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僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。

作者:小狗丸
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月の聖杯戦争開戦

【本日より聖杯戦争本戦を開始する。
 そしてそれと同時に特別戦闘区域「アリーナ」を開放する。】

 予選を突破してアヴェンジャーと契約をした日から三日後。ホームで休んでいると携帯端末から運営からの連絡がきた。

 ……いよいよ聖杯戦争の本戦が始まるのか。

 本戦は聖杯戦争に参加してサーヴァントと契約した霊子ハッカー、百二十八名のマスター同士が戦い合うトーナメントバトル。最大で七回の戦いを勝ち抜いたマスターが優勝となり聖杯が与えられる。

 そして一度でも負ければそれでおしまい。敗者復活戦なんてものはなく、敗北のペナルティはSE.RA.PHより与えられる「死」。

 ……まずいな。分かっていて聖杯戦争に参加したはずなのに、改めて考えると背筋が寒くなってきた。

 考えれば考えるほど不安が大きくなってきて気づいたら手も僅かに震えてい……。

「マスター♪」

「うわっ!?」

 震える手を見つめていたら突然アヴェンジャーが後ろから抱きついてきた。どことなく甘い香りがして背中に柔らかい感触が……いえ、何でもないです。

「アヴェンジャー?」

「マスター、そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だって。だってマスターには私がいるんだから。通常の私は宝具頼み……もとい、宝具特化型の二流サーヴァントだけど、今の私は謎の怨念パワーで魔力が『EX』だからね。戦い方次第では一流サーヴァントにも引けをとらないって」

 胸を張りながら元気のよい笑顔で僕を励ましてくれるアヴェンジャー。

 その笑顔を見れば彼女が復讐者の英霊とはとても思えないのだが、気がつけば彼女の笑顔に癒されて手の震えが消えている僕がいた。

「ありがとう、アヴェンジャー。……でも、自分で自分のことを二流サーヴァントって言ってもいいのか?」

「こんなことで意地張っても仕方がないじゃない? 一流でも二流でも勝つときは勝つし、負けるときは負けるんだから。要は勝てばいいんだって」

 何、このサーヴァント? 可愛らしい少女なのに凄く男前なんですけど?

 ☆

 聖杯戦争の本戦が始まったと言っても、すぐに対戦相手と戦う訳ではなく、本戦は対戦の前に六日間の猶予期間がある。そして聖杯戦争の参加者達は、この六日間の猶予期間で対戦相手の情報を探ったりと準備を行い、対戦を少しでも有利に進めようとするのだ。

「とりあえず折角アリーナが開放されたんだから行ってみるか」

 アヴェンジャーのお陰で気持ちが落ち着いた僕は早速アリーナに向かうことにした。

 アリーナというのはSE.RA.PHが造った電子の迷宮のことで、アリーナには敵性のプログラム「エネミー」が徘徊しており、戦闘訓練にはうってつけの場所だった。僕がアリーナに行くのは、エネミーと戦うことでアヴェンジャーがどれ程の実力で、どのような戦い方をするのかを確認する為だ。

『うん、任せて。アリーナに行ったら私の凄いところを見せてあげるから楽しみにしてて♪』

 霊体化して僕のそばについてきているアヴェンジャーのやる気充分なようで、声の様子だけで姿は見えなくても彼女がガッツポーズをとっているのが分かる。このサーヴァントは本当に元気だよな……っと。

「っ! おっと」

「あ……。ごめん」

 アヴェンジャーと話ながら歩いていると階段から降りてきた男子生徒とぶつかりそうになった。見たところNPCじゃなくて僕と同じマスターみたいだけど……何か様子が変だな?

「顔色が悪いけど大丈夫か?」

「……うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」

 僕が訊ねると男子生徒はぎこちない笑みを浮かべて廊下の向こうへと歩いていく。何故か気になってその後ろ姿を見ていると、近くから誰かの話し声が聞こえてきた。

「どうしたのアー……ううん、ごめん、その名前は呼ばない約束だったね。それであの生徒がどうかしたの?」

 声がした方を見れば、そこには僕と同じように廊下の向こうへと歩いていく男子生徒を見ながら独り言を呟く女生徒がいた。恐らくは彼女もマスターで、独り言に聞こえたのはサーヴァントとの会話なのだろう。

 これが僕、平和時行と「青野北斗」、そして「岸波白野」の初めての出会い。

 これから先僕達三人は聖杯戦争を勝ち残り、何度も顔を会わせる事になっていくのだが、この時の僕はそんな事になるとは全く考えもしなかった。 
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