普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
085 瑕疵(かし)無き屋敷
SIDE 升田 真人
シホとミナを置き去りにしながらも竹林をミナの言葉通り──妖精が〝より〟騒がしい方向に分け入っていると、厳かな──それこそ、1000年以上もの時間を感じさせる──現在空に浮かんでいる満月みたいに丸い窓が特徴的な、純和風の屋敷に辿り着いた。
掲げられている表札(?)を見れば、でかでかと[亭遠永]と書かれていた。
「[亭遠永]──いや、【永遠亭】か。……いやはや【永遠亭】、ね。……これも一種の因果か」
【永遠亭】に勝手に入って数秒。そうごちらずには居られなかった。……〝永遠〟。その単語で〝彼女〟──輝夜を思い浮かべてしまうのは無理からぬ話である。
「………」
俺の主観ではたったの数年だが、輝夜の主観では1300年以上もの月日が経過しているのだ。……もし輝夜がこの〝異変〟に関わっていたとするなら、どういった顔で再会すれば良いのか判らない。……フラれているのだし…。
閑話休題。
(……これは〝恐怖〟…?)
輝夜への未練をぶり返されながら、歩く度にぎしぎし、と軋む襖に挟まれた通路歩いていると、〝恐怖〟の感情が込められた視線が注がれている事に気が付いた。……〝恐怖〟の視線を向けられる──そんな状況には、思い当たるフシは有るには有るので、気にせず進む。
(……それにしても──ループしてね?)
明らかに〝外〟と〝中〟では、面積が──あくまでも外観的に違っている事に気が付いたのは【永遠亭】の探索を始めて数分後の事だった。……【迷いの竹林】みたいに一定区間を延々と歩かされている様な気分になってくる。
(【迷いの竹林】の方がまだ楽だったか…)
【迷いの竹林】では迷う理由の大半が妖怪──もとい、妖精のせいなので、妖精を蹴散らしながら進めばどうにかなるもの。……しかし、今回は妖精のせいで無いようで…
「……出て来ないか…? 手荒なマネはあんまり得意じゃないから〝一寸〟やり過ぎてしまうかもしれないぞ?」
これは通告と脅迫。〝見聞色〟で捕捉した、〝一番近く、かつ今一番慌てているヤツ〟の周囲に魔法陣──特に魔法が出るとかでは無い、囮の魔法を展開させる。
……もし相手が落ち着いていて、魔道に知識が有る者なら引っ掛かりはしないだろうが…
――「ひゃっ?! 待ってください~」
「……ブレザーに〝兎〟…?」
俺の威しに引っ掛かったのは──落ち着いていて、魔道に知識が有る者でも無かった様で、景色が一瞬〝ブレ〟たと思った数瞬後、目の前に居たのは──今は涙目となっている紅玉の如し双眼を持った人型の、濃紺のブレザーを羽織っている〝兎〟だった。
……俺がいきなり現れた人物(?)を取り敢えずとばかりに〝兎〟と称したのはひとえに、ぴん、と頭から立てられている1対の〝兎耳〟が有ったからである。
閑話休題。
「なぁ」
「ひっ」
【永遠亭】についてその〝兎〟に訊こうと声を掛ければ、肩を竦められる。……〝恐怖〟の視線を向けられる──そんな状況には、思い当たるフシは有れど、正直ここまで恐がられるのは異常である。
「〝ブレザー兎〟さん、〝ブレザー兎〟さん。一寸君には幾つか訊きたい事がある。……だから、1回目を瞑って深呼吸をするんだ。話はそれからでも遅くは無いからな」
「は、はい…」
………。
……。
…。
やっとこさ落ち着いたウサミミブレザーの少女は鈴仙・優曇華院・イナバと云うらしく、この【永遠亭】では【永遠亭】の主──輝夜にペットとして匿われているらしく、俺を恐れたのは月での俺の所業──主に大量虐殺が月でも伝説(もちろん悪い意味)になっているらしいからだ。
(輝夜…。〝例の書き置き〟で、月に居ないとは思っていたが本当に月に居なかったとは)
―[……後、〝月〟に来たとしても私は居ない可能性が高いので悪しからず。]―
頭の中で〝例の書き置き〟の最後の一文を思い浮かべる。……しかも、鈴仙からの話では輝夜と鈴仙の師匠──≪月の賢者≫は地上を転々とし、軈てこの〝幻想郷〟に流れついたらしい。
……で、今回の異変の原因は〝月〟から、〝戦線復帰せよ、逃げても良いが余計な仕事は増やすなよ?〟とのお達しが鈴仙に届いたのが大元の原因らしく、〝月〟からの干渉を恐れた≪月の賢者≫はと云うと…
「……〝迎えに来れないように〟したいからって、普通〝月〟をすり替えるか…? ……それも太古の月とすり替えるとか…」
「お師匠様のやる事なので…」
「くく、〝燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや〟。……〝燕雀〟は〝鴻鵠〟のやる事が判らない…ってか?」
「あう~…。どうせ私は燕や雀ですよ…」
俺の皮肉に、鈴仙は声を萎ませながら自嘲する。
……それにしても、鈴仙も漸く肩の力が抜けてきた様である。……距離感からして未だに〝恐怖〟を完全に払拭出来ている訳でもない様だが…。……それはそれで間違っている事ではないので、これ以上の〝ムリ〟な接近(精神的な意味)は止める事にする。
「……って、考えれば〝夜〟を停めたのは無意味だったか。……いや、そもそも紫──〝スキマ妖怪〟の言葉を信じるなら、〝月〟のすり替えすら無意味だったかもな」
〝幻想郷〟は〝外の世界〟とは論理的に隔てられていると云う。昔──1300年前のままなら、【月の都】は〝幻想郷〟ではなく〝外〟にしか繋がらないだろう。
……だとすれば今回の〝異変〟は、俺達──否、鈴仙達【永遠亭】メンバーの〝ちょっとした勘違い〟から起こった〝異変〟だと推察出来る。……あくまでも〝推察〟だが、割りと正鵠を射ている様な気がする。
「(……あー、ミナ? 今回の〝異変〟は放っといても大丈夫っぽいぞ?)」
『はい? どういう事ですか?』
「(……今、【永遠亭】ところなんだけどそこ住人から聞いた話だと、今回の〝異変〟は行き違いがあった事が判明した。どうにも〝月〟がおかしくなっているのは一過性のモノらしい)」
『……信憑性は有りますか? ……あ、別にマスターの事を疑っているわけではないのですが』
ミナに“コントラクト・サーヴァント”を行った際に繋がった〝パス〟経由で念話を送っておく。しかしミナは納得がいっていって無いようなので、そこら辺を軽く──簡易的な解決案を交えながら説明してやる事にした。
「(……長々説明するのも面倒臭いから3行程度で説明するな?
・……今回の〝異変〟の下手人は≪月の賢者≫
・〝月からの迎え〟を防ぐ為に〝太古の月〟とすり替えた
・今空に浮かんでいるのは〝太古の月〟
……大体こんな感じ。……因みに信憑性は十中八九。……簡易的な解決案としては〝天候呪文〟──“ラナリオン”あたりで大丈夫と見た)」
『……判りました』
窓から外を覗ける位置で、いきなり立ち止まった俺を胡乱な目付きで見る鈴仙を尻目に【永遠亭】の特有であろう丸い窓から空を見ていると、〝幻想郷〟の空が急速に黒雲で覆われていくのが判る。……ミナが“ラナリオン”を使ったのだろう。
……“ラナリオン”は有り体に言ってしまえば、雷雲を呼び出す呪文。分類としては〝天候呪文〟になるのだろうか。……〝月〟が妖怪へと異常をきたすのならその〝月〟を隠してしまえば良い──そう考えた。
……俺が手ずからに“ラナリオン”を唱えずミナに“ラナリオン”を使う様に言ったのは──俺が“ラナリオン”を使わなかった理由は、俺が〝ここ〟で使ったら【永遠亭】内が黒雲で覆われてしまうからである。
閑話休題。
黒雲は、然も【永遠亭】を中心としている様に〝幻想郷〟中に拡がっていく。……その事から類推するに、どうやらミナ【永遠亭】のすぐまで来ていたらしい。
「いきなり立ち止まったりしてどうかしましたか?」
「……いや、雷雨が来そうだなぁ、と思ってな」
「……あ、本当ですね」
並列思考の1つで鈴仙と四方山話に花を咲かせながら、また並列思考の1つをミナとの念話にあて、相互的に情報のやり取りをする。
『……で私はこれからどうしたらいいでしょうか? 今は【永遠亭】…で、良いんですかね──今は【永遠亭】が目と鼻の先に見える位地に居るのですが…』
目下の問題はミナの処遇。……この合流するの面倒臭くなりそうな気がする。……そう云う──マイナスな予感は当たり易いものである。
「(……ところでシホはそこに居るか?)」
『シホさんなら霊夢さんと相討ちになっていた様です。魔理沙さんと同じように【博麗神社】へと転移させておきました』
「(成る程…、把握した。……ところで話は変わるが〝木っ端妖怪〟の様子はどんな感じになってるか判るか?)」
『妖怪の動向についてはまだなんとも言えませんね…。でも私の所感では大丈夫な気がします』
「(了解。もう霊体化してて良いぞ)」
俺がそう言うと、ミナは二つ返事の後、幾秒かしてミナが霊体化したのが判った。
「……ここがお師匠様のお部屋です」
訊きたい事も大体終えたので、ミナと念話終え──念話の為に割いていた思考をシャットアウトして幾ばくか鈴仙の先導で廊下を歩いていると、やたらと豪奢な装飾に目を惹かれる──戸が片側だけしかない襖の前に辿り着いていた。
「お師匠様、お客様がお師匠様にお会いになりたいとの事でお連れしました」
――「見ていたわ。……入ってもらいなさい」
鈴仙は戸の向こうに要る人物の返事に応える様に襖を開けた。
SIDE END
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