いなく4大クリスタルを凌駕する。まさに世界を変える力と呼ぶにふさわしい。
「やり方は分かった。でも、祈りの解放ってどうやるんだい?」
「祈祷による解放――つまり、クリスタルの巫女による祈りによって根源結晶に巫女たちが蓄えてきた力を一気に解き放つことが出来る。そのために巫女の協力者が必要だったんだけど……」
その目線は、風の巫女アニエスの方へ。
「まさかエアリーの契約者だけでなく巫女までこんなに早く見つけられるなんて、上手く行きすぎて怖いわ……」
ここで幸運使い果たしていませんように、などと祈っている精霊を前に、ティズとアニエスは顔を見合わせる。話を要約すると、こうだ。
「つまり僕たちは、これからダンジョンに潜ってその根源結晶を見つけなきゃいけないと?」
「そして、その場には巫女である私も行かなければいけない?」
「付け加えるなら、現役で冒険中のファミリア達に先んじて発見することが好ましい……のかな?」
「そうね。現状、いつ他の神に見つかってもおかしくないもの」
暫く顔を見合わせた二人が口にした言葉は――
「ちょ、ちょっと待ってくれエアリー!こんな華奢な女の子をそんな危ない所に連れて行くなんて危なくて出来ないよ!!」
「ま、待って下さいエアリー!話を聞く限りではティズは何の関係もないではないですか!こんな危険な事に無関係な人を巻き込むのは……!」
奇しくも、二人の思いやり……もとい対立を決定付けることとなった。
後書き
この二人の関係は、この時点で原作と相当違います。
その辺は次回、みんな大好きロリ紐神様に説明してもらいましょう。
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