ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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武器と……怨念?
もう陽が暮れるという頃になって、漸くローガとの特訓が終わった。
今日も今日とて殺し合い並みの戦闘を繰り広げていたが、夜はじじい、つまりガレスさんが代わってくれるために解放されたのだ。
「ただいま」
【光明の館】に帰宅し、俺はそのままリビングへ。
騒がしい様子を聞くに、どうやら遠征組が帰ってきたようだ。
「あ、式さん!」
俺の帰宅に反応したスウィードが真っ先に駆け寄ってきた。今更ながら、犬みたいだなこいつ。
「よ。遠征ご苦労だったな」
「はい! ところで式さん、今度【ロキ・ファミリア】の遠征についていくって本当ですか?」
恐らく、ハーチェスさんから聞いたのだろう。リビングのソファーに座るアルドアさん達も気になっている様子だった。
「まぁな。一緒に五十九階層までいくことになった」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、ヒルさん。これでもLv6ですから」
断りを入れ、一度自室に戻って荷物を置いてからもう一度リビングに戻る。
空いた場所に座ると、パディさんが紅茶を淹れてくれた。
三日ぶりのパディさんの味である。旨い。
「それより、皆さんの遠征はどうだったんですか?」
「順調だったっすよ! 今回は二十四階層中心に込もってたんすけど、特にテュール様のとこの新人君がすごかったんすよ!」
「新人?」
「ええ。何か、出発間際にノエルちゃんに頼まれてね。デイドラって子だったんだけど、スウィードより一つ年下だったの」
遠征の日、見送りに出ていたバルドル様から新しくメンバーが追加されたってことは聞いていたが……どうやら、すごい子がいたそうだ。
「どんな子だったんですか?」
「そうですね……あまり話してはくれませんでしたが、根はいい子でしたね。戦闘能力も申し分ありませんでしたし。あとは……」
「あと、燃えてたっすよ!!」
「……は?」
それは意欲とかそういうことなのだろうか?
「いや、そうじゃねえ。物理的に燃えてやがった。見たときはちょっとビビったぜ」
ヒルさんの言葉を聞く限り、魔法なのだろう。だが、自分が燃えてどうするのだろうか。
それから、その新人君のことについて、あれやこれやと話したが、結局は謎の少年ということで話が着いた。……いや、ついていいのか?
「懇意派閥のくせして、謎が多いからな。あっこは」
「あと、追加のもう一人もすごかったっすよ! こう、見た目鉄の棒もってドーンッ!! ってすごい音がしてたっすよ!!」
「ああ、あの娘ね。よくわからない娘だったけど、使ってるのもよくわからなかったわ」
「あのうぜぇ鍛冶師、今度会ったら斬ってやる」
何やらこの場の雰囲気が大変よろしくない方へと進みそうだ。
アルドアさんの話はよくわからないし、リリアさんは自室にいるであろうハーチェスさんのとこに行くと言って出ていくし、ヒルさんは何故かいらいらしていらっしゃる。
てか、鍛冶師なのかその娘。
「【テュール・ファミリア】はよくわからんなぁ……」
黒歴史持ちのエルフに、謎の燃える少年。それと、何か変な鍛冶師。
うむ、分からん!
とりあえずこの話はここまでにしておいた方が良さそうだ。
「とりあえず、大変だったんだな、スウィード」
「……まぁ、慣れましたしね」
そう言ったスウィードの顔は、どこか諦念を感じさせるものであった。
ーーーーーーーーーーーー
「邪魔するぞ~」
「だから邪魔すんねんやったら帰れボケェ」
「嫌だ! 絶対邪魔するんだっ!!」
「お前それ前もやったやろうがアホォ!!」
いつものように扉を蹴破り、いつものやり取り。
俺が訪れたのは青い煙突の工房、士のところだ。
今日は頼んであった新しい【アレルヤ】を受けとる日になっていたため、朝から取りに来たのだ。
スウィードもバベルへ武器を買いに行くとのことだったの途中までは一緒だった。
「まぁまぁ落ち着けっての。あんまり怒鳴ると、またハゲが進んじまうぞ?」
「だから、これはスキンヘッドっちゅー髪形や言うてるやろが!!」
バンダナを取り払いその摩擦係数0に見える頭を見せつけてくる士。うむ、今日はいつもの二割増しで輝いているな!!
「そんなことは置いといてだ」
「俺の頭をそんなこと扱いすな!!」
「どんな感じだ? 俺の【アレルヤ】」
「無視かいな……。まぁええ、注文されてるのはできとるで」
ちょっと待っとけと工房の奥に引っ込む士。数分して戻ってきたその手には、白布に包まれた一・四Mほどのものがあった。
「ほれ、受けとれ。自分でもなかなかのもんやと思うほどや」
工房に置かれた大きめの机にそれは置かれて、その白布が外される。
中から顔をみせたその穂先は強く鋭い銀光を放っていた。
「材質とかいろいろこだわってな。稀少金属の配合量とか変えてみたんや。あとは、重さは変えずに、威力の増量を目指してみてん」
説明を受けるなか、俺はその槍を左手に取り、士に断りを入れてその場で振ってみた。
薙いで、突いて、斬り上げて。新しい得物の感触を確かめるように。
やがて一通り試してみた俺は静かにそれを机に置いた。
「……どや?」
「……最っ高……!」
どや顔する士がちょっとうざいが、仕事は完璧なためなにも言わないでおく。
だが実際、こいつの鍛冶師としての能力はとても素晴らしい。
魔剣は打てないそうだが、それでもなお、それを上回るだけの力量がこいつにはある。
「んじゃ、名前決めるか……そやな、前は【アレルヤ】やったし、これは【ハレルヤ】にしとこか」
「却下」
「何でや!?」
んなもん、認めるわけがないだろ。【アレルヤ】に続いて【ハレルヤ】とか、どこのマイスターだ。
「……はぁ、ならどないすんねや?」
「【アレルヤ改】だな。その方がいい」
「はいはい。たく、折角人が一週間かけて考えた名を……なんちゅうやっちゃ」
「気が早いにも程があるだろ」
受け取った【アレルヤ改】を背中の袋にしまい、そのまま帰ることにする。
「あ、そや。式、お前に言うとく事あんねや」
工房を出ようとしたところで呼び止められた。
「どうした?」
「いやな。あと一週間ほどしたら【ロキ・ファミリア】の遠征についていくことになっててな。その間はここ来ても居らんから来ても意味ないっちゅうこと教えとこう思うてな」
そういや、遠征には【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師もついてくるとかなんとか聞いてた気がする。
士はLv3だから選ばれたのだろう
「了解。まぁ、了解したところで意味ないんだけどな」
「は?」
「んじゃ、また今度も頼むな。武器、サンキュー!」
さて、このまま倉庫まで向かうとするかな
ーーーーーーーーーーーー
「き、緊張する……」
目の前にそびえ立つバベルを前に俺は体中に力が入る。
朝から何故か先輩たちにリビングまで呼び出され、何かと思えばいきなり金貨の詰まった袋をパディさんから手渡された。
わけがわからない
急なことで混乱する俺にパディさんが事情を説明してくれた。
曰く、この金貨は俺が今まで稼いできたものらしい。なんと、パディさん。団員それぞれの稼ぎとかを事細かに記録しているらしい。流石パディさん。執事すごい。
それでここからが本題なのだが、このお金を使って自分の武器をバベルに買いに行けとのことだ。それも一人で。
自分のこれだ! と気に入ったものを選んでこいとのことだ。
この【烈】も【ハント】も、先輩たちから買ったもらったものだから気に入ってるんだけど……
……まぁでも、装備の充実は必要なことだ。
手渡された金貨は凡そ三〇〇〇〇〇ヴァリス。刀と弓と防具を揃えるには十分な金額だ。
「……よし」
一度大きく深呼吸して落ち着いた。
バベルの中に入った俺はそのやや中央に幾つもある円形の台座の一つに乗り込んだ。
備え付けられた装置をうろ覚えだがなんとか操作し、八階を目指す。
「……やっぱり、これすごいなぁ……どうなってんだろ」
式さんに聞いた話では、台座の下に魔石が取り付けられていて、石から生じる魔力を浮力に転用しているのだとかなんとか……
正直、田舎の山中で狩人だった僕には理解ができないが、まぁすごいものだというのは分かった。式さんがそう言うのならそうなのだろう。
やがて八階にたどり着くと、そこにはたくさんの冒険者が。みんな、俺と同じLv1なのだろうか。
このバベル、四階から八階までのテナントは全て【ヘファイストス・ファミリア】のものらしい。【ヘファイストス・ファミリア】といえば冒険者の武器や防具の超一流ブランド。一度式さんに連れられて得物を見たが、0の数が六桁とか当たり前だった。
が、この八階は【ヘファイストス・ファミリア】の下端鍛冶師も作品を出しているらしい。
性能は一流と比べればあれだが、懐にも優しいし、その下端鍛冶師にとっても自身の作品が店頭に並ぶのだ。
式さん曰く、うぃんうぃんらしい。意味は分からないが
「さて、どれがいいか……」
武器は刀と決めているので、そこは問題はない。多少高くても三〇〇〇〇〇あれば買えるだろうが、パディさんには計画的に使うようにと言われている。
「んー……無いな、刀」
が、金額云々の前に、まずお目当ての武器が見つからない。極東の伝統武器らしいから、生産数が少ないのだろうか
「店の人にでも聞いてみ……お?」
店員に聞こうかと考え付いたとき、ふと、店の片隅に目がいった。
かなり目立たない場所にあるが、設置された箱の中に幾つかの得物が無造作に放り込まれていた。
「これも売り物……のようだな」
近づき、手に取ってみれば値札がついていた。扱いがかなり雑だが、良さそうなのもあるかもだ。
他にも同じようなものがあったため、幾つか探すと、ついにそれを見つけた。
「……あった……」
手に取ったそれを鞘から抜いてみる。
美しい刀身に少し反ったような形状の片刃の剣。刀だ。
そして同時に、惹かれた。
その刃文は真っ直ぐでその刀をより美しく見せ、力強い銀光を放っていた。
長さも【烈】より少し長い程度。重さも俺にはちょうどいい。柄も黒でより刀身を際立たせている。
俺の意識を掴んで離さないこな刀。制作者の名が掘られているようだった
「……ヴェルフ・クロッゾ」
覚えた。多分、もう忘れない
値段も一〇二〇〇〇ヴァリスだったので、すぐに買った。帰ってからじっくりと鑑賞することにしよう。
「あとは、弓だな。さっきのヴェルフ・クロッゾって人のがあればいいんだけど……」
ーーーーーーーーーーーー
で、だ。弓もあった。
早速買った。お値段一〇〇〇〇〇ヴァリス。
合計二〇二〇〇〇ヴァリス使用したが、いい買い物だった。
「ただいま帰りました!」
「あ、スウィード。お帰り」
扉を開けると、ハーチェスさんがいた。優しいうちの団長様だ。
「確か、武器を買いに行ってたんだよね。どうだった?」
「はい! 良いものが買えましたよ!」
そう言ってリビングへ向かうと、式さん以外のみんなが集まっていた。
「あ、スウィード。お帰りっす」
「はい。ただいまです」
小人族の先輩、アルドアさんだ。
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ」
「いいのは買えたか?」
続いてリリアさん、パディさん、ヒルさんにも返事を返し、俺もソファーの空いたところに座った。
「お帰りスウィード。ところで、このポーズ。より僕の美しさが際立つと思わないかい?」
「あー、いいんじゃないですか?」
中心に立って(俺からすれば)変なポーズを決めるエイモンドさんはいつも通りだ。
パディさんに俺の分の紅茶をいれてもらい一息つく。
「……」スッ
「あ、デルガさん。ありがとうございます」
買ってきたものを手渡し、部屋の隅に置いて貰う。
「で? 何て銘柄なんだ?」
「あ、そう言えばまだ見てなかったですね。ちょっと見てみましょうか」
紅茶を飲み終えた俺は早速その銘柄を確認する
確か、刀はバグベアーの爪を使ったもので、弓はリザードマンの皮で補強されたものらしい。
刀が【熊紋】で、弓が【銅鑼衛門】
皆さんに笑われたのは言うまでもなかった
ヴェルフ・クロッゾ……なんというネーミングセンスだ……!!
ーーーーーーーーーーーー
「ギャハハハハハハハハハハハ!!!」
「し、式さん、笑いすぎですよ!」
「ああ、いや、ハヒッ、悪い悪い。にしてもすんげぇ名前だなそりゃ」
特訓を終えて帰ってきて早々、ヒルさんにスウィードの武器の名前を教えて貰った。
もう……ね? 腹が捩れそうになったよほんと
ゆるキャラと未来のロボットとか……wwww
「アカン、思い出したらまた笑いが……」
「だから笑いすぎですって! それに、名前はあれでも結構いいもののはずですよ!」
「まぁな。それは俺も分かるぞ。ありゃ下級の鍛冶師の作にしたらいいもんだ」
ま、名前はあれだけどな、と付け加えると、スウィードは少し起こった様子でリビングから出ていった。
「ありゃ……ちょっとからかいすぎたな」
「あんまり後輩をいじるのは感心しないぞ? 式」
その様子を見ていたのか、エイモンドさんが入れ違いになってやって来た。
俺から少し離れた場所に腰を下ろす。
「後で謝っときますよ」
「それがいいさ。そんなことより、新しいポーズを思い付いたんだ。これ、どう思う?」
自分が振った話題をそんなこと呼ばわりとは……。それ、スウィードご可哀想だと思うんですが
目の前でジョ◯ョ立ちを決めるエイモンドさん。多分、素でやっているんだろうからすごいわこの人。
「いいと思いますよ。これでミネロヴァさんとかいちころですね」
「フッ、君もそう思うかい? ま、僕の美貌をもってすればどんな姿であれ美しくなるのだよ」
「わーすごいすごいー」
適当な返事を返しておく。
まともに相手をしても疲れるというのはこの五年でよくわかっているしな。
「ご飯できましたよ。皆さん、集まってください」
パディさんが呼びに来たので、俺とエイモンドさんは食堂へと向かった。
拗ねたスウィードにどうすれば許してくれるのか聞いたところ、じゃあ特訓に付き合って下さいと言われてしまった。
朝に狼と。夕方はスウィードと。
……なんか、急に大変なことになったなこりゃ
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「くそっ! あいつ調子に乗ってるわね!!」
とあるホームにて、怒りの炎をその目に顕にする一人の女神
「たった九人しかいないくせに、この私を差し置いてランクB? ふざけるんじゃないわよ!!」
ガンッ! と己の目の前にあった机を殴り付けたその女神は怒りをそのままに紫の長髪を揺らして立ち上がる。
「どこまでもバカにして……!! 男神のくせに、私よりも美しいだと? 笑わせるな!!」
他の神が口にしていた言葉を思いだし、余計に腹をたてる。
「誰が強くて美しいか、しっかりと教えてやる必要があるわね……」
女神はバルコニーへと歩を進めると、付き従っていた一人の男に命を下した。
「リディアス! 団員を何人か連れて情報収集を始めておけ!」
「はっ。承りました」
それだけ言うと、リディアスと呼ばれた男は姿を消した。女神はフンッ、と鼻を鳴らすとバルコニーへと躍り出た。
その赤い瞳が睨み付けるのはオラリオの北の空。
気に入らないとある男神がホームを構えている方角だ。
「気取ってもてはやされるのも今のうちよ……どちらが上なのか思い知らせてやる……!」
それまではせいぜい楽しんでおくことね、と吐き捨てるようにしてバルコニーから身を引いた女神。
オラリオに、不穏な空気が渦巻いていた。
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