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武后の罠

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4部分:第四章


第四章

 これ以降高宗はさらに昭儀とその取り巻き、若しくは息のかかった者達だけを信頼するようになった。既に朝廷でも彼女の手は伸びていたのだ。それに反比例して無忌と遂良、そして二人の后達への信頼はなくなっていった。その次に恐ろしい出来事がまた起こった。
 高宗の寝室においてだ。そこを宦官達が掃除していると。
「!?これは」
「何だ?」
「人形か!?」
 寝台の下から何かを見つけたのだ。白い絹の寝台の下に彼等は見つけたのだ。
「木の人形だな」
「間違いない」
 彼等は口々に言う。見れば確かに木の人形が寝台の下にあった。何処か見たことのあるような外観の人形であった。不思議なことに。
 そして彼等は。その人形を見て気付いたのだ。
「陛下に似ているな、この人形」
「うむ」
 人形達を見て言うのだった。
「確かにな。そっくりだ」
「いや、そっくりなだけではないぞ」
「見ろ」
 何とその人形には文字が書かれていた。それは呪いの文字だった。
 尚且つ胸に刃が突き付けられていた。これは尋常なことではなかった。彼等はすぐにその人形を拾って調べ出した。その結果恐ろしいことがわかったのだった。
「朕を呪っていると」
「はい」
「その通りです」
 高宗の前に出て報告する宦官達は強張った顔で述べていた。膝をつき腕を服の中に組んでいるその顔は蒼白になっている。恐ろしいものを見た顔だった。
「それがこの証拠です」
「この人形です」
「確かに」
 高宗は宦官達が見たその人形を見て顔をさらに強張らせた。他ならぬ自分自身にそっくりだということが彼にもわかったのだ。
「朕に似せておるな」
「尚且つ呪いの文字が書かれ」
「胸には刃まで」
「朕を呪い殺そうというのか」
 彼はここまで見たうえでそのことを確信したのだった。
「この朕を。何故」
「やはりここは誰か」
「誰かが陛下を」
「誰だ」
 彼は顔をさらに強張らせて言った。
「誰が。何の目的で朕を」
「調べましょう」
「陛下、まずは」
 宦官達は恐る恐る高宗に対して述べた。
「下手人が誰かわかりませぬ。ですが」
「これは許せないことです」
「そう、その通りです」
 何故か宦官達の言葉は絶妙なまでに息が合っていた。
「陛下を呪い殺そうなどとは」
「誰であろうと」
「よし、わかった」
 高宗はここまで聞いたうえで決断を下したのであった。
「すぐに取り調べに入れ」
「はい」
「宮中だけでなく朝廷もだ」
 彼はさらに言う。
「長安全土もだ。必要とあらばこの大唐全体でもいい」
「そうですな。事態が事態です」
「ですが陛下」
 宦官の一人が何気なくなのかどうなのかここで口を開いた。
「重点的に調べる場所はやはり決めるべきかと存じますが」
「重点的にか」
「はい、それです」
 高宗が人の話を聞く温和な性質であることを見極めたかのように言う。剛毅な気質の太宗とはそこが違うのだ。彼の長所でもあるが時としてそれが短所にもなる。
「それをまずは決めましょう」
「そうだな。それでは」
「それでですが」
 彼は高宗が言う前に言ってきた。
「やはり宮中を第一に調べるべきかと」
「この宮中をか」
「そうです。この人形は宮中で見つかりました」
 真剣な面持ちで皇帝に進言していた。
「この宮中で。ましてやこの寝台に入られる人間は限られています」
「うむ」
 宦官達の言葉に対して頷く。
「そうだな。ここしかないな」
「そうです。ですから」
「この宮中を重点的に調べましょう」
「犯人はおそらく宮中にいます」
「誰かはわかりませんが」
「恐れ多くも陛下を怨んでいる不埒者が」
「許してはおけぬ」
 宦官達の言葉を聞いているうちに怒りがこみ上げてきたのだった。温和な高宗であるがやはり怒りはその中に持っているのだ。
「その者。何があってもな」
「では陛下早速」
「取調べを開始します」
 彼等は決意を皇帝に見せてみせた。
「すぐに我等宦官の全力を以って」
「不埒者を見つけ出しましょう」
「朕が許可する」
 彼にしては珍しく強い言葉であった。
「多少のことは許す。かかれ」
「はっ」
 こうして取調べがはじめられた。宮中がくまなく調べられていった。そしてその結果驚くべき場所から驚くべきものが見つかったのだった。
 
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