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ウイングマン スキャンプラス編

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■4話 侵入

1.
「アイドルの女のデータの入力は済んだ」
くるみのデータ収集は思いのほか早く終わった。
そう言うとまたヴィムはカウンターを見た。
そしてスキャンプラスに新たな指示を出した。
「もう一度、そっちの小娘のデータをスキャンしろ」
美紅はコスチュームのブーツが守っているのかいわゆる地球人とは異なったデータが検出されていた。
そしてそのためにスキャンの時間も余計にかかっていたのだ。
ヴィムの命令にスキャンプラスは慌ててくるみのポッドから美紅の方に移動した。
「こいつも身体的に何か特別なものを持っているわけではないようだが……」
美紅のデータを興味深く見入ってしまって、ヴィムは健太たちの侵入にまったく気づかなかった。
スキャンプラスも美紅のデータのとり直し命令に、焦っていた。
取りこぼしたかと思い、必死になってデータスキャンに懸命で他のことに注意する余裕はなかった。


健太と桃子は暗闇の中だったが、階段が終わったことはわかる。
しかし、ここがどういった場所なのかまったくわからなかった。
完全に真っ暗でまったく見えないので、2人は壁を触りながら手探りで扉を探すことにした。
見えない以上、手の感覚だけを頼りだが、それだとどれくらい時間がかかるのかも想像がつかない。
だいたいこの空間の大きさがわからなかった。
そこで健太と桃子は二手に分かれて探すことにした。
しばらくると健太の手に柔らかいものが当たった。
「きゃっ!」
同時に桃子の声が聞こえた。
健太が触れたのは桃子のお尻だった。
「えっ!?」
もにゅっ。
健太は思わず動揺してもう一度握ってしまった。
「いや~ん」
桃子も動揺して転んでしまった。
そして、その拍子に何かを触ってしまったようだった。
桃子の背中の壁が自動扉のように静かに開いた。
それは健太の向いているのとは逆方向の壁だったが、急に光が入ってきたので、思わず振り返った。
そして、見えた光景に健太は腰を抜かした。
「わあああああっ!?」
それどころか鼻血を出してぶっ倒れた。
ポッドに入っているくるみの姿が目に飛び込んできたのだ。
それは衝撃的な風景だった。
まだ中学生の健太には過激と言ってもよかった。
ポッドの中にいるくるみは、なんと全裸なのだ。アイドルの裸を拝めるチャンスなんてそうそうあるものではない。
女の子の裸だけでも興奮ものだが、その衝撃は相当なものだ。
「えっ!? どういうこと?」
いきなり健太が鼻血を出してぶっ倒れたのだ。
「えっ!? うそ、私のお尻でそんな……」
まさか自分のお尻を触っただけで、そんな風になったとしたら、今後健太とどう接していいのかわからなくなってしまう。
一瞬、桃子はそんなことを思って恥ずかしくなったが、後ろを振り向いて、健太が鼻血を出してぶっ倒れた原因がわかった。
当然、桃子にも衝撃的な光景だった。
「え~っ!?」
人気アイドルの全裸は桃子も腰を抜かした。



2.
「なんだ騒がしい!」
開いた自動ドアは丁度ヴィムの背後だった。
ヴィムはデータ収集に集中していてドアが開いたことは気づかなかった
スキャンプラスも美紅のスキャンに夢中だった。
しかし、さすがに健太と桃子の驚きの声には気がついた。
振り返ると鼻血を出してぶっ倒れている健太と、驚きのあまりただただ立ち尽くしている桃子の姿がそこにあった。
迂闊にも2人の侵入を許してしまったヴィムも、状況をよくつかみきれていない。
「お前たちは……」
ヴィムの声で桃子は我に返った。
自分たちはくるみを助けるためにここに入ってきたのだった。
くるみを助けなければいけない。
相手はヴィムとプラス怪人だけだ。
今は気絶してるけど、ウイングマンも一緒なのだから十分勝算はあった。
しかし、桃子の視界には美紅の姿は見えていなかった。
スキャンプラスがポッドを覆っていて、見えてはいないのだ。
「くるみちゃんは私が助けるわっ!」
桃子はヴィムに狙いを定め、ディメンションビームを放った。
「スキャンプラスっ!!」
ヴィムが叫ぶと、スキャンプラスがヴィムの前に出て盾となった。
ポッドに張り付いていたスキャンプラスが移動することで、その中身が桃子の視界に入った。
「美紅ちゃん!?」
裸にされた仲間の姿に絶句してしまった。

桃子のディメンションビームはスキャンプラスは背中に命中をした。
「うぎゃああああっ!」
ディメンションビームが背中に当たって悶えていた。
ヴィムは慌ててデータをバックアップを始めていた。
もちろん、常にバックアップは行っているが、それでも最新データは保存しきれていないものもあった。
せっかくの作戦で手に入れた貴重な情報なのだ。
まだ美紅の情報は完全ではないが、今のものでも十分な成果だ。
非戦闘タイプのプラス怪人では、この場を守り切れる可能性は作業を切り上げ、必死にその作業を行っていたので、桃子に対応することができなかった。
だからこそ、ヴィムには珍しくスキャンプラスを褒めた。
「よくやった! 今、データをコピーしている。それまでなんとか食い止めてくれ!」
まさかヴィムに褒められるなんて想像していなかったスキャンプラスは急にテンションが高くなった。
「オッケーオッケー! 任せてくださいよ~っ!」
そして、ヴィムは桃子の方を見た。
その後ろには気絶をしているが健太の姿も見えた。
「ウイングマンも一緒か……」

ヴィムはマグネットプラスの一件からウイングマンと今、戦うべきではないと判断した。
この場は退散するに限る。
「後は任せた」
ヴィムはそう言い残すと今まで収集したくるみと美紅のデータを保存したチップを手にすると、スキャンプラスは1人置いて姿を消した。
「え~っ!? ちょっと~」
今までのプラス怪人とは違って、完全に慌てふためいている。
「ヴィム様、ヴィム様~。私は戦闘用じゃあ~りませんよ~!」
消えてしまったヴィムに向かって必死に呼びかけていた。
これだったら勝てるかも……
スキャンプラスのうろたえ方を見て、桃子は自分だけでも勝てる気がしてきた。
それに、健太は鼻血を出してぶっ倒れている。
今、起き上がってもまたくるみの裸を見て、またぶっ倒れてしまうかもしれない。
今度はさらに美紅の裸もあるのだ。
こうなれば、道は一つしかない。
自分が戦って、勝つ。
そう考えた桃子は、うろたえているスキャンプラスに向けてディメンションビームを放った。
ドーン!
桃子のビームは研究施設の壁に当たるとぽっかりと穴が開いた。
「ゲゲゲっ!? 撃ちやがったなあ、危ないじゃないか~っ!!」
スキャンプラスは完全にパニックだ。
「こいつ、弱~い」
桃子はスキャンプラスの反応に肩透かしを食らった。
ディメンションビームによって開いた穴の向こうには通路が見えた。
そして、健太と桃子が降りてきた階段も見える。
健太と桃子はお互いに逆方向に扉を探して動いて、だいたい半周をしたところで2人が接触したということがわかった。
「う、う~ん……」
今のディメンションパワーの音のせいか、健太の方を見ると、少しうなされていた。
意識が戻りそうになっているのかもしれないと桃子は慌てた。
「急がないとリーダーが起きちゃう!」
まだくるみも美紅も裸のままだ。
これはあまりにも刺激が強すぎる。
なんとかしないと健太はまた鼻血を出して気絶してしまう。
それに女性の裸を見て興奮する健太なんて桃子は見たくなかった。
そんなわけで、急いで決着をつけなければならない。
桃子はディメンションビームをもう一度放った。
「わああ、だから危ないって言ってるでしょ~がっ!」
スキャンプラスは必死でその攻撃から逃げた。
そして、もう一発!
「わああっ! もう、やめてくださ~いっ!」
大慌てで逃げ回るスキャンプラスにビームを放ちまくった。
よけられたビームは壁を壊し、中には人が出れるくらいの大きい穴になっているところもあった。
「さっさとやられちゃいなさ~いっ!」
桃子がそう言って放った渾身の一発がスキャンプラスのお腹に命中した。
「痛ってえ!?」
スキャンプラスは吹っ飛ばされたがその方向がまずかった。
桃子の顔はみるみるが青ざめた。
スキャンプラスが吹っ飛ばされた先には健太が倒れていたのだ。
「ヤバッ。リーダーが起きちゃうじゃない!」
桃子は慌ててくるみのポッドに向かった。
とにかく急いで廊下に運び出さなきゃ。
スキャンプラスは健太の横ではなく、隣に倒れたが、スキャンプラスの手が健太の顔面にに当たった。
その衝撃で健太は目を覚ましてしまった。
「誰だよ~、人が気分よく寝てるのに~っ!?」
寝ぼけたまま健太はスキャンプラスの手を取った。
健太は完全に寝ている不機嫌そうな声を上げた。
「あ~っ!! リーダーが起きちゃったよ~っ!?」
慌てて桃子はポッドを移動させに向かった。
そして、くるみのポッドを廊下に持ち出すことができたが、美紅まではまだ手が回っていない。
「もう少し寝ててくれてもよかったのに~っ!」
桃子は健太の状況を気にしつつ、スピードを上げた。
速攻で美紅のポッドも廊下に移動させなくては!

「ええええええっ!? なんだお前は?」
スキャンプラスの手を取って、健太は驚いた。
しかも自分の鼻血のせいで血まみれだったので、いきなり警戒モードに入った。
「うわっ!? なんだ、この血は!?」
自分の血を攻撃によって受けたものと勘違いした健太はビックリして、思わず立ち上がった。
「よくもやってくれたな、いい根性してる!」
怒りの表情を見せている健太に完全にスキャンプラスは及び腰になっていたが、そんなことはお構いなしだった。
「オレの本気を見せてやるぜ!」
そして、健太は変身ポーズをとった。
「チェイング!」
健太の体は光に包まれるとウイングマンに変身した。

桃子は一息をついた。
「ほっ」
健太が向いた方向はたまたまではあったが、ちょうど桃子たちが死角になっていたのだ。
しかし、いつ振り向くとも限らない。
気づかれないように、しかし早急に美紅のポッドを動かし始めた。
健太が起きてしまった今、音を出せば気づかれてしまうかもしれない。
気づかれれば、この光景は刺激的すぎる。
また気絶してしまうに違いない。
慎重に息を潜ませて状況を伺いながら桃子は作業を進めた。

「悪裂ウイングマン!」
健太は変身したウイングマンの姿で、大見得を切った。
状況はまったくわかっていなかったが目の前にプラス怪人がいる。
それならば倒さねばいけないことは明白だった。
「げっ!? お前がウイングマンとか言うやつか!」
健太の言葉と変身した姿を見て、スキャンプラスはオロオロするばかりだ。
そんな状況も気にすることなく、健太はすぐに切りかかろうとクロムレイバーを抜いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ」
スキャンプラスは両手を上げた。
戦う気はないと表明し、命だけでも助けてもらおうと思ったのだ。
予想外にも弱腰の敵の態度に健太は拍子抜けをした。
「な、なんだ~?」



3.
桃子はウイングマンとスキャンプラスの戦いの様子を見て、ポッドを持ち上げた。
チャンスだ!
ディメンションスーツのお蔭で人一人入っているポッドを苦も無く持つことができた。
「私はか弱い女の子なんだけどなあ……」
ぶつぶつ言いながらもなんとか桃子は美紅のポッドを廊下に隠した。
廊下は狭いので縦にしか置くことができなかったが、もともと縦に置かれていたものなので安定性に関しては何の問題もなかった。
ホッと一息といきたいところだが、もちろん、それで終わりではない。
ウイングマンがスキャンプラスを倒してこちらに来られてはせっかくの苦労も水の泡だ。
それに今のポジションなら見えはしないが、少し移動すれば見ててしまう可能性も高かった。
それに、やはり、今のくるみと美紅の姿を健太に見せるわけにはいかないのだ。
「どこかに美紅ちゃんたちの服があると思うんだけど……」
しかし廊下にはもちろん美紅たちの服はない。
桃子のうろ覚えの記憶では先ほどの研究施設の中に美紅たちの服があったようには思えなかった。
一瞬、改めて穴から研究室をのぞいてみたが、やはりそれらしいものは見当たらなかった。
それなら美紅を起こして聞くのが手っ取り早い。
まず手始めに美紅のポッドを見た。
ポッドの中に捕えられている美紅をこの機械から解放しなければならない。
よく見るとポッドの横にスイッチがあった。
もちろん何のスイッチかなんてわかりはしなかったが、考えている余裕なんて今の桃子にはなかった。
とにかくそのスイッチを押してみた。
ウィーン。
「きゃっ!」
ポッドの透明なカバーがいきなり開いた。
すると裸の美紅が桃子の方に倒れこんできたのだ。
「美紅ちゃん、起きて……」
桃子は美紅の体を受け止めがまだ起きてはこない。
とりあえずはまずこのポッドから出さないとと、美紅を抱えながら引っ張ってみた。
しかし、すぐに抜けてはくれない。
どうやら美紅の足にブーツが引っ掛かっているようだった。
桃子は慎重に美紅を引っ張るとブーツはポッドに引っかかったままだったが、体はするりと抜けた。
すると美紅の体はガ―ディングポイントに覆われた。
「え? ガ―ディングポイント? どうして?」
美紅が発していたガ―ディングポイントの発動はブーツによって邪魔をされていたのだった。
桃子は美紅があれほど必死にガ―ディングポイントを発動させようとしていたことなど知る由もなかい。
ポッドから美紅を引き出そうと思っていたらたまたまブーツがポッドに引っかかって脱げてしまっただけだった。
しかし、この発動のお蔭で、とりあえず桃子を悩ませるはずだった問題が一つ、図らずも解決してしまった。
「美紅ちゃん!」
桃子が体を揺らすと美紅は目を覚ました。
「う、う……ん」
目を擦ると夢うつつの美紅の目の前には、変身した桃子の姿があった。
「あれ? 桃子ちゃん? どうして……?」


スキャンプラスは手を上げて服従の姿勢を見せていた。
「オ、オレ様は戦闘用じゃないんだ……」
健太としても好き好んで敵を倒しているわけじゃない。
「だったら何をしていたんだ?」
健太はクロムレイバーを下ろし、スキャンプラスに近づいた。
「オレの手に血がついていた。気絶してたんだ細かいことはからわからないけど、お前にやられたと考えるのが妥当だろ?」
健太はそう言ってスキャンプラスの首を掴んだ。
「違う! それは誤解だ! お前の血はただの鼻血だ。自分で勝手に出しただけだ。だいたいオレにはまともな戦闘機能はついてないんだ!」
殺されたくない一心で必死に言葉を重ねた。
「自分で勝手に鼻血って、そんなわけないだろ、お前たちが何もしないで……」
そう言いかけて健太は言葉を詰まらせた。
「あれ?」
何か衝撃的なものを見た記憶が蘇ってきた。
頭を抱えた。
なんだ、あの衝撃的な映像は!?
必死に絞り出そうとすると、裸にされたくるみの姿が蘇ってきた。
思わず鼻血が出そうになったが、そんなことを言っている場合ではない。
「貴様ぁ~っ!!」
健太はスキャンプラスに怒りをあらわにした。
「くるみちゃんに、何をしたぁ~っ!」

 
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