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動物裁判

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3部分:第三章


第三章

「第三者が出した証拠が必要です」
「それがなければどうなるっていうんだ」
「被告は無罪となります」
 弁護士は言った。
「そうなります」
「おい、そんなのあるか」
 原告は思わず怒った声で言い返した。
「俺は怪我をしてるんだぞ。それでか」
「そうだ、その通りだ」
 検事も言う。
「そんなことは許されない」
「しかし証拠はありません」
「いや、ある」
 検事はここで主張した。
「それはある」
「あるのですか?」
「そうだ、見ろ」
 こう言うとであった。原告に顔を向けて言うのであった。
「あれを」
「あれをとは?」
「腹を見せるんだ」
 こう原告に話すのである。
「いいな」
「わかりました。それじゃあ」 
 原告は検事の言うことを理解してだ。そのうえで服を胸まで脱いでその腹を見せたのであった。するとそこにあったものは。
「跡だよな」
「ああ、痣になってるよな」
「そうだよな」
 観衆達もそれを見て言った。
「青痣だよな」
「あれはな」
「しかも蹄の跡だよな」
「しかもあれは」
 見るとだ。その蹄の形は。
「先が分かれているよな」
「それにあの形と大きさは」
「ああ、間違いないな」
「あれだ」
「豚の蹄の跡だ」
「これが何よりの証拠」
 検事は原告のその胸を裁判官や観衆達に見せながらさらに話す。
「被告が原告を襲った何よりの証拠である」
「さて、それが証拠なのでしょうか」
 弁護士はそう言われても平然と返すのだった。
「果たして」
「違うというのか」
「それは証拠にはならないでしょう」
 こう言うのである。
「とてもです」
「何故だ」
「例え豚の蹄であっても」
 それでもだというのだ。
「それが被告のものとは限りません」
「違うというのか」
「大きさや形が完全に同じとは限らないでしょう」
 だからだというのである。
「それでどうして証拠と言えるのでしょうか」
「そうだよな」
「豚っていっても多いしな」
「ああ、多い」
「それじゃああの豚がやったってな」
「証拠にならないよな」
「全くだ」
 観衆達は今度も弁護士の言葉に動いた。
「となるとな」
「やっぱりあの豚じゃないんじゃないのか?」
「ああ、豚にしてもな」
「犯人じゃないだろ」
「証拠がないんだったらな」
 何につけてもここが重要だった。証拠であった。
 
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