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ジェヴォダン

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第一章

                        ジェヴォダン
 河原崎祐太教授は日本における生物学、特に哺乳類のそれの権威だ。とりわけイヌ科の生物についてはかなりのものだ。
 八条大学においてこの日も講義を行っていた、この日は犬や狼についての講義だった。
 講義は無事に、いつも通り何もなく終わり教授は自身の研究室に戻ろうとしていた。だがここでなのだった。
 学生の一人三島豊、背は一七四程で黒髪を上の部分を中心に伸ばしワイルドな感じでセットをしており面長で顎の方が少し尖った感じでだ。鋭い目と鉤爪型の黒い濃いめの眉と引き締まった口元と高い鼻を持つ彼が河原崎に問うてきた。
「教授、お聞きしたいことがありますけれど」
「三島君だね」
「はい」
 名前を問われてだ、豊はすぐに穏やかなほんわかとした感じの声で答えた。声の調子は外見とは正反対だった。
「そうです」
「僕にお聞きしたいこととは」
「狼のことですけれど」
 豊が聞きたいことはこの動物のことだった。
「あの動物のことで」
「狼かね」
「そうです、狼は人を襲わないのでしたね」
「だから犬になれたんだ」
 家畜化してだ、犬は最初の家畜だとさえ言われている。
「実際にね」
「そうですよね、相当に餓えているか訓練したものでないと」
「人は襲わないと」
「狼は」
「犬もね」
 河原崎はこちらの生物についてもそうだと言った。
「人を襲わないよ」
「そうですね」
「けれどそれがどうしたんだい?」
「あの、フランスのお話を読んだんですが」
「フランスの?」
「ジェヴォダンの野獣です」
「あっ、あの野獣だね」
 河原崎も知っていることだった、それでだ。
 はっとした顔になってだ、すぐに豊に言った。
「多くの人を食い殺したという」
「あの野獣は狼ですか?」
「そのことを話そうか」
 河原崎は真剣な顔になり豊に答えた。
「時間はあるかな」
「はい」
 豊は河原崎の問いにすぐに答えを返した。
「次は講義がないので」
「では大丈夫だね、私もね」
 河原崎は自分の事情も話した。
「次は講義がないから」
「それじゃあ」
「うん、私の研究室に来てくれ」
 こう豊に言って誘った。
「それで詳しい話をしよう」
「お願いします」
 こうしてだった、二人は河原崎の研究室に入ったのだった。そこは本に囲まれ冷暖房器具やお茶の用意も出来た部屋だった。部屋の中央にはテーブルがあり奥には机と椅子、河原崎個人の為のそれがある。
 その部屋のテーブルにだ、二人は向かい合って座った。そしてだった。
 豊はまずだ、河原崎に怪訝な顔で問うた。
「あの野獣は狼だって言われていましたね」
「最初はね」
 その通りだとだ、河原崎も答えた。
「実際フランスには狼による被害の話が結構あったよ」
「そうでしたね」
「パリを襲った狼王クルートーや」
「他にもでしたね」
「欧州全体でそうだったけれど」
「狼は家畜を襲うからですね」
「そう、それでだよ」
 河原崎は豊のこの言葉にも答えた。 
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