真田十勇士
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巻ノ四 海野六郎その十二
「己の鍛錬に励むべし」
「戦と政に備え」
「その通りじゃ、ではな」
「はい、決勝ですな」
「三好清海入道との」
「あの者確かに強い」
三好清海、即ち清海についてだ。幸村は率直に述べた。
「それも相当にな」
「その清海にどう勝つのか」
「そのことですが」
「殿、勝たれて下さい」
「我等は殿こそがと思っています」
「無論拙者としても負けるつもりもない、いや」
幸村は確かな声で二人に答えた。
「策がある、案ずるな」
「では」
「殿の戦、見せてもらいます」
「その様に」
海野も含めて三人で言う、そのうえで幸村を見送った。土俵に向かう彼を。
牛鬼は既に相撲の場を後にして服を着ていた、その彼のところに男が三人程来てそのうえで声をかけてきた。
「土蜘蛛殿、勝負を降りられましたが」
「どうかされましたか」
「何処か悪くなられましたか」
「いや、何ともない。ただあの海野という者と話してわかったのじゃ」
そうだったとだ、牛鬼は自分よりも遥かに小さい男達に話した。
「あの者の主である真田幸村殿はまさに天下の傑物じゃ」
「確か真田家の次男殿ですな」
「まだ元服して間もないですが智勇兼備、文武両道の方ですな」
「相当な方と聞いていますが」
「あれだけの者が惚れて従っておる」
海野の器も見抜いての言葉だ。
「そこまでの方ならじゃ」
「相当な方である」
「そのことがわかったからですか」
「勝負を降りられたのですか」
「幸村殿と勝負するのも面白いと思ったが」
しかしというのだ。
「離れて観たいとも思ってな」
「だからですか」
「土俵から降りられ」
「観られることを選ばれましたか」
「そうじゃ、まあ餅と酒は残念じゃったがな」
牛鬼はこの二つのことには少し苦笑いで応えた。
「しかしそれは何時でも手に入る」
「ですな、欲を張らずとも」
「手に入る時は手に入ります」
「そうしたものですから」
「だからよい」
優勝の商品はというのだ。
「別にな」
「ではこれより真田殿の勝負を観ますか」
「そうされますか」
「そのつもりじゃ、相撲は多くのことを観せてくれる」
牛鬼はこんなことも言った。
「ただの勝負ではない」
「その者の強さ、そして器もですな」
「見せるものですな」
「姑息な相撲をする者は姑息でじゃ」
そしてというのだ。
「相撲で相手をいたぶる者はならず者じゃ」
「いますな、小さな力を全てと思う輩が」
「この天下には」
「匹夫の勇の者が」
「その様な者の相撲は小さいし下らぬ」
まさにだ、語るまでもないものだというのだ。
「しかし器の大きな者の相撲は違う」
「大きくそして絵になる」
「そうしたものですな」
「そうじゃ、真田殿の相撲は見たところかなり大きいが」
そして見事だというのだ。
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