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黄花一輪

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5部分:第五章


第五章

 韓に着いた。都に入り侠累の屋敷まで行く。そこはもう屋敷と言えるものではなかった。
「これは」
 聶政はその屋敷のあまりもの豪奢さ、大きさに息を呑んだ。周りには物々しく武装した兵士達が大勢取り囲んでおりまるで城の様である。だが彼は臆してはいなかった。空は暗い雲に覆われようとしている。その下で今一歩前に出た。
「こら」
 その彼に門を護る兵士の一人が声をかけてきた。
「一体何の用だ?用がないのなら去れ」
「一つお伺いしたいことがあります」
 彼は逆にその兵士に尋ねた。
「何だ?」
「宰相様はこちらにおられるのでしょうか」
「?そうだが」
 彼は素っ気無く答えた。別にこの答えには何もおかしいところはなかったがそれがかえってことを起こしてしまうことになる。彼は聶政が何の為にここに来たのかを知らないのだ。4
「陳情なら今は時間ではないぞ」
 兵士は彼に言う。
「それは明日にしろ、よいな」
「陳情ではありません」
 彼は言った。
「そうではないのです」
「では何だ?食客か?」
「いえ」
 そうでもないと言った。
「それとはまた」
「では何だ。その身なりからはどちらかとしか考えられん。冷やかしで来たのならさっさと帰れ」
「それでもないのです」
「わからん奴だな」
 いい加減苛立ちを覚えてきた。
「では一体何なのだ」
「それは」
「それは?」
 空気が張り詰める。しかしそれは聶政だけが感じていることでありこの兵士は感じていなかった。
「これでございます!」
「!!」
 腰に持つ剣を一閃させた。それで兵士の喉を切り裂いた。
 一瞬のことであった。兵士は首の半分を断ち切られた。言葉を発する間もなくその場にどう、と倒れ込んだ。
「済まぬな。そなたには怨みはないが」
 聶政はうつ伏せに倒れた兵士の亡き骸を見下ろしてこう言った。
「だが今の私は。やらなければならんのだ」
「何だあいつは!」
「一人斬っているぞ!気をつけろ!」
 屋敷の方から兵士達がやって来る。もう後には引けなかった。
「侠累殿!」
 彼は門で大声でその名を呼んだ。
「お命頂戴する!覚悟!」
 そして駆け出した。その手に剣を持ち。一直線に屋敷へと向かっていく。
 そこに兵士達が群がる。だが聶政は剣を縦に横に振り回し彼等を斬り伏せていく。そして恐るべき速さで屋敷に向かっていくのであった。
 兵士達では抑えられない。聶政は彼等を突破して遂に屋敷の前に来た。そこには大きな鉄の扉があった。
 これならばどうあっても無理だ、普通ならばそうであった。しかし聶政は。その剣を門の扉の合わせ目に真一文字に一閃させたのであった。
「なっ!」
 彼を必死に追う兵士達はそれを見て唖然とした。気合一閃で扉を斬り開いたのである。彼の前に門がゆっくりと開いたのであった。
「何という男だ」
「剣で鉄の扉を開くとは」
 兵士達は何と言っていいのかわからない。聶政はそんな彼等を振り向くことなく屋敷の中へと入って行く。そして。その中でも襲い来る兵士達を斬り捨て中へ中へと進んで行く。中のことは知らない筈なのに彼はまるで全てを知っているかの様に屋敷の中を進んでいた。
 奥へと入る。そこには。侠累がいた。

 
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