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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-31

 



 色々と波乱に満ちた臨海学校も終わり、いよいよこれから夏本番といった七月もすでに半分が過ぎて。ここIS学園にも夏休みが訪れた。
 勿論ただ夏休みが来たわけではない。臨海学校前の定期考査で赤点を取ったものにはもれなくありがたい講習が待っていたりする。その中にはあの織斑一夏も含まれていた。大声で話されるものだから否応なしに聞こえてくる。
 どうやら数学が苦手ならしく、その一教科だけで赤点を取ってしまったようだ。その他の強化は可もなく不可もなくといったところか。……英語だけ九十点後半なのはなぜだろうか。まあ別に蓮が気にすることでもない。どうせ、セシリア辺りから教えてもらったとか、もともと得意だったとかそんな感じだろう。


 一方御袰衣蓮は、最難関大学を現役合格を果たしているだけあってこのレベルの高いIS学園でも危なげもなく全教科満点を取って見せた。特に英語が目覚ましく、すべてを解き終わって見直しをしても時間が余ったのか、問題文をすべて和訳していた。更にIS理論(ISに関する知識を問う学園独自の科目)に関しては、篠ノ之束の指導を受けていたのは本当であると見せつけている様に教師も知らないようなことまで書いていた。勿論この科目について採点したのは、非常勤講師として学園にいる束本人である。この科目に関しては束に並び立つ者なぞ存在するわけもないので適役なのである。
 話が少しずれてしまったが、要するに蓮は頭が良かった。他人から嫉まれるほどに。


 ついでに六月辺りに行っていた全国模試の結果も一緒に返された。ここの学園から一般大学に進学する者も少なからずいるためこのような処置がとられていたりする。まあ、かなりのレアケースであることには間違いないが。
 IS学園はもともと偏差値の高い学校である。かなり上の方であるため、全国模試で上位五十人に十人ぐらいいるのはざらなのだが、いつも東京都内にある名門校か大阪府内にある名門校に全国一位の座を取られていたのだ。ちなみに二年の更識楯無も一年の時は最高で全国四位だった。
 それをこの御袰衣蓮はあっさり取ってしまった。流石に全教科は無理だが、それでも二位に差をつけている。余談であるが、学園内での次点はセシリアの七位である。


 文句なしで自由な夏休みへ突入する。世界で二人しかいない男性操縦者という肩書があるものの、学園にあらかじめ外出届を出しておけば基本的に受理されるし、蓮自体がかなりの実力者というのに加えて、隣には常に束か楯無のどちらかがいた。割合的には八対二で圧倒的に束の方が多いのは仕方のないことである。そう、仕方のないことだ。


 だが、夏休みなんてものが存在しない人がこの世にはいるのだ。
 職員室の自分の机に向かって、一枚の紙を手に震えている緑髪のふくよかな胸を惜しげもなく揺らして、慌てている女性もその一人だった。
 さらには、学園の屋上の日陰になっているところで誰かと電話している黒いレディーススーツに袖を通した凛とした女性、織斑千冬もその一人である。そして電話の相手はアメリカ国家代表イーリス・コーリングその人だった。


「どうした、そっちから電話をかけて来るなんて珍しいじゃないか」
『ああ、福音の件でちょっとな。いまだにあのナタルが死んだって信じられないんだ』
「……私も出来れば嘘であってほしかったが、確かに海に沈んでいったのを確認しているんだ。今更覆すことなんて無理だ」
『そんなことは分かっているんだ。分かっているんだけど……』


 電話の向こうのイーリスは憤りを隠せないといった様子である。だが、まだ向こうの要件にまで話が進んでいない。千冬は彼女を落ち着かせて先を促した。


「落ち着け。まだ用件も済んでいないだろう?」
『……くっ、あ、ああ、済まない。それでだ、突然だが、ストライク・ワイバーンズという言葉を聞いたことはないか?』
「ストライク……ワイバーンズ…………いや、済まない。聞いたことがない。新手の秘密結社か何かか?」
『色々と掠ってるな。詳しい内容は資料をFaxで送るんだが、出来るだけ他の人の目に入れたくない。今から十分後に学園に送る。一番に取ってくれよ』
「なっ……いきなりだな。まあ、いい。十分後だな?」
『ああ』
「分かった。何かあったらまた掛ける」


 通話ボタンを押し、電源を落とすと若干の急ぎ足で職員室に向かう。夏休みに入っていることもあって校舎には生徒の姿はほとんど見えない。誰にも話しかけられることなく職員室までたどり着くことが出来た。
 職員室に入っても人の姿はほとんどない。誰が何をしていようが関係ないが、こうまで人がいないと何らかの作為が働いていると変に邪推してしまう。実際にはそんなことがないのだが、どうしてだろうか。と考えるのもこの程度にしておいて、千冬は時計を見た。


 あれからまだ七分程度しか経っていない。わずかに上がっていた心拍を落ち着かせて、資料を取ったらコーヒーでも飲もうと、備え付けられているコーヒーメーカーのもとへ向かう。そうこうしているうちにFaxが音を立てて動き始めた。
 印刷されて出てきた数枚の紙を纏めて取るとそのまま目を通した。


「……………………これは……」


 資料に書いてあったことは、これまで推測にすぎなかった千冬の考えをすべて確信に近いものに変えてしまうものだった。そして脳裏によぎるのはこれまでの束の意味ありげな言葉の数々。
 もしあの時こうしていれば……。もしあの時束を止めていたら……。千冬の中でそんなたらればな想いが思い起こされては霞のように消えていく。ため息を一つついて今までの考えを断ち切る。


 過去に振りかえっても、もう何も変えられない。ならば今すべきことは、今の自分に何が出来るのかだ。


 ◯


 ストライク・ワイバーンズ。
 元々はアメリカ陸軍で秘密裏に設立された特殊独立強襲部隊。
 世界各国の紛争に回収して終わらせることを目的に作られたが、介入先の紛争で部隊長がミスを犯し、一人を除いて殉職したことが確認された。この失態を隠ぺいするために部隊を解散し、生き残った隊員一名を依願退職という形を取らせ、実質の除名処分。
 その隊員が立ち上げたNGO法人が特殊機構独立強襲部隊――――ストライク・ワイバーンズである。
 創立1982年。創始者、クリストファー・アンダーソン元陸軍中尉。
 だが、これも長続きせず、2007年に代表であるアンダーソンが紛争で殉職したのを機に解散した。
 解散時メンバー。
 代表、クリストファー・アンダーソン。
 レンティア・フレイドーラ。スコール・ミューゼル。国立凜香。レーナ・ヴェルヴァーツェン・ヴェイバー。御袰衣蓮。篠ノ之束。以上七名。
 アメリカ陸軍所属時メンバー。
 部隊長、エイブラハム・トンプソン。
 副部隊長、コリー・ガルシア。
 アレキサンダー・クーパー。ジャック・ベネット。トーマス・ウォーカー。ベンジャミン・ファイルス。クリストファー・アンダーソン。以上七名。


 ◯


 千冬が亡国機業の核心に近づきつつある頃。そんなことは露知らず、蓮と束の二人はあてがわれた個室で寛いでいた。束もこの暑さのせいかいつものアリスのような服装ではなく、タンクトップ一枚にミニスカートとニーソックス。しかもブラをつけていないようで先ほどから歩くたびに大きな胸が揺れる。しかも少しはだけているものだから、妙に艶めかしい。
 しかし、そんなことを気にする蓮ではなく、エアコンも効いていてかなり涼しいこの部屋で上はまだいいが、何故ニーソックスなのかが気になる蓮であった。いつも頭につけているうさ耳カチューシャも取って軽く結っていた髪もすべて解いて、いつも見ない姿に新鮮さを感じていた。


 寛いでいる二人が何をしているのかというと、単純に対戦型格闘ゲームをしていた。お互いに無駄なスペックを使ってかなりの激闘を演じていた。
 束は言わずもがな、蓮もこの手のゲームは得意な方だった。むしろ苦手なジャンルの方が無い様に思える。
 ゲームを1対1モードから大乱闘モードに切り替えてオンラインを活用して全国の猛者たちとずっと戦っている。ついさっきまで世界2位を相手に束が優位に進めていたが、4人目が邪魔してきたため、蓮もそれに加わって実質的なタッグバトルを制してきたところであった。
 ちなみに二人のアバターの勝率は80%オーバー。いろんな要素が入ってこの記録になるが、一番は、お互いに戦った時の勝率がほぼ五分五分であることが大きく影響しているだろう。


「……束」
「……なあに」
「戻らないのか? 実家に」
「…………どーしよっかなあ」
「どうせ最後なんだ。行っといたほうがいいだろ。どんな顔されたって、結局は両親がいなきゃ生まれこられないんだから」
「……れんくんも行くっていうなら、行く」
「……はあ、しょうがねえな。俺もついて行ってやるから。……そういえば夏祭りもやってたよな。いつだっけ」
「……確か、今日」
「そうか、じゃあほら早く準備していくぞ。顔洗ってちゃんと目覚ましてこい」
「うん」


 ゲームを消して束は洗面所に向かう。その間に蓮は、外出届を申請しておく。向こうにトラブルがなければ、すぐに許可証が送られてくるはずだ。どうやら、何事もなかったらしくすぐに許可証が届いた。
 そしてゲームを片付けるとどこかボーっとしていた束が戻ってきた。


「ねえれんくん。家に戻るんだから普通の格好していった方がいいよね?」
「ああ、そうだな」
「ううっ……。今日はうさみみ諦めよ」


 束が何か葛藤しているうちに蓮は指輪を括りつけたネックレスを首にかけて、束に頼んで変えてもらったISの待機形態であるブレスレットを左腕につけて、財布を持って、スマホに手をかけたところでメールが来ているのに気付く。
 相手は見袰衣麗菜からだった。軽く内容に目を通して適当にメールを返信する。それが終わってスマホもポケットに入れると、丁度束が着替え終わって出てきた。


 膝まで届く白いワンピースに淡い緑色のカーディガンを羽織って、腰には白い大きなリボンがついている。手にはつばの広い麦わら帽子といつもなら絶対にしない清楚系な感じにまとめていた。それがまた似合っている。


「いいな、似合ってる」
「えへへ、そうかな」


 恥ずかしそうに顔を赤らめて伏せ目がちに顔を逸らし、麦わら帽子を持っていない方の手で頬を掻く。その仕草がまたどうしようもなく可愛かった。
 蓮は自分が照れていることを隠すようにバイクのカギを取る。二人の頬は少し赤かったが、絶対に暑さのせいではなかった。


「ほら、早くいくぞ」
「……えっ? あっ、待ってよお!」


 一足先に部屋を出て行った蓮を追いかけるように束は櫛を通した長い鮮やかな薄紫色の髪を翻して続いて部屋を出て行く。
 途中で並んだ二人は、一緒に寮を出て行く。駐車場を歩いて行って、ここに来る時に乗ってきた束カスタムの大型バイクに跨る。蓮からヘルメットを受け取った束は麦わら帽子を粒子変換してしまい、ヘルメットをかぶる。後ろに乗ってしっかりと蓮の腰に回すと胸が押しつけられるが束が気にせず、むしろ狙っている。蓮は蓮でいつものことだったりするので既に体制がついてしまっていた。それでも役得なのは役得だった。


 束が捕まったことを確認したら、エンジンを2回、3回と蒸かして動き出すとあっという間に日本本土に向かって消えていった。


 その二人の様子を校舎から悔しそうに見ているのは千冬。羨ましそうに見ているのは真耶。
 千冬は束の服装と表情を見て驚き、真耶はあの清楚な女性が束だということに気付かずに見惚れて、少し憧れを抱いた。








 
 

 
後書き


いやあ、夏になるとパソコンからの放射熱さえうっとおしく感じますね。おかげでしばらくパソコンから離れていたりしました。
作中内での時期も夏休み。現実の時期も夏休み。タイミング良いですね。別に狙ってやったわけではないんですが。

それにしてもゴットイーターはアニメどんな感じなんでしょう。作者は一話見ましたが、あれは創作意欲湧きますね。いつの間にか手元にオリジナル主人公設定と2,3話のプロットがありました。自分でびっくりしたのは昨日のこと。
次も出来れば一か月後にはあげたいな。暑くなければ可能です。暑かったら諦めてのんびり待ってください。え? エアコン? なにそれおいしいの? 
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