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ティナラクブラウス

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第四章

「その山間部に住んでいるティボリ族の服です」
「あっ、ティボリ族は」
「ご存知ですか」
「はい、名前は」
 レギニータは女の人に答えた。
「聞いています」
「私の祖母がティボリ族の出身で」
「それでその服をですか」
「着ています。それでなのですが」
 女の人からレギニータに言って来た。
「お話は長くなりますか」
「詳しくお聞きして宜しいですか?」 
 切実にだ、、レギニータは答えた。それも即座に。
「その服のことを」
「わかりました、では」
 女の人が自分から見て右手にある喫茶店を一瞥した、そのうえでレギニータに対して微笑んでこう答えた。
「あちらのお店で」
「お願いします」
 こうしてだった、二人で喫茶店に入って。
 そのうえでコーヒーを飲みながら話をした、女の人はレギニータに話した。
「まずはティボリ族のことからお話しますね」
「はい」
「ミンダナオの山間部に住んでいまして」
 先に話してレギニータも知っていることだがあえて言った。
「精霊信仰の民族です」
「精霊ですか」
「キリスト教ではありません」
 フィリピンの主流であるだ。
「カトリックでは」
「精霊信仰で」
「機織りが神聖視されています」
「その服を織る為の」
「はい、それで機には魔除けの為に悪霊除けの鈴が付けられています」
 女の人はレギニータにこのことも話した。
「真鍮の」
「じゃあ機を織る時に鈴がですね」
「ちりんちりんと鳴ります」
「成程、そうですか」
「そうして織られたのがです」
「その服ですね」
「ティナラクブラウスです」
 まさに今自分が着ている服だというのだ、女の人は自分の右手を胸に当てたうえで微笑んでレギニータに話した。
「この服です」
「そうなんですね、それと」
「それと?」
「その服の生地は何ですか?」
 レギニータは女の人にこのことも尋ねた。
「一体。麻に似ていますけれど」
「麻ではないと」
「少し違いますね」
 服屋の娘だから生地のことがわかる、そのうえでの問いだった。
「麻の一種だと思いますけれど」
「アバカです」
「それが生地に使われているんですね」
「麻の一種でして」
「だから麻に似ていてもですね」
「麻とは少し違います」
 普通に服に使われている麻とは、というのだ。
「似ていても」
「そうなんですね、それと」
「それと?」
「その服は売ってますか?」 
 レギニータは女の人にこのことも問うた。
「何処かで」
「いえ、この服は売りものではなく」
「貴女がですか」
「祖母が作ってくれたものです」
「着ておられるんですか」
「そうです」
 こうレギニータに話した。
「ですから」
「売りものでなくて」
「私の持ちものです」
「そうなんですね、ただ」
「ただ?」
「ミンダナオ島では売られてるんですね」
 その島ではというのだ。 
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