聖愚者
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4部分:第四章
第四章
その話は順調に進んだ。ルブランはこのことに満足した。それで機嫌よく宮殿を出た彼は用意されている泊まるべきホテルに向かうことにした。従者と合流しそのうえでまた馬車に乗りそこに向かうのだった。
「それで如何でした?」
「いい感じだな」
満足した顔で彼に応えるのだった。
「婚姻は無事に済みそうだ」
「そうですか。それは何よりです」
「さて。それではだ」
満足した顔のままで話を変えてきたルブランだった。
「今から行くホテルだが」
「この街で最もいいホテルです」
こう主に述べるのだった。
「ですからお楽しみ下さい」
「無論そうさせてもらう。では行こう」
「はい。それでは」
こんな話をしながら街の中を進んでいるとだった。またあの僧侶が目の中に入ってきたのだった。
「おや、まただ」
「ええ、そうですね」
従者は窓の外を見て声をあげる主に言葉を返した。
「あの僧侶です」
「ああして街を歩いているが」
見れば今も呆けた顔で街を歩いている。しかしその彼を通り行く人々は尊敬の眼差しを見ており普通の僧侶よりも敬愛しているようであった。
「敬愛されているが。何故だ」
「そのことですが」
ここで従者が言うのだった。
「面白い話を聞きました」
「面白い?」
「はい。旦那様を待っている間に丁度部屋にいた衛兵に聞いたのですが」
「ロシア人のか」
「そうです。その衛兵の話ですが」
こう断ってからそのうえで彼は話すのだった。その話とは。
「この国では白痴の者は神に愛されていると考えられているとのことです」
「神にか」
「そう、神にです」
彼はこう語るのだった。
「ギリシア正教、ひいてはロシア正教独特の考えらしくて」
「その信仰が何処から来るのかわからないのだが」
「聖書の考えだそうです」
当然ロシアもキリスト教であるから聖書はある。聖書は言うまでもなくキリスト教徒達の信仰の根幹の一つである。これなくしてキリスト教はないと言ってもいい。
「我々は主故に愚者となりとありますが」
「ああ、それか」
ここまで聞いてわかったルブランだった。納得した顔で小さく何度も頷く。
「それ故にか」
「それで信仰の理想とされているとのことです」
「理解はできるがまた実に独特の考えだな」
ルブランはここまで話を聞いたうえでこう述べるのだった。
「それもかなりな」
「私もそう思います。そして実際にです」
「ああして敬愛されているのだな」
「そうなるのです」
こう言ってその僧侶を見続ける。ルブランは彼を見ているうちにまた己の従者に対して問うのだった。今度問うたそのこととは。
「それでだ」
「はい」
「あの僧侶は何と呼ばれているのだ?」
呼び名について尋ねるのだった。
「それで何と」
「聖愚者とのことです」
その問いに応えて告げた名前はこれであった。
「聖愚者と呼ばれています」
「聖愚者か」
「はい。神に愛され生まれながらにその信仰の理想を持っている者としてです」
「そうか。それでそう呼ばれているのか」
「私も先程聞いたばかりの話ですが」
「しかしそう呼ばれているのは確かだな」
ルブランはこのことはわかったのだった。従者の話を聞いて。
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