シンデレラボーイ
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第四章
「最後の最後まで全力、いや全力以上を出すよ」
「その意気だ、いい歌を聴かせてくれよ」
「いつも通りな」
「あんた実力はあるんだ」
「だからいけるさ」
こう話してだ、そのうえでだった。
スタッフ達もだ、彼の背中を押してローリーの相手役をすることになったキュリーを声でも実際でも励ました、そして。
彼はマウリツィオとして歌った、すると。
その歌と演技がだ、忽ちのうちにだった。
マスコミ、ネットで話題になった。そのうえ。
彼を推薦し共演したローリーもだ、キュリー自身に言った。
「思った以上によかったわ、だからね」
「だから、ですか」
「ええ、若し貴方がよかったら」
微笑んでだ、キュリーに声をかけた。
「私と一緒にね」
「舞台において」
「歌ってくれるかしら」
「ということは」
「そうよ、私は世界を回ってるけれど」
大歌手だけあってだ、ローリーはまさに世界を飛び回っている。そうして素晴らしい歌唱を世界に聴かせているが。
そのパートナーにキュリーを指名したのだ、その申し出を受けてだった。
彼は信じられないといった顔でだ、ローリーに尋ねた。
「夢ではないですね」
「何なら頬をつねってみる?」
「いえ、それはいいです」
とりあえず夢でないことは実感出来たからだ、ローリーのその言葉で。
「夢じゃないことはわかりました」
「そうね、それじゃあね」
「はい、返事ですね」
「どうかしら」
「是非共」
これがキュリーの返事だった。
「お願いします」
「それではね」
こうしてだった、キュリーはローリーの相手として契約している歌劇場だけでなくだ。
他の、それも世界中の歌劇場で歌うことになった、このことについて。
彼はスタッフ達にだ、まだ信じられないといった顔で話した。ローリーとの話の後にパブで飲みながらだ。
大ジョッキのビールを思いきり飲んでからだ、こう言った。
「いや、まさにね」
「シンデレラだね」
「そうなったね」
「うん、なったよ」
こうスタッフ達に言うのだった。
「本当にね」
「そういえばローリーさん優れた歌手を発掘して引き立てる人だったな」
「それがクラシック界の発展になるって」
「そうした人だからか」
「君も選んだ」
「そういうことか」
「そうなんだね、しかし」
キュリーは酒のあての茹でたソーセージも食べつつ述べた。
「それが僕になるなんてね」
「まあ君の実力と容姿ならね」
「それも有り得ることではあるけれど」
「それでもね」
「君自身だとは思わなかったんだね」
「まさかだったよ、チャンスは来て欲しかったけれど」
それでもというのだ。
「本当に来るなんてね
「想像も出来なかった」
「そういうことか」
「実際にチャンスが来るとはね」
「思っていなかったか」
「思いも寄らなかったよ、けれどね」
キュリーは周りに目を輝かせて答えた。
「こうしたこともあるんだね」
「ああ、それじゃあな」
「そのチャンスを活かしてな」
「世界に羽ばたいてな」
「歌と演技を見せてくれよ」
「そうさせてもらうよ」
是非にと言うキュリーだった、そして実際にローリーと共にだった。世界でその美声に技量、それに演技も見せてだった。
彼は世界的な名声を得て超一流の歌手となった、それから自伝でこう書いたのだった。
『あのチャンスが私をシンデレラにしてくれた、彼女が私の王子だ』
ローリーがというのだ、まさに彼女こそが彼にとっての王子であり自分はシンデレラだったというのだ。男ではあっても。シンデレラになるのは少女だけでなく誰にも有り得ることだというのだ。そのチャンスが導けば。
シンデレラボーイ 完
2015・5・17
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