真田十勇士
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巻ノ六 根津甚八その十二
「あれこれ言ってもはじまらぬ」
「といいますと殿」
「ここは殿が行かれますか」
「そうされますか」
「いや、拙者は出ぬ」
幸村は家臣達に確かな声で答えた。
「御主達がそこまで出たいというのならな」
「では誰が」
「誰に任せて頂けますか」
「ここはどの者が」
「どの者が出るべきでしょうか」
「くじを引くのじゃ、くじは拙者が作る」
これが幸村が五人に言うことだった。
「だからここはくじを引いて決めよ」
「当たればですか」
「その者が橋のところにいる武芸者と勝負する」
「そうすべきですか、ここは」
「くじで決めるべきですか」
「これで決めればよい、言い合いばかりしていてはそこから無闇な喧嘩になる」
だからだというのだ。
「武士は無闇な喧嘩なぞすべきではない」
「確かに。我等も殿にお仕えする身」
「真田家の武士となりました」
「では、ですな」
「無闇な言い合い、喧嘩なぞせずに」
「そうしたことで決めるべきですな」
「左様、皆の者それでよいな」
幸村は五人にあらためて問うた。
「くじ引きで決めて」
「さすれば」
「お願い申す」
「それではです」
「これよりくじ引きをしましょう」
「では今から作る」
こう言ってだ、そしてだった。
幸村は親父に言ってすぐにだった、団子の串を五本程借りた。幸村を入れて六人がそれぞれ食べていた団子の串だ。
そのうちの一本に店にあった筆で先を黒く塗ってだ、全ての串の先を手で隠し。
五人に差し出してそれぞれ引かせた、先の黒いものを引いたのは。
「拙者か」
「ううむ、甚八か」
「甚八になったか」
「ではな」
「甚八、楽しんで来るのじゃ」
「そうさせてもらう」
根津もだ、こう四人に答えた。こうしてだった。
橋で勝負する者を決めてだ、そのうえで。
一行は食べることを終えて勘定を払ってから店を後にした、そして。
その橋に向かいつつだ、幸村は言うのだった。
「この前上田を出たというのに」
「気付けばですな」
「この様にですな」
「我等が家臣に加わり」
「一人ではなくなっていますな」
「ここまですぐに人が集まるとは思っておらなかった」
幸村にしてもというのだ。
「到底な」
「左様ですか」
「上田を出てもう五人」
「ですな、我等五人とです」
「お会いしてです」
「我等がお仕えしてです」
「五人ですな」
「これから増えるか、果たしてどれ程の者が集まるか」
幸村は前を進みつつ言う。
「楽しみじゃな」
「ですな、殿の下に集まる者」
「一体どれだけの数になるか」
「我等もです」
「楽しみです」
五人も幸村に応える、そうしたことを話しながら橋に向かっていた。また近江にも近付いていた。幸村達が進むその中で。
天下は刻一刻と動いていた、それは駿府も同じだった。
駿府城においてだ、一人の太った男が多くの者を前にして言っていた。
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