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真田十勇士

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巻ノ六 根津甚八その六

「では参れ」
「言ったな、じゃあな」
「お望み通りにしてやるぜ」
「そこの若いのも倒してやる」
「覚悟しやがれ」
 こう言ってだ、ならず者達はそれぞれの得物を手にだった。幸村と男に襲い掛かった。だがここでだった。
 幸村は刀ではなく柔術や合気術でならず者の一人を退けた。その横で。
 男は刀を手にしていない、だが。
 恐ろしいまでの素早さを誇る足さばきで縦横に動いてだった。ならず者達の攻撃を風の様にかわしてだった。
 そのうえでだ、一人が刀を出したところでそれを両手で白刃取りして。
 その刀を奪ってだ、刀をひっくり返して。
 刀背でだった、ならず者達を次から次に打ってだった。
 次々と倒してだ、瞬く間に。
 幸村が三人倒す間に残りの七人を倒してしまった、そうして言うのだった。
「刀がなければ手に入れればいい」
「な、何て強さだ」
「斬ってきた刀を取ってかよ」
「それで戦うなんてな」
「こいつ化けものか」
「只者じゃねえ」
「御主達の太刀筋はよくわかった」
 男は叩きのめされ倒れ伏しているならず者達に答えた。
「それでは拙者を倒せぬ」
「くそっ、覚えてやがれ」
「次に会った時は許さねえからな」
「待て、御主達何故その様なことをしておる」
 ここで幸村がならず者達に問うた。
「ならず者の様だが」
「昔はそうじゃなかったんだよ」
「わし等だって真面目に足軽やってたんだよ、武田家でな」
「武田家が滅んで織田家に仕えたんだけれどな」
「その織田家が今ややこしくなって暇を出されてな」
「仕方なくこうしてここで浪人暮らしだよ」
「わし等全員そうだよ」
 ならず者達は忌々しげにだ、立ち上がりつつ幸村に答えた。
「全く、何で武田家が滅んだんだ」
「織田家に召し抱えられたと思ったら本能寺でえらいことになって」
「それで信雄様はわし等に急に暇を出して」
「何だってんだ」
「訳がわからん」
「まあのう、信雄様はあまり道理がわからぬ方の様じゃ」
 男が信長の次男であるその織田信雄について話した。
「そうしたこともあろう」
「あろうかで済むか」
「お陰でわし等はあぶれ者じゃ」
「日々の銭は用心棒をしたりしておるが」
「荒れておるわ、この通りな」
「難儀なことじゃ」
「ふむ、ではな」 
 それではとだ、幸村はならず者達の話を聞いて述べた。
「御主達これから西に向かえ」
「西に?」
「西にというのか」
「そこに行けば何かあるのか」
「うむ、大坂で羽柴家に仕官せよ」 
 これが幸村がならず者達に言うことだった。
「御主達は溢れてそうなった様じゃしな」
「確かにおなごはからかうがな」
「それ以上のことはしておらぬぞ」
「喧嘩はしても盗みや殺しは一切せぬ」
「これでも足軽だった時は真面目だったのじゃ」
「では余計にじゃ、羽柴家にお仕えしてじゃ」
 そのうえでというのだ。 
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