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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#21 チーグルの森・決着



 猛り狂う無数のライガとその頂点であるライガ・クイーン。その実力は文字通り格が違う。これまで、森の中で遭遇、戦ってきたライガとは比べ物にならなかった。


「深淵へといざなう旋律……―――♪」
「うおおおお!!!!」

 ティアが、第一譜歌である闇の戦慄を歌声と共に響かせ、ルークがその間の前衛として、ライガ・クイーンに斬りかかる。詠唱と譜歌を邪魔させない為にも、これが理想の形、陣形だ。

「ナイトメア」
「双牙斬!」

 譜歌と剣撃。2種の攻撃をライガ・クイーンは物ともせずに躱した。斬撃は確かに太刀筋、剣に当たらなければダメージは見込めないが、ティアの譜歌は違う。何もない空間にその深淵に誘う旋律が響いてくるのだ。だが、その空気の、空間のこわばりをも見抜いたのか、当たる事無く、2つの攻撃を完璧に回避してのけた。

「くそっ!!」

 躱された事に憤怒するルーク。明らかに注意力が散漫になりつつある。

「っ! ルーク、危ないっっ!!」

 散漫になった注意力は、周囲への警戒が薄れる。ティアとルークの術で発生した砂埃がライガ・クイーンの身体を包み込んでいた際に、その巨大な腕が出てきたのだ。気配を殺し、獲物を狩る。自然界での獣ならではの攻撃方法だろう。 ルークは、それに反応できず、直撃してしまい、弾き飛ばされてしまった。
 どがぁっ! と言う鈍い音、人の身体から発せられたとは思いにくいその鈍い音が周囲に響く。

「ぐあっっ!」

 明らかに直撃を受けたルークを見て。

「ルーク!!」

 ティアはルークに駆け寄った。間違いなくこれまでで、一番のダメージだろう。所々の服は破れ、軽く見ただけで、出血しているのが判る。
 だけど、ルークの心配をしているだけでは駄目だ。……敵は、直ぐ傍にいるのだから。

「ティアさんはルークを頼むよ! 熱く滾りし獄炎。、聖なる龍の姿となりて、我が敵をを喰らい尽くせ!」

 ルークの事をティアに任せたアルは、直様詠唱に入った。不幸中の幸いな事に、ライガ・クイーンの位置は丁度3人からは離れている。故に、ターゲットとして認識されるまでに時間が掛かり、詠唱時間を稼げたのだ。

「フレイム・ドラゴン」

 その時間を利用し、アルは譜術を放つ事に成功した。炎の様に熱く、赤く滾るアルの腕から、炎龍(サラマンダー)が飛び出し、ライガ・クイーンの咆哮にも負けない程の唸り声を上げながら、突撃していった。

「ッ! ガアアアアア!」

 ライガ・クイーンはそれに気付き、炎龍を払おうと、その巨大な腕を振り回すが、そう簡単には消える炎ではない。第四音素。反対の力である水の音素(フォニム)を使用するならまだしも、風圧だけだ。その程度であれば、空気中の酸素を取り込み、炎は更に大きく迸る。

だが。


「ガアアアアアア!」

 ライガ・クイーンは、炎がきえない事を悟ったのか、再び雄たけびを上げた。自らを鼓舞する類のモノじゃない。次の瞬間、周囲にいた無数のライガたちが一斉にアルに飛び掛ってきたのだ。

「くっ しまった!!」

 アルは炎龍(サラマンダー)の制御に集中していた為、一斉に飛びかかってくるライガに対応する事が出来ない。
 先ほどルークが受けた一撃には比べるべくも無いが、無数の牙と爪が一斉に襲いかかってきた為、アルも吹き飛ばされてしまった。

「ぐぁっ……」

 倒れ伏す事こそ、拒否する様に膝をつくアル。

「アル!!」

 ルークの治療を終えたティアも駆け寄って、治癒術を使用した。切り傷も何とか塞がり、出血の量も抑える事が出来た。

「あっ ありがとう……。 くそ……、 あの炎龍(サラマンダー)は、集中しておかないと、出し続ける事ができない。……だから、オレに攻撃しやすいし、集中が切れたら消える。……それをあの一瞬で判断したのか? ……見た目に反して、凄く賢いんだ。……アイツは」

 アルは、炎を消し、悠々佇むあのライガ・クイーンを見てそう呟いていた。 あの譜術《フレイム・ドラゴン》は、術者(アル)と完全にリンクしている。そして、制御する為には術者アルは集中していなければならない。故にそこを付けば、攻撃は当てやすく、更に攻撃を行い集中力を削げば、制御を失って消滅するのだ。
 
 あの炎が術者の手を離れ、勝手に暴れるのも危険な為、これで良いとも思えるが、それでもあの一瞬で判断したライガ・クイーンは驚嘆に値する。

「かなりの強さよ……! 回復、後方支援を含めた援護は任せて。近接戦闘は頼んだわ ルーク! アルは周りのライガをお願い、女王に近づけさせないで」
「お……、おう!」
「わかった。あのライガ達がいたら クイーンに集中できないから。 兵隊は任せてくれ、終わったら直ぐにそっちに行くから」

 短く作戦を立て直すと、皆は一気に飛び出した。

 ルークとティアは、ライガ・クイーンに。
 アルは、無数のライガに。


「さあ、お前らの相手はオレだ」

 何とか、ライガ達の増悪(ヘイト)を誘う事が出来たアル。ライガ達も標的をアルと見定めた様だ。一切視線を逸らさずにアルを睨みつけているから。

 先ほどの炎龍(サラマンダー)を見て、……ひょっとしたら、無数のライガがアルを標的にしたのは、これはあの女王(クイーン)の指示かもしれない。

「……なら、好都合だ」

 仲間達はこれでクイーンのみに集中できる。一撃一撃の威力はかなり高いが、一匹だけなら、攻撃も回避しやすい。

 そして それぞれの第2ラウンドが始まった。



 ルークは苦戦をしながら、あることを思い出していた。




〜キムラスカ王国・ファブレ公爵家〜


 それは、屋敷にいてルークの師匠(せんせい)と一緒に修行していた時の事だ。
 毎日がつまらなく、退屈な日々。そんな日常生活の中で唯一の楽しみの1つが師匠(せんせい)との剣術の修行だった。

『でもよぉ、師匠(せんせい)、相手がどんな奴でも こっちがやられる前に やっちまえばいいじゃんか?』

 ルークは、防御のいろはを指南されていれるのだが、脇が甘すぎて注意をされていた時だ。だが、ルークはそれを一蹴していた。防御よりも攻撃だと。

 ルークの師匠(せんせい)は、軽く笑う。

『では 私にも、それが通用するというのか? ふふ、私を倒しきれていないようだが』
『うっ……』

 師匠の言葉が頭をよぎる。これまでは手合わせ程度しかしておらず、本当の意味での実戦経験はなかったから。



~チーグルの森~


 場面はチーグルの森。
 ライガ・クイーンとの死闘。

(今の俺じゃ敵わない 師匠(せんせい)……!!)

 何度も躱される攻撃。そして、何度も吹き飛ばされてしまう強大な攻撃。戦闘不能こそならなかったけれど、実力の差があるのは明らかだった。ルークはそれを意識してしまい、注意力も集中力も削られていき、攻撃が単調になってしまったのだ。

 そして、何度か追撃を受けてしまっていた時。


「やれやれ、見ていられませんね…… 助けてあげましょう。」


 突然、入口の方から声が聞えてきた。

「「!!?」」
「あっ!」

 アルも粗方ライガ達を倒した為、ルーク達の助太刀に行こうとした直前だった為、直ぐにその声の主を確認する事が出来た。入口に配備されていたライガ達も既に一蹴している様だ。

「ロックブレイク」

 声の主が詠唱を終え、第二音素である譜術を発動。ライガ・クイーンの足元の大地が揺れ動き、 石の槍となって襲い掛かった。

「ジェイドっ!」

 アルは、駆け寄った。そう、声の主はジェイドだったのだ。

「今は話しは後にしましょう。 あの時と似たような状況でしょう? 今であれば、兵隊もいません。ティアもいますし、集中する事ができます」

 ジェイドがそう言うと、アルも頷いた。確かに強力な譜術を使用する為には、理想的だ。

「だね。こっちも兵隊は片付いた。他のライガもジェイドがやってくれたみたいだし。……決着をつけよう。」

 アルとジェイドは頷いた。

「天光を満ところに我はあり…… 」

 ジェイドの詠唱。……アルはその詠唱文は知っていた。否、頭の中で浮かんできた。神なる雷の譜術を。

「黄泉の門……開くところに汝あり」

 だから、ジェイドに続き、詠唱を始めた。収縮される音素(フォニム)は祠の中だと言うのに、この祠内部を光で染める。

「「いでよ!神の雷!!」」

 この譜術は雷の譜術の中でも最上位。つまりは、かなり難解で高度な譜術、アルは難なく使用している。それを横目で確認していたジェイドは、軽く笑う。

(ふっ やはりこれも使えますか……)

 あのアクゼリュスでの大規模譜術を見ているから、もう何を使っても驚かない。といった具合だった。

「ティアさん! ルーク! 直ぐにそこを離れるんだ!!」

 アルは、そう叫び声を上げた。ティアはルークの服を掴み、引きずりながら離れる事が出来た。

 ライガ・クイーンの周囲に誰もいない事を確認すると。

「よし!」
「ええ!」

 アルとジェイドが頷き合う。


「これで終わりです」
「これで最後だ!」

 天空より束ねられた二つの雷が一つになる。光で染められいく祠。

「「インディグネイション!!」」

 特大の2本の雷が、合わさり更に大きく、強大となって ライガ・クイーンに降り注いだ。空気が膨張、音速を超えた動きを出した為、皆の耳にダメージを負ってしまいかねなかったが、大丈夫だ。
 ライが・クイーンは。

「グ……グオ……オオ………」

 雷に蹂躙され、身体を痙攣させながら その巨体はゆっくりと倒れ、ついに動かなくなった。

 ライガ・クイーンとの死闘が決着した瞬間だった。




 戦い終えた後、ルークはそのままその場に座り込んでいた。周囲に散らばるのは割れたライガの卵や、それを護っていたライガ・クイーン、そしてライガたちの骸。……いたたまれなくなってしまったのだ。自分達の都合で彼らを滅ぼしてしまった事に。

「なんか……後味悪ぃな……」

 だから、ルークは思わずそう呟いていた。それを横で聞いていたティアは。

「……優しいのね、それとも甘いのかしら」

 冷たくルークに、そう言い放っていた。
 だけど、そんなティアだったけど、その表情は、とても切なそうで、そして寂しそうな、表情だった。ティアにも当然思う所はあったのだ。だけど、そこは軍人として生きてきたからこそ、抑える事が出来た。

 でも、今のルークに そんなティアの心の機微が判る筈も無い。

「………冷血女!」

 そう思う事しか出来なかったのだ。実際、その言葉以外浮かんでこなかったから。アルは、一部始終のやり取りを訊いていたから、ゆっくりと口を開く事が出来た。

「ルーク…… 仕方ないよ。だって、殺らなきゃ、こっちが殺られていたんだ。……でも、それでも割り切れないのは良く判る、よ。ライガ達も ただ……守っていただけなんだから。……家族、を」

 手段は別としたとしても、家族を守ると言う理由においては同じなのだから。

「ふん………っ」

 ルークは、アルの言葉を訊いて、ただ鼻息を荒くさせていた。



 そしてその後、イオンがジェイドに頭を下げていた

「ジェイド……、どうもすみません。僕が、勝手なことをしてしまいました」

 ジェイドはイオンの謝罪を訊いて、軽くため息を吐く。

「貴方らしくもありませんね、イオン様」

 確かに、無茶な事を言うことは多かった。でも、1人でこんな危険な場所へと来る事まではこれまでにはなかったんだ。アクゼリュスの時の様に、アニスやジェイドに頼む事はあってもだ。

「……チーグルは、始祖ユリアと共にローレライ教団の礎です。彼らの不悉はボクが責任を負わないといけないので……」

 イオンはそう言った。導師ならではの責任感だったのだ。そんな時、ジェイドはイオンの状態に直ぐ気がついていた。顔色が思わしくないのを。

「……その為に、能力(・・)を使いましたね? イオン様。医者から止められていたでしょう? しかも民間人を巻き込んで……」
「本当にすみません……」

 イオンは再び謝罪をする。すると、戻ってきたルークが一言いう。2人の会話を訊いていた様だ。

「おいオッサン 謝ってんだろ? ソイツ。いつまでも、ネチネチと言ってねぇで許してやれよ」

 それだけを言うと、直ぐにルークは離れていった。まだ、複雑な心境だったから、なのだろう。……或いは、イオンは直ぐに感謝の言葉を言ってくれるから、照れも残っていたのかもしれない。

「おやおや、意外ですね 村で貴方の事を見てましたが、 こういう性格だったのですかね? 私はてっきり愚痴ると思っていたのですが」
「あはは。ルークはイオンの事が好きなんじゃないかな?」

 ジェイドとイオンの側に来たアルがそう言っていた。ルークには聞こえていない様だ。……聞こえていたら、盛大に拒否をすると思える。

「え?」

 イオンは、ルークの言葉を訊いてきょとんとしていた。

「だって、オレもそうだったんだけど。……何にもわからない状態で、自分すら何者か分からないような状態で、そんな時に自分に構ってくれたり、頼りにされたりしてると、自分の存在を肯定してくれえているかのような感じがするんだ。そう言う風に接していたんでしょ? イオンはルークにさ? だから、イオンの事好きなんだよ」

 アルはイオンにそう訊くと、イオンは笑って答えていた。

(ルーク)は、優しい性格なんですよ。それを表に出すやり方がわからないだけで」
「あははは、イオンならそう言うと思ったよ」

 アルも、つられて笑っていた。

「いやはや、こうやって聞いていると アル、貴方が記憶喪失だなんて信じられませんよ。自分自身を冷静に解析出来る所なんか特にね。……実は、本当は嘘だった。なんじゃないですか?」

 2人の会話を訊いていたジェイドは苦笑いをしながらそう言う。確かにあまりに大人びているから。

「……そうだったら、こんなに苦労しないし、良いんだけどね……」

 アルも苦笑いで返していた。
 この表情を見ただけでアルは真実を言っていると容易に信じられる事が出来る。と言うより、最初から疑っていた訳ではない。
 
 なぜなら、アルは目が凄く澄んでいるのだ。嘘をつくような目には見えない。

 イオンは勿論、ジェイドもそう感じていた。

「ってなわけでさ、イオン!ルークの所に、行ってあげてくれない、かな? ……オレもそうだけど、ルークも結構ショックがあると思うんだ」
「そうですね。分かりました、」

 イオンはルークの方へ行くと、先ほど庇ってくれた事のお礼ともう少し付き合って欲しいことを伝えた。ルークはやはり少しショックが続いている様で、元気が無い返事を返していた。

 それを見て笑顔になるアルと、やれやれ、と苦笑いをするジェイド。



 そして、その後ジェイドを含めた一行は、チーグルの長老へ 今回の事を報告をするためにチーグルの住処へと戻っていった。


 
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