黒魔術師松本沙耶香 仮面篇
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24部分:第二十四章
第二十四章
「少しいいかしら」
「はい?」
見ればアジア系の少女だ。背も他の女の子達に比べれば少し小柄だ。沙耶香に声をかけられて部活から一旦離れた。そうして彼女の側にまで歩いてきて話に入るのであった。
「何でしょうか」
「少し。聞きたいことがあって」
「まさか」
少女は沙耶香の言葉に顔を曇らせた。
「わかっているみたいね、自分で」
「はい」
少女はその東洋的な整った美貌をそのままに顔を曇らせた。沙耶香はそれを見て心の中で妖しい笑みを浮かべながら述べるのであった。
「それじゃあ。いいかしら」
「すいません。それでは」
部員に一言言いに行った。それがおわってから沙耶香のところに戻って告げた。
「これでいいです」
「真面目ね」
丁寧に断りを入れた少女に対して述べる。やはり顔には仮面を被ってこれと言っていわない。だが心の中では違う。それを見せないだけで。
「いいことだわ」
「有り難うございます」
「少しここの学校の雰囲気じゃないけれど」
「そうでしょうか」
「まあそれも別にいいわ」
それもいいとした。沙耶香はあくまで表情を隠して少女と話をするのであった。少なくとも今のところは。そうして話を進めていっていた。
場所を変えた。場所は少女のいるチアリーディング部の部室であった。そこは少女に案内されて来たのであった。その理由はもうわかっていた。
「ここでなら」
「誰も来ないでお話ができるというのね」
「そうです」
そう沙耶香に答える。
「そう思いまして。話が話ですから」
「そうね、いいことよ」
部室を見回して述べる。部室はロッカーと奥にシャワールームがある。中々整った設備である。ただロッカーの様々な色の落書きが少し目につくが。英語のそれはスラングで書かれておりそうしたところでもアメリカ、しかもニューヨークらしさを醸し出していると言えた。
「細かいところまで気が利くわね」
「それで」
「いいわ」
だがここで少女の話を急に遮ってみせた。
「私の聞き方があるから」
「貴女の?」
「ええ、そうよ」
すっと前に出た。まるで影が動くように。
「!?」
「奇麗よ」
そっとその身体を抱いて囁く。
「話を聞くのにも愉しまないとね」
「一体何を」
「わかってると思うけれど」
彼女を抱いたまま耳元で囁く。目元も耳元も妖しく笑っていた。
「このままね」
「まさか」
「そう。そのまさかよ」
声にも妖しさを漂わせて述べてみせてきた。
「話を聞くのはこうしてもできるから」
「まさか貴女は」
「勿論貴女から話は聞くわ」
それは言う。だがそれで終わらせるつもりは最初からなかったのだ。妖しく輝く目がそれを告げていた。そうしてその目で少女を見据えていた。固く抱きながら。
「けれどそれと一緒に」
「まさかそのつもりで」
「ええ」
笑って答えてみせた。
「そうよ。それが何か」
「人を呼びます」
きっとして沙耶香に告げてきた。
「これ以上何かされたら」
「呼べばいいわ」
だが沙耶香はその言葉を嘲笑してみせた。呼びたくば呼べばいいと。開き直りそのものの言葉であるがそこにあるのは開き直りではなかった。
「けれど貴女はその間に」
「何を」
「こういう言葉があるのよ」
少女にまた囁く。
「本当の情事はエレベーターに乗っている間の時間で済ますものだってね」
「誰の言葉ですか、それは」
「ダリよ」
スペインの超現実主義の画家である。沙耶香が好きな画家の一人でもある。
「人が来る間に貴女は。けれど」
そうしてまた囁く。
「呼ばなければ。わかるわね」
「あっ」
背筋を左の人差し指で上から下までなぞられ。身体を震わせる。
「これだけじゃないけれど。いいかしら」
「まさか貴女は」
「そう、そのまさかよ」
身体を少しだけ離して少女の顔を見る。もうその顔は捕らえた顔と捕らえられた顔であった。
「わかっているのよ。女の身体のことは女が一番知っているわ」
「それで私を」
「拒むことはもうできないわね」
先程の指で。完全に篭絡してしまっていた。それをわかったうえでまた囁くのだった。
「じゃあ。いいわね」
「はい・・・・・・」
言葉にこくりと頷く。沙耶香はそれを見届けてからまた少女の身体を引き寄せる。そうしてそのまだ青さの残る、それでいて味わうには充分に熟した身体を味わうのであった。当然そうしながらあのことについての話も聞くのであった。
それが終わってから。沙耶香は服を調えつつ少女から聞いた話を反芻していた。その後ろには乱れた服で恍惚とした顔になり床に倒れ伏している少女がいた。
「成程ね」
沙耶香は頭の中で話の反芻を終えて少女に告げるのであった。
「他の事件と同じなのね」
「はい」
床に倒れている少女はこくりと頷く。チアリーダーのユニフォームは淫らに乱れたままだった。自分の汗と沙耶香の汗、そして他のものでその身体を濡らしてもいた。
「多分そうだと思います」
「有り難う、わかったわ」
そこまで聞いて納得してみせてきた。
「それがわかればいいわ」
「いいのですか」
「ええ」
少女に顔を向けて頷く。背を向けたまま顔だけを向けていたのだ。そうしてその妖しげ名笑みを見せていた。
「有り難うね。御礼を言わせてもらうわ」
「それで」
今度は少女から声をかけてきた。
「何かしら」
「これで・・・・・・終わりなんですか?」
身体を起こして問うてきた。沙耶香はその顔を見ている。
「これで」
「あら。まだ足りないのかしら」
「これで終わりなんて」
自分から求める目であった。その目で沙耶香を見ていた。
「まだ。私は」
「あら、随分変わったわね」
言葉でわかる。そんな彼女を見て楽しんでいた。
「さっきまであんなに嫌がっていたのに」
「それでもです」
それを自ら打ち消してでも。それでも言うのであった。
「これだけじゃ私は」
「そう。それじゃあ」
手を前にかざす。そうして告げる言葉は。
「いらっしゃい」
「はい」
こうしてまた少女に悦びを教えるのであった。それが終わってからようやく学校を後にする。それでサウスブロンクスは立ち去った。それから彼女はブルックリンへ向かうのであった。
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