リリカルアドベンチャーGT~奇跡と優しさの軌跡~
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Another14 嫉妬
前書き
エンジェモン降臨。
大輔達は現在、始まりの町を歩いていた。
アインス「はああ…可愛い…」
幼年期デジモン達を見つめ、頬を赤らめながら言うアインスに大輔は深い溜め息を吐いた。
その言葉を何度も聞いた大輔は深い溜め息を再び吐きながらアインスに言う。
大輔「アインス、お前その言葉何回目だ?」
可愛い可愛いと、もう三桁近く聞いた気がする。
アインス「可愛い物は何度見ても可愛いんだ」
大輔「はあ、そんなに始まりの町が気に入ったならエレキモンに頼んで始まりの町の管理者になったらどうだ?」
アインス「っ!!」
大輔「え?何だよ“その手があったか!!!”って顔は!!?駄目だからな!!お前選ばれし子供としての責務果たしてないんだからな!!?」
アインス「ぷうー」
大輔「ぷうーってお前…」
何だか外見が子供になったせいでアインスの中身も幼くなった気がする。
ロップモン[それにしてもパタモン大丈夫かな?]
アインス「?」
パートナーの発言にアインスがロップモンと同意見だと言いたげな表情のブイモンを見遣る。
ブイモン[パートナーを守りたいって思う気持ちは、パートナーデジモンはみんな同じはずなんだよ。俺もロップモンもチビモン達もな]
ロップモン[うん、パタモンは進化したがってる。進化は想いが生む力なんだよ。疑似進化のアーマー進化も、普通の進化もそこは変わらない。実際、想いの力で強さが変動するでしょ私達?]
大輔「確かに」
ブイモンが敵に対する激怒、闘争心により強さが上がることが多々あった。
ブイモン[ずっと守られるって辛いことなんだよ。パタモンにとっても俺達にとってもな、パタモンがいなくてもヤマトや太一やみんながタケルのことを守ってくれる。]
ロップモン[そして大輔達と合流しちゃったからそれがより顕著になっちゃった。ブイモンは滅茶苦茶強いからね。だから一番弱いパタモンはタケルと一緒に後ろに下げられちゃう。私達にとって、大好きなパートナーから頼りにされないって、辛いんだよ。]
大輔「何となく分かるけどな。でもタケルはパタモンに進化して欲しくないみたいだぜ?」
アインス「それは仕方ないだろう。人と人が争い合うということを、高石は若干4歳で経験したわけだからな。」
大輔「ああ、そういえば」
確か、タケルとヤマトの両親が離婚したきっかけはタケルの“恐竜”発言であった。
当時4歳のタケルは小学校1年生のヤマトとある日、大きな大きな恐竜を見た。
すでに小学校1年生になり、物心が付いていたヤマトは、もちろん夢かもしれないそんなことをわざわざ両親にいうなんてことしない賢さが身についていたが、タケルはそうではなかった。
大輔「(光が丘テロ当時のデジモンは一部の人間しか見えなかったからな…)」
当時のタケルはただ自分が見た物を父親や母親に教えたかっただけなのだろうが、それが家族間の亀裂を生じさせるきっかけとなるとは哀れである。
アインス「大輔、確か高石は希望のデジメンタルの適合者だったな」
大輔「ん?」
アインス「多分、パタモンの進化が遅いのは古代種の因子を持っているからではないか?」
古代種の因子が色濃く残っているパタモンやは純粋古代種のブイモンやロップモンほど寿命の問題はないが、進化のためのメーターが溜まりにくい。
因みにチビモン達は殆ど現代種であるためにこれには当てはまらない。
大輔「別に構いはしないけどな。」
タケルは幼少期のことが原因で、戦うことに抵抗を感じている。
今のタケルにデジメンタルを渡したところで要らないと言われて返されるだけだと思う。
大輔「仕方ない、一度戻って…ん?」
空を見上げると無数の紅い光線が降り注ぐ。
大輔「デジメンタルアップ」
ブイモン[ブイモンアーマー進化!ライドラモン!!サンダーボルト!!]
拡散した雷撃が光線を相殺する。
次の瞬間、数体のデビドラモンが襲い掛かる。
アインス「ロップモン!!デジメンタルアップ!!」
ロップモン[ロップモンアーマー進化!ビットモン!!キャロット爆弾!!]
ビットモンが爆弾を投擲してデビドラモンを怯ませると、その隙にライドラモンはフレイドラモンにアーマーチェンジして上空を見つめる。
上空には片翼がボロボロのデビモンがフレイドラモンを睨んでいた。
フレイドラモン[へえ、あそこまで痛めつけたのにもう動けるのか?回復力だけは褒めてやるかな]
デビモン[貴様…!!]
デビモンにとってあそこまでの屈辱を植え付けたのはフレイドラモン以外にはいない。
今やデビモンにとってはエンジェモンに進化するパタモンより倒す優先順位が上だ。
フレイドラモン[いいぜ、ここでお前を倒してやる。ムゲンマウンテンに行く手間が省けるってもんだ]
デビモン[調子に乗るな…貴様の弱点を突けばいいだけのことだ!!レザーウィング!!]
見当違いの方に技を放つデビモンに訝しむ。
フレイドラモン[ん?どこを狙って…!!?]
デビモンの狙いはデジタマであった。
フレイドラモンが即座に移動して盾になる。
フレイドラモン[…お前……]
デビモン[貴様の致命的な弱点は非情に徹しきれんところだ。非情になれん奴が悪に勝てる訳がない!!レザーウィング!!]
再びデジタマを狙うデビモン。
フレイドラモンが盾になる。
アインス「成る程、少しずつダメージを蓄積させるつもりか」
卑怯極まりないが、格上に対する戦術としては間違ってはいない。
フレイドラモン[卑怯な真似を…!!]
大輔「やばいな、ダメージが蓄積したら流石に…」
ビットモン[キャロット爆弾!!]
爆弾をデビドラモンに投擲するが、デビドラモンは飛翔して射程外に。
ずるいと唇を噛み締めるビットモン。
フレイドラモンに加勢しようにもデビドラモンが妨害してくる。
こちらが攻撃しようとしたら、飛翔して射程外にという嫌らしい戦法を取ってくる。
アインス「まずい、何とかしなくては…」
アインスが呟いた直後であった。
複数の光がフレイドラモン、デビモン、デビドラモン、ビットモンに迫ったのは。
フレイドラモン、ビットモン、デビモンは回避に成功したが、デビドラモンには直撃した。
聖なる光の一撃は闇属性のデビドラモンには効果抜群で、一撃で粒子化した。
フレイドラモン[あいつは…]
ビットモン[エンジェモン……]
大輔とアインス、フレイドラモンとビットモンからすれば何度か見た姿。
しかし、あれは大輔達からすればとてつもない違和感を感じさせていた。
まるで自分達の知るエンジェモンの皮を被った別物だ。
フレイドラモン[お前、本当にパタモンか?]
エンジェモン[我が名はエンジェモン。デジタルワールドの秩序を守る者。]
紡がれた言葉はとても無機質で、そこにいたのは、成長期時代に蓄積された嫉妬などの負の感情を、善の存在であるがゆえに認めることが出来ずに、自分の信じる正義のために悪の存在のデビモンと、嫉妬の対象であったフレイドラモンとビットモンにも向けられていた。
今のエンジェモンにパタモンの面影はどこにもない。
フレイドラモン[それにしても…いきなり仲間に不意打ちを仕掛けるような卑怯な奴を仲間にした覚えはないぞ]
エンジェモン[私は善の存在。私はパタモンだった頃に蓄積された嫉妬や妬みの負の感情を持ってしまった。私は完全なる善の存在でなければならない。故にお前達を倒す]
大輔「どんな超理論だよそりゃあ…」
エンジェモン[いざ!!]
エンジェモンがホーリーロッドでフレイドラモンに攻撃を仕掛ける。
フレイドラモンはホーリーロッドの攻撃を受け流す。
フレイドラモン[俺からすれば今のお前もデビモンと変わらないけどな!!]
エンジェモンの顔面に蹴りを入れて吹き飛ばす。
タケルは今の状況に頭がパンクしそうになる。
デビモンは悪いデジモンであることは間違いない。
しかし何故フレイドラモンやビットモンに攻撃を仕掛けているのだろう。
確かにパタモンがいきなり光に包まれ、進化した時は自分との約束を破ったパタモンにどうしてと思ったが、今の状況では喜ばしいことだ。
しかし、何故こうなっているのだろうか?
エンジェモンの攻撃によって出来たフレイドラモンとビットモンの隙を狙ってデビモンが攻撃する。
これではまるでエンジェモンがデビモンの味方のようだ。
タケル「止めてよエンジェモン!!大輔君達もフレイドラモン達も友達じゃないか!!止めてよエンジェモン!!」
エンジェモン[何故そんなことを言うんだいタケル?]
タケル「え…?」
無機質な声にタケルは目を見開いた。
エンジェモン[何度も言うが私は善の存在なんだ。しかし私はパタモンの時にブイモンとロップモンに強い嫉妬や妬みを抱いた。これは善の存在としてあってはならない感情なんだ。故に私にこのような感情を与えたブイモン達を葬らねばならない]
タケル「何…それ…」
無茶苦茶な理由にタケルは絶句した。
フレイドラモン[呆れたな、もう怒りすら感じないぜ。天使型デジモンは相も変わらず傲慢だな]
天使型デジモンの傲慢さを身を持って知っているフレイドラモンは呆れるしかない。
デビモン[ふはははは!!相変わらず反吐が出る!!自分が信仰する正義のためならばかつての仲間すら排除する姿。だからこそ私はダークサイドに堕ちたのだ!!]
フレイドラモン[今回ばかりは気が合うな、最後の方はともかく。]
最も警戒していた選ばれし子供とパートナーデジモンの成立しない会話を聞いていたデビモンが、心底愉快だとでも言いたげに笑った。
フレイドラモンも今回ばかりは同意見なのか、エンジェモンを呆れたように見遣る。
タケル「そんなこと駄目だよエンジェモン!!それで友達を傷つけていい理由にはならないよ!!」
エンジェモン[………残念だな、タケル。君は分かってくれると思ったんだけども。すまないが私には君の言っていることは理解出来ない。デジヴァイスから伝わってくる君の気持ちは分からないよ。君は喜んでくれないんだね。私はもう弱いパタモンではない。だから、君のことを守ってあげられる。もう太一達の背中を見なくてもいい、私だけの力で君を守ることが出来る。でも君は喜んでくれない、頼ってもくれない。どうしてだい?君は私が戦うことも、私が進化していることも望んでいない。では君は私に何を望んでいるんだい?教えてくれないか?君は私に、何を求めているのかな?]
その質問に、タケルは、とっさに答えることが出来ない。
会話や行動などが基本的に受ける側であるタケルは、今まで自分で求めることをしてこなかった。
今のタケルにはエンジェモンの問いは無理難題過ぎたのかもしれない。
エンジェモンもそれが分かっているのか、タケルに背を向けた。
エンジェモン[タケル、私は自分の信じる正義のために戦う。私は君を守りたいんだ]
タケルと自分の信じる正義以外はどうでもいいと言わんばかりの態度にフレイドラモンは怒りを覚えた。
エンジェモンがフレイドラモンに襲い掛かる。
フレイドラモン[その守りたい存在を泣かしたら、本末転倒だろうがっっっ!!!!]
炎を纏ったパンチがエンジェモンに炸裂。
凄まじい勢いで吹き飛ばされたエンジェモンは地面に激突してパタモンに退化した。
フレイドラモンとビットモンがデビモンに技を繰り出すが、デビモンは飛翔して回避した。
デビモン[興醒めだ。どうやら私はとんだ見込み違いをしていたようだな。聖なる力すら碌に扱えない者など、私の脅威には成り得ない!!私の脅威は寧ろ貴様らだ。フレイドラモンよ、ムゲンマウンテンで待つとしよう。そこで決着をつけようではないか。待っているぞ!!]
デビモンは翼を羽ばたかせ、ムゲンマウンテンに向かった。
気絶しているパタモンを抱き締めながら泣いているタケルを慰めながらアインスはムゲンマウンテンを見つめていた。
レオモンに発見され、始まりの町に辿り着いた仲間達が来たのは間もなくであった。
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