クリスマスの勇気
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クリスマスの勇気
前書き
海老名ちゃんの原作5巻から6巻にかけてのクリスマスの雪のシーンが印象的だったので書いてみました。処女作です!
今日はみんなが幸せな時を共有する特別な日。クリスマスです。
秋田から単身東京に来るということに不安を覚えていた私もすっかり慣れ、今では楽しい毎日が送れています。
クリスマスがみんなで楽しめるという幸せを噛みしめながら自宅で出かける準備を済ませ、これからどんな楽しいことが起こるのかな、と思いを巡らせ意識せずに早歩きになってしまっている私はなんて幸せなんだろう。
しかし、早歩きで皆の元へ向かっている途中まるで欠けたパズルのピースのような、何か私の心の中で足りないものがあるような気がして一瞬立ち止ってしまいました。
「何だろう、この感じ…」
「ううん、今まで十分幸せだったじゃない。あのうまるちゃんとも仲良くなれた、切絵ちゃんも最初は警戒心むき出しだったけど今日も一緒に遊べるほど仲良くなれたし、シルフィンさんだってサッカーの時から仲良くしてくれてる…」
「早くいかなきゃ。」
少し思いを巡らせたがすぐに打ち切って、また歩き出しました。もしかしたらこの時にはもう気づいていたのかもしれない。
「あ、海老名ちゃんこっちこっち!」
うまるちゃんが私を呼んでくれています。やっぱりとっても綺麗だな。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。」
「いいよいいよ、早くイルミネーション見に行こう!」
「早くみなさん行きますわよ!」
私の手をシルフィンさんが引っ張る。ちょっぴり痛いけどそれをうれしさが上書きする。
シルフィンさんに連れられて着いたそこは、色々な色に彩られていて。
「綺麗…」
皆その一言しか出ないようでした。
しばらくして、シルフィンさんが周りをキョロキョロしだした。どうしたんだろう。
「周り私たち以外皆カップルばかりですわね~」
言われて私も見渡してみる。確かにカップルが多く、みんな幸せそうだ。
するとまた「何か」が私の心の中を巡る。
「どうしたの?海老名ちゃん。」
「あっ…ううん、何でもないよ。」
「人ごみに酔ったのでしょうか。通りに出ますわよ!」
せっかくみんなで楽しんでいるのに気を遣わせては悪い。ちゃんとしなきゃ。
「といっても、どこも人だらけですわね。」
「ところで、皆さんは一緒に過ごす方はいらっしゃいませんの?」
刹那、再びさっきの「何か」がさらに強く心を巡る。
「きりえさんはいませんの?」
「え、い、いるわけないでしょ!」
「ではうまるさんはどうですの?」
「え、えーいないよ~」
「では海老名さんは?」
「い、いや、いない…よ」
言い切ることに何故かためらいが出てしまった。
「そうですの。なら皆さん私の家でクリスマスパーティーをやりますわよ!」
なんだ、そういう話ではなかったのか…
ん?じゃあなんで私はさっきの話で…
「では、行きますわよ~!」
シルフィンさんの声で思考を遮られ、みんなと一緒にシルフィンさんの家に行く。
シルフィンさんの家はとても大きく、私を含めてみんな驚愕していました。
最初から誘う予定だったのか、部屋の内装も飾り付けられていてクリスマスの食事やケーキも準備されていました。うっ、よだれが…あぶないあぶない。
「すごいおいしそう!」
うまるちゃんがとても笑顔だ。
きりえちゃんも言わずとも目をキラキラさせている。
「いただきます。」
頬張らないように気をつけなきゃ。
皆クリスマスパーティーということもあってか、とても嬉しそうに食べて、飲んで、喋っている。
シルフィンさんも動きに拍車がかかっていて、そのせいか気づいたら寝てしまっていた。
そんなシルフィンさんを見ていると、どうしてもあの時に言われた言葉がどうしても気にかかる。
「海老名さんは一緒に過ごす方はいませんの?」
いないいない、学校にもそんな人はいないし、その他にもそんな人…
するとなぜかうまるちゃんのお兄さんの顔が浮かんできた。
そんな、確かに東京に来たばかりの私に初めてちゃんと話しかけてくれたり、ぬいぐるみをくれたり、とっても優しいけれど、恋愛感情は無い…は、ず。
「海老名ちゃん、シルフィンさん寝ちゃったしもう遅い時間だから帰ろう。」
「ひゃっ!ひゃい…」
「うわっ、どうした?ごめんね、驚かせちゃった?」
「ううん、何でもないよ。うん、帰ろう。」
シルフィンさんの家に別れを告げ、暗い夜道を歩きだす。さすがにこの時間になると人もまばらだった。
しばらく歩いてると、突然うまるちゃんが
「ごめん、忘れ物したから先に帰ってて!」
「えっ…」
すぐさまUターンして戻ってしまった。ただでさえ暗いのに独りぼっちになってしまった。
「怖いな…早く帰ろう。」
家を出発した時と同じように早歩きで帰路に着く。
やはり一人になってしまうと考え事をしてしまう。早く帰って寝れば明日にはモヤモヤがなくなってるかな。
出発した時よりもさらにモヤモヤしている気がして、必死に歩いた。
ドン!
下を見て歩いてたせいか、何かにぶつかってしまった。この時間だ、とても顔を上げるのが怖かった。
「おっと、ごめんなさい。あれ?」
優しそうな声と態度に少し安心する。しかし安心した途端、どこかで聞いたことのある声に違和感を覚えて、ゆっくり顔を上げると、
「あれ、海老名ちゃんじゃん。どうしたの、こんな時間に。」
今一番会いたくない人に会ってしまった。頭の中で考えていたことが脳内を駆け巡り、変な顔になっているかもしれない。
「あ、お、お兄さん…こんばんは。うまるちゃんたちとクリスマスパーティーをした帰りで…」
「なんだうまるは一緒に帰ってやって無いのか。こんな時間に女の子一人で帰らせて…」
「よかったらアパートまで一緒に帰らない?」
「は、はい。ありがとうございます。」
やっぱりお兄さんは優しいな。
とても心臓がドキドキする。顔が熱い。どうしてだろう、あんなこと考えてたからかな、私おかしくなっちゃったのかな。
「どうしたの?具合悪い?」
そんな私を気にかけてくれる。
「い、いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
雪がチラチラと降り始める。雪のせいかあたりは静けさが増し、この世界には私たちしか居ないのではないかと錯覚させる。
「あ、雪だ。今年はホワイトクリスマスか…」
12月で、さらに雪まで降っているほど寒いのに、なぜか私の心は熱くなっている気がした。
ここまで体がおかしいのだ。さすがに気づかないほど私も鈍感じゃない。でも、そんなことを言ってしまったらこの関係が壊れてしまうのではないか。そんなことになってしまったらお兄さんと会えなくなってしまうのではないか。
すると、ふとうまるちゃんに言った言葉を思い出した。
「きりえちゃんと仲良くなる前にお弁当誘ってたよね。断られるか不安じゃなかった?」
「恥ずかしいし不安だけど、今話しかけなきゃ後悔しそうだったから。」
そうだ、今言わなきゃ後悔するじゃないか。自分で言ったことも忘れちゃったのか私は。
しばらく歩いて、アパートの前に着いた。
「じゃあ、ここまででいいかな。」
「はい、わざわざありがとうございました。」
「ううん、当たり前のことをしただけだよ。じゃあ…」
「あ、あの!まってください…」
「え?うん、どうしたの?」
一段と強く降る雪が、故郷の秋田を思い出させてくれている気がして少し心が穏やかになった。
「あの…お兄さん。いつも私に優しくしてくれてありがとうございます。」
「ううん、さっきも言った通り当たり前のことをしているだけだよ。」
やっぱりお兄さんは優しいな。
勇気を出して息を吸う。
「ほんたら優しいあんちゃのことがすげ大好きだ!」
後書き
やっぱり方言の女の子はかわいいですよね。そんな海老名ちゃんの恋愛模様を短いながら書きました。
アニメも声優さんの方言を楽しみにしておきます。
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