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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第38話 光の中にたたずむ誰かへ

 
前書き
どうも、蛹です。
早速、前回のあらすじと今回の簡単な流れ。
終盤、〔音速裂波(ソニックバスター)〕の使用によって"鎧虫"の撃破に成功。
しかし、同時に重傷だったジェーンが倒れてしまう。
倒れた彼女を抱え、悲痛な叫び声を上げるホークアイ。
その頃、地上でも別の戦いが行われていた。
それは二人をどのようにして救出するかについてである。
果たして、アスラ達は二人を救うことが出来るのか!

それでは第38話、始まります!! 

 
「テメェ!何しやがった!!」

アスラは葉隠の胸ぐらを掴んだ。
表情と襟を掴む手からは怒りが感じられた。

「俺は何もしていない。お前らとはもう
 敵対する気はないからな。やったのは俺の仲間だ」

葉隠は傷を押さえたまま淡々と言った。

「敵対する気がないなら何で止めなかったんだ!!」

アスラは葉隠に向かって叫んだ。

「タイミングは向こうに任せてある。
 止めるには仲間と距離があるし
 なにより連絡手段がなかった」

葉隠は傷を押さえていない手を広げた。
その表情は怪我人のわりには余裕そうだ。

「‥‥‥‥‥そうか‥‥‥‥」

アスラはそうつぶやくと
葉隠の胸ぐらから手を離した。

「じゃあ、お前は何であの時笑ってたんだ?」

アスラは比較的落ち着いた声で訊いた。

「‥‥‥‥‥賭けて見たかったのさ」

その一言は意外だったのか
アスラの表情は驚きの一色に染まっていた。

「お前らといた‥‥‥‥アイツ等の‥‥‥運を‥‥‥な」

そう言うと、葉隠は気絶した。
アスラの脳裏に止めを刺すべきかという疑問がよぎったが
彼自身はそこまでの悪人ではないようなので
殺すまでのことはないだろうということで、しないことにした。

「‥‥‥アスラか?」

葉隠を見下ろしていたアスラの後ろから
いつものあの声が聞こえたので、アスラは振り返った。

「迅!」

そう、迅がついに麻酔が切れて目を覚ましたのだ。
右手で頭を押さえたり、叩いたりしている。
無理やり薬で眠らされた分のガタがきているようだ。

「‥‥‥‥ッッ!‥‥‥‥麻酔針か‥‥‥」

迅は右肩から麻酔針を引き抜くとつぶやいた。
それを捨てると、アスラが近くに寄って来た。

「迅!大丈夫そうか?」
「あぁ‥‥‥‥頭が少し痛いぐらいだ」

そう言いながら迅が前を向くと
さっきまでアスラに隠れていた葉隠が
木にもたれ掛かっているのが見えたようだ。

「そいつは‥‥‥‥‥お前が倒したのか?」

それを聞かれた瞬間、アスラは
若干悔しそうな表情を見せた。

「いや、ホークアイと一緒に倒した」

それを聞いた迅は驚いた。

「ホークアイとやったのか。あいつもなかなかやるなぁ」

そして、嬉しそうにこう言った。
しかしアスラは笑ってはいなかった。

「でも、罠にはまった」

これを聞いた迅の表情は強張った。
若干の煙、爆発により変わってしまった地形。
周りの状況からすぐにそれを理解したのだろう。

「‥‥‥‥‥‥分かった」

迅の声は落ち着いているようだが
動揺は隠せていなかった。

「とりあえず、あの男から罠に着いての話を聞―――――――!?」

葉隠が木にもたれ掛かっているはずの
方向を見た迅は声を出すことなく目を見開いていた。

「どうしたんだよ迅?‥‥‥‥‥‥まさか」

アスラもそれに気づいて後ろを向いた。
そして、目の前の光景に目を見開いた。

「いない‥‥‥‥‥!?」

木に力なくもたれ掛かっていて
意識もついさっき失ったばかりの葉隠が
いつの間にか姿を消していたのだ。
まさか、気絶したのは演技かと最初は思ったが
さっき斬った傷はまだ再生途中だったはずなので
普段通りに動けるはずがないので、音で見つかるはずである。
しかし、事実姿を消している。

「おそらく、仲間の仕業だろうな」

迅は言った。そう言われてみれば
爆弾を作動させた仲間がいるはずだった。
しかし、それでも二人に気付かないように
葉隠をどうやって移動させたのだろうか。

「でも、今はマリーとリオを起こすのが先だ」

そうだ、穴に落ちて行ったホークアイとジェーンを
一刻も早く助け出さなければいけないのだ。
そのためにはまず人手が足りないのだ。

「行くぞ、アスラ」

そして、二人はそこまで走って行った。



    **********



「痛って!‥‥‥針とは珍しい武器を使うなぁ」

リオさんが針を左足から引き抜いて捨てながら言った。

「今回はオレ達、全然役に立たなかったな」
「まぁ、そう言う時だってあるさ」

迅からの一言にリオさんは
不自然な体勢で寝ていたために
寝違えたのか首を回しながらそう答えた。

「ところで、ホークアイとジェーンの姿が
 全く見当たらないんだが、どこに行ったんだ?」

その問いに関して答えるのをためらっているのか
迅はしばらく口を閉ざしたままでいた。

「うぅ‥‥‥‥頭痛い‥‥‥」

マリーが気分の悪そうな顔をして起き上がった。

「あと‥‥‥お尻が何だかチクチクする‥‥‥」

マリーが自分のお尻を撫でながらつぶやいた。
おそらく、先程の麻酔針によるものだろう。

「アスラ、お尻ケガしてない?」

マリーはアスラにお尻を向けた。
それを見た瞬間、アスラは赤くなった。
ズボンの右側にあいた小さい穴から
肌色が覗いていたからだ。

「あ、穴開いてるから、隠した方が、いいかも‥‥‥」
「え?わっ、本当だ!」

触ってみて気付いたマリーは
顔を真っ赤にして片手で穴を隠した。

「これが刺さってたのをジェーンが抜いたんだ」

アスラはリオさんが足から抜いた麻酔針を見せた。
マリーはズボンにあいた穴が見えないように
アスラと反対にお尻を向けて針を受け取った。

「‥‥‥‥こんなに長いのが刺さってたの?」

マリーの顔が少し青ざめていた。
一体どんな状態をイメージしているのかは知らないが。

「先っぽが少しね」
「先っぽだけか、それなら良かった」

おそらく、結構深く刺さっている状態を
イメージしていたのだろう。
だが、実際にそんな事になっていれば
お尻が痛い程度では済まされないと思うのだが。

「でも‥‥‥傷になったりしないかな?」

マリーはお尻を撫でながら心配そうにつぶやいた。
女の子なのでやはりそう言う事が心配なのだろう。

「大丈夫だよ、"鎧人"の再生力なら絶対治るって」
「‥‥‥‥‥‥うん、そうだね♪」

アスラにそう言われて自信が出て来たのか
マリーは笑顔でうなずいた。

「お前ら、俺達がいること忘れてないか?」

リオさんが二人の雰囲気に若干呆れながら言った。
その隣の迅は、その光景を微笑ましそうに見ていた。
傷の話をしたからなのか、迅の右側の火傷の痕に目が行った。

『"侵略虫"や"鎧人"でも酷すぎる傷は治せないのか?』

アスラの頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
傷と言えば、ジェーンの再生力の低下も気になった。
さすがに短期間に立て続けに重傷を治していたら
再生力も落ちてくるのだろうか。
それに、迅の火傷もそうだ。
顔面の右側のほとんどがその痕に覆われている。
それは小さいころに火事とか事故で受けた傷なのか。
それとも、つい"将軍"時代の傷が未だ癒えていないのか。
どちらにせよ、この事が気になった。

『‥‥‥‥‥‥‥でも』

この話をすると、とても悲しそうな表情を見せる。
そして、何度言及しても話を誤魔化されるのだ。
あの迅がそれほどまでして話したくない事に
まだ今は触れるべきではないのだ。

「迅、早く二人を助けに行こう」
「‥‥‥‥‥あぁ」

アスラの言葉に、迅は彼が何を考えていたかを察したのか
少し微笑むかの表情で返事をした。

「二人?おい、その二人ってもしかして‥‥‥」
「ジェーンちゃんとホークアイの事?
 助けるってどういう意味なの?」

現状を把握できていない二人を
ホークアイとジェーンの埋まった場所まで連れて行った。



    **********



「ここに‥‥‥‥二人がいるの?」

マリーは心配そうにアスラに訊いた。
彼は声を出さずにゆっくりとうなずいた。

「でも、どうやって助けるんだよ?」

リオさんは迅に訊いた。
それはアスラも疑問に思っていた。

「最初は岩をひたすらどかそうかと思ったが
 これで安定していると言う事は、下手に岩をどければ
 逆に残りが崩れてしまう可能性がある」

分かりやすく例えると、クレーンゲームで
山積みになっている人形の中から
一つの物を狙おうと引っかけて取り出すと
それによって山が崩れてしまうというものだ。
変な日本語だが、不安定に安定しているのである。

「じゃあ、俺の冷気でそこら一帯の岩を全部固めて持ち上げるか?」

リオさんがそう提案した。しかし、迅は首を横に振った。

「だめだ。それだと全部の岩が凍り付く前に
 隙間と隙間が氷で塞がって空気が供給されない。
 岩をすべてどかす前に二人が窒息死する」

リオさんが苛立ちに頭を掻きながら言った。

「そもそも、二人は生きているのか?」
「えっ‥‥‥‥ホークアイと‥‥‥ジェーンちゃんが‥‥‥‥」

マリーの目から涙が滲み出て来た。
顔がくしゃくしゃになりかけた瞬間にアスラは言った。

「いや、多分二人は生きてる」
「えっ!?」

マリーとリオさんは驚いた。
アスラは理由を述べた。

「葉隠の性格を汲んで仲間も多分即死レベルの罠を
 設置することはないと思う。それに、さっき葉隠が
 『アイツ等の運に賭けてみたくなった』って言ってたんだ。
 岩の下敷きになって死ぬような罠なら何も賭けようがないからな」

それを聞いたマリーは涙を手で拭いて息をついた。

「そっか‥‥‥良かった‥‥‥」
「でも、埋まってて危ない事に変わりはないぞ?」

リオさんの言う通りだった。
二人が生きていることが分かっても
岩をどける方法が分かったわけではないからだ。

「迅、お前の"超技術"ならいけるか?」

リオさんが迅にそう訊いた。
そうだ、そう言えば迅も"超技術"を使えるのだ。
少しの間、考え込んで彼は答えた。

「‥‥‥‥無理だな。乗っている岩の数が分からない。
 それに上から見えるだけでも大量に積まれてるから
 この岩を全てどかすのは難しいだろうな」

どういう"超技術"かは分からないが
さすがの迅でも無理との事らしい。

「マリーはどうだ?」

考えていたマリーは言った。

「私の"空間切断(スペースカッター)"は名前通り空間を切るだけだから
 切った瞬間にそこから全部崩れちゃうと思う。
 それに、最近になって加減は出来るようになったけど
 どのくらい深いか分からないし、間違って二人まで
 怪我させそうだから、あんまりしたくない‥‥‥‥」
 
マリーは自分のロシアでの"超技術"の発動を思い出していた。
加減が分からないで、コップどころかその向こうのドアまで
斜めに切れたのだ。もしも、このようなミスをしてしまって
二人が死んでしまったなら、おそらく彼女は立ち直れないだろう。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥クソッ」

アスラは拳を握りしめた。

「オレも"超技術"が使えれば‥‥‥‥‥」

その拳を顔の前に上げて睨みながらつぶやいた。

「迅も、リオさんも、マリちゃんだって使えるのに
 日本刀でただ斬ることしかできないオレじゃ二人を救えない‥‥‥‥」

悔しさに歯を食いしばるアスラの肩に
リオさんは手を置いた。

「仮に次の瞬間から使えるようになっても
 それが二人を救える能力とは限らないだろ。
 今は俺たちで出来る限りの事をやるんだ」

そして、腕を組んで考え始めた。
迅もマリーもその隣で必死に考えている。
アスラもそれに加わろうとした瞬間だった。


 ガラガラガラガラガラガラガラッ!!!


突然、岩が大きく崩れ出した。
それは、ただでさえ不安定だった岩同士の均衡が
下でジェーンが"音速裂波(ソニックバスター)"を使ったことで
"鎧虫"を粉々にすると同時に、超音波で岩山に刺激を与えて
その安定が完全に崩れてしまったからだった。


――地下――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ガラガラガラガラガラガラガラッ!!

真っ暗闇の中に轟音が響き渡っていた。
しかし、ホークアイの中に不思議と恐怖はなかった。

「‥‥‥おい‥‥お前の歌がヘタクソなせいで
 上の岩が降って来そうじゃねぇか‥‥‥‥‥」

そう抱えているジェーンに話しかけるが
返事をせずにただ力なく倒れていた。

「‥‥‥‥返事ぐらい‥‥‥しろよな‥‥‥‥」

彼は弱々しくそうつぶやいた。
岩が崩れたことで空気がさらに薄くなったようだ。
しかし、彼は表情一つ変えることなくつぶやいた。

「‥‥‥‥最近、お前よく‥‥‥泣いてるからな。
 一人じゃ‥‥‥寂しいだろうし‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

薄い息を吸うとホークアイはつぶやいた。

「‥‥‥‥オレが‥‥‥‥付いて行って‥‥‥‥‥やるよ‥‥‥‥」


 ドサッ
 

その一言を最後に彼は気絶してしまった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「クソッ、リオッ!岩をどかすぞ!!」
「おうッ!!」

迅とリオさんが急いで岩をどかし始めた。
しかし、それは焼け石に水のように見えた。
どけてもどけても、下にあるのは岩ばかり。
二人はかなり素早く動けるが、それでも
崩れる岩の中から二人を救うのは
間に合わなさそうだった。

「クソォッ!!」

アスラは地面に伏せて両手を握りしめ
悔しさに歯を食いしばっていた。

「アスラ‥‥‥‥‥‥」

マリーは迅たちの手伝いに行こうと
声をかけようとしたが、彼の発する雰囲気から
彼女は名前を呼ぶことしか出来なかった。

「オレに‥‥‥‥力があれば‥‥‥‥‥‥」

 ダンッ!!

アスラは両腕を力強く叩きつけた。

「オレに!!!」



































「えッ!?」

アスラはいつの間にか立っている自分自身に驚いていた。
そして、目の前の光景を見てさらに驚いた。

「ここは‥‥‥‥‥‥‥‥」

見渡す限り緑色の草原、というより花畑に近かった。
しかし、咲いている花々は全く見たことがない。
始めは白い花弁に見えていたが、よく見ると
花のように見えていたモノは全て光の粒だった。
しかも、それは風に吹かれて青空に飛ばされている。
まるで小さいころに見たタンポポの綿毛を
吹いて飛ばした時の光景にそっくりだった。
見渡す限り、光の粒が舞い散っている。
それは、とても幻想的な光景だった。

「あら、お客さん?」

花畑の中から女性の声が聞こえて来た。
その声によってハッと我に返ると
目の前に、いつの間にか女の人が立っていた。
真っ白なワンピースに麦わら帽子。
その服装とは対照的な黒い髪が風に流れていた。
麦わら帽子を上げると、縁の黒い眼鏡をかけていた。
似たような雰囲気の人を知っている気がする。

「こんにちは」

女の人は麦わら帽子を取って、笑顔で挨拶をした。
その瞬間、アスラの目から涙が流れた。

「えっ、あっ、な、何で‥‥‥‥‥?」

突然のことに戸惑いながらアスラは涙を拭った。
アスラは彼女の顔を見ていると、忘れている何かが
心の底から溢れて来るかのように感じた。
やはり、この女の人をオレは知っている。
アスラはそう確信した。

「ごめんなさい、驚かせて。今日はどうしても
 あなたとお話がしたかったの」

彼女は笑顔でそう言った。
そして、一度くるりと回った。
真っ白なワンピースがヒラヒラとはためいていた。

「ここは私があなたと会うことを許された場所。
 お花畑なのは、ここが一番私が落ち着くから♪」

降って来た光の粒を手の平で受け止めた。
暖かくて優しく降り注ぐ太陽の光からは
彼女の雰囲気に近しいモノを感じられた。
この世界と彼女はまるで同じ存在のようだった。

「あの‥‥‥あなたは一体‥‥‥‥」

アスラが彼女にそう訊いた瞬間
僅かに風が強くなった気がした。

「‥‥‥‥‥私は"明日香(アスカ)"。
 あなたと同じ、日本人よ」

アスラはそれを聞いて絶句した。 
 

 
後書き
アスラと同じ日本人であり突如現れた謎の女性、明日香(アスカ)
光の花畑の中に麦わら帽子を被ってたたずんでいる彼女こそ
今回の題名にある"誰か"にあたるのです。彼女はいったい何者なのか。

迅も、実は"超技術"を使うことが出来ます(前にどこかで書きましたが)
そして、やっぱり気になる顔の右半分を覆っている火傷の痕。
さらに何と、迅は今話まで身体を一度も変身させていないのです。
意外と近くにいた謎多き男、迅(最初から人類の味方な事も含めて)
彼の詳細は、後々に順を追って説明していきます。

いつの間にか、光の花畑に立っていたアスラ。
その世界へと彼がいざなわれたのは何故なのか。
そして、現実での岩山の崩壊は大丈夫なのか。

次回 第39話 光の先へ進むあなたへ お楽しみに! 
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