真田十勇士
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巻ノ五 三好清海入道その八
「よい暮らしも出来るぞ」
「ははは、殿はそう仰いますが」
「我等禄なぞどうでもいいです」
「それならばとうの昔に何処かの家に仕えております」
「その羽柴家にでも」
四人は幸村に笑って述べた。
「そして千石でも二千石でも手に入れていました」
「戦の場で思う存分敵の首を取り褒美を手に入れていました」
「しかし皆これといって主を見付けられず」
「あてもなく暴れておりました」
最後に言ったのは清海だ、だが他の三人も同じ様なものだった。
「旅を続け」
「賊の頭になり」
「修行に明け暮れていましたが」
「しかしです」
それでもだったというのだ。
「仕えるべき主を見付けました」
「その方こそ殿です」
「我等の殿こそが」
「何というか仕えるべき方だと確信出来ます」
四人共笑みを浮かべその目を輝かせてだ、幸村に話した。
「ですから」
「我等殿以外のどなたにも仕えませぬ」
「何か魂が惹かれるので」
「他のどなたにも」
「そういえば拙者もじゃ」
幸村もと言うのだった。
「どうも御主達だからこそな」
「召し抱えられた」
「左様ですか」
「我等だからこそ」
「家臣として下さったのですか」
「そうじゃ、我等が出会いこうして主従となったのはな」
それ自体がというのだ。
「運命じゃ」
「そうやも知れませぬな」
「我等が出会い主従となったのは」
「まさに天の配剤」
「運命ですか」
「そうやもな、こうして共に餅を喰らい酒を飲んでも実に美味い」
そのどちらもというのだ。
「楽しい、これからもずっとこうして楽しもうぞ」
「ですな、では殿」
「次は岐阜ですな」
「岐阜に参りましょう」
「このまま」
「そして近江から都に上がり」
幸村は四人にさらに話した。
「大坂にも行きたい」
「羽柴秀吉殿が治められている」
「あの地にもですな」
「行かれるのですな」
「そのつもりじゃ、次の天下人となられるその地もな」
そこもというのだ、大坂も。
「行って実際にどういった場所か見たい、そして出来れば」
「羽柴秀吉殿も」
「その方もですな」
「観たい」
「左様ですな」
「うむ、そうしたい」
こう言ってだ、幸村は己の家臣達にこれから進む道も話してだった。
大会に優勝して手に入れた餅も酒もたらふく楽しんだ、清海が最も食って飲んだのは言うまでもない。そして。
次の日朝早く発った、その時にだ。
清海は前を見てだ、こんなことを言った。
「さて、岐阜まで少しか」
「我等の脚ならな」
「然程かからぬ」
「忍の脚ならばな」
穴山と由利、海野も言う。
「あっという間じゃ」
「そしてあの地にいる「根津甚八という者と会う」
「そうしようぞ」
「さて、剣の使い手というが」
幸村も言う。
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