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バリトン

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第二章

「だから皆にそれを見せるよ」
「バリトンの素晴らしさ」
「それを」
「そう、見せるよ」
 こう言ってだ、そのうえでだった。
 彼はバリトン歌手としてのキャリアをはじめた、最初は小さな劇場で小さな役を演じていたがその役でだった。
 モーツァルトの端役だったがだ、それでもだ。
「いいな」
「そうだな」
「あの若い歌手いいぞ」
「歌だけじゃない」
 最早歌の技量は言うまでもないレベルだった。
「演技も抜群だ」
「舞台映えもしているし」
「もっといい役を出来る」
「ああ、そうだな」
「じゃあ次の舞台ではよりいい役をやってもらおう」
 劇場のスタッフ達はこう話してだ、ゴンドールに今度はメインの役を与えた。その役でも彼は見事な舞台を見せてだった。
 今度は大きな劇場で歌う様になった、彼はモーツァルトから評価がはじまった。
「ドン=ジョヴァンニも見事だ」
「パパゲーノもいけるじゃないか」
 声域が広いのでだ、バリトンの中では高い声域のパパゲーノだけでなく低めのドン=ジョヴァンニも歌えたのだ。
「グリエルモもな」
「いけるじゃないか」
「特に伯爵だ」
 その伯爵はというと。
「アルマヴィーヴァ伯爵もな」
「あの役が特にいいな」
 フィガロの結婚では敵役と言っていいこの役がというのだ。
「高貴で知的だ」
「元々あの役はそうした役だ」
 作品の中では主人公フィガロの恋人スザンナを狙っている敵役である、しかしその役は本来はというのだ。
「高貴な役だ」
「そう、あの伯爵は決して下品じゃない」
「気品がありしかも人間味もある」
「悪人ではないのだ」
 確かに好色さを見せてはいるがだ。
「幾ら劣勢になっても諦めない」
「そして自らの非も認める」
「人間として魅力があるのだ」
「その魅力をよく出している」
「しかもドイツ語も上手だ」
 パパゲーノが出る魔笛はドイツ語の作品だ、ゴンドールノの母国であるイタリアの言葉とは違う。だがそれでもなのだ。
「これは逸材だぞ」
「モーツァルトだけじゃなくな」
「他の歌手の作品もいけるぞ」
「ロッシーニはどうだ?」
「ベルリーニもどうだ?」
「フランスオペラも悪くないぞ」
 こうしてだ、周りはゴンドールノにどんどん役を勧めていった、それで彼は次第に色々な役を歌っていき。
 歌う劇場もレベルが上がっていった、そして遂にだった。
「スカラ座でか」
「あそこで歌うのか」
「しかもセヴィーリアの理髪師のフィガロか」
 ロッシーニの代表作の一つだ、その作品の主役である。
「それを歌うのか」
「凄いじゃないか」
「スカラ座で主役なんて」
「歌手として一つの到達点だぞ」
「いや、まだだよ」
 だがゴンガールノはだ、周囲に笑って話した。
「それはね」
「ああ、バリトンもまた素晴らしい」
「テノールと同じだけ」
「君はそれを世に見せたいんだったな」
「だから」
「そう、それでね」
 このことを見せる為にというのだ、だからこそだった。
 スカラ座で主役になった、だがそれで終わりではないというのだ。 
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