学校の小さな防人
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ACT.2 「暗い今と暗い過去」
前書き
恋愛って書いた事ないから適当。
「長門分隊長‼」
放課後、帰宅しようとしていた時に呼び止められた。長門分隊長と律儀に呼んでくれるのは上に従順な長谷くらいだ。他は「分隊長」や、「長門さん」と呼んでいる。
「どうした、長谷」
長谷は困った顔で言った。
「伊吹先輩が…三年生に絡まれていて…」
「なにっ‼」
芽衣は大人しめの性格のせいかいじめられたり、上級生に絡まれることがあった。あった、と過去形なのは、そんな事が中学生以降、つまり高校生になってからは起こっていないからだ。小学生から計10年以上関わっていて、尚且つ自分の班の隊員ともあれば、心配の度は大きい。
「長谷、行くぞ」
長谷は了解、と答え、付いて来た。
長谷の誘導で校舎の間を縫い、体育館の裏へ走る。途中、腰のホルスターからUSPを取り出した。目的は威嚇のためだ。スライドを引き、初弾を装填する。軽い金属音が鳴り、装填された事を伝えてくれた。それを見て、長谷もホルスターからニューナンブM60を取り出そうとしたが、責任を取るのは自分だけでいいと判断し、止めておいた。
USPをホルスターに戻し、体育館の裏に出ると、確かに長谷の報告通り、三年生の男女数名と芽衣が対峙していた。三年生側は何か強い口調で責めたてているが、芽衣の方は怯えたように肩を震わせ、ただじっと耐えているのが遠目でも見えた。と、そこへ…
「どうしたの、長門クン?」
ビックリして振り返って見ると、SDFチーム2の分隊長、加藤春香先輩が居た。加藤先輩は訓練があったのか、戦闘服姿で、腰にはシグ社のシグザウアーP220がホルスターに収納されており、胸の辺りにはMP9短機関銃が肩から吊り下げられていた。
「加藤先輩、ちょっと…」
長谷は三年生を指差した。
「あれは…塩谷君と疋田さん、それに山下くんに大矢さん…どうして…」
加藤先輩は強い口調で言った。
「あの4人には関わっちゃダメ。いいわね?」
そう告げると、加藤先輩は踵を返し、校舎の方へ歩いて行った。
「先輩、どうしますか?」
長谷が困った顔でこちらを見て来た。
「どちらにせよ、やるしかないだろう…」
そう言って三年生の方へ歩く。
距離が50m程になった時、山下と呼ばれていた男子生徒がこちらに気付いた。
「おぉ?なんだぁ?」
いかにも柄が悪いといった印象の山下、それ以外の三人は、普通の優等生のような外見をしている。
その4人に取り囲まれた芽衣もこちらに気付き、振り向いた。
顔が見えた。泣いていた。嗚咽を漏らし、肩を震わせるそれは、3年前に見たいじめられていた頃の表情と全く同じだった。
「放してやってくれませんか?」
精一杯憤りを抑えた声で発言する。
「はぁ?何ぃ言ってんだァこいつゥ?」
独特の口調で話す山下はすでにこちらに向かって歩いて来ている。
塩谷と言われていた長髪ノッポも何かを掴みながらこちらに歩いて来た。その手にちらりと見えたのは、ナイフだった。果物ナイフなどではなく、軍人が使うようなサバイバルナイフだった。
「ひっ、ひっ…」
不気味な笑いを浮かべた塩谷は学生服のポケットを漁ると、さらに何かを取り出した。
銀色の鉄の塊、と最初は思った。予想は合ってもいるし、間違ってもいた。
コルト・ガバメントM1911。それが、塩谷の取り出した「銀色の鉄の塊」の正体だった。
銃器のライセンス自体は高校生から取れるので、持っている生徒もこの学校には少なくないが、校内への持ち込みは禁止されている。
塩谷は持っていたサバイバルナイフを山下に渡すと、自分はガバメントのスライドを引き、初弾を装填した。
「長谷、遠慮無くやれ」
長谷に素早く指示を出すと、ホルスターからUSPを引き抜く。約0.5秒で狙いを定める。狙いは塩谷の右手首、又は頭部のどちらか。
流石に昏倒させては不味いと思ったので、瞬間的な判断で手首側に照準を定める。
塩谷もガバメントを構える動作に入っている。が、こちらの方が早い。
焦らず、ガク引きをしないように絞る様にトリガーを引く。
瞬間、パァァンという音と発射炎と共に、USPの銃口から装填された弾薬が飛び出した。弾種は軟質プラスチック弾のEM65.45cal。スクリューに沿って回転の力を受けた弾は、真っ直ぐに照準した所…塩谷の右手首に直進し、そして命中した。
「うわァぁァ‼」
塩谷の絶叫と共にガバメントはコンクリートの地面に落ちた。
その隙を見逃さず、距離を一気に詰める。得意技の間合いだ。
塩谷の貧相な左腕と右肩を掴み、そのまま投げる。勿論、地面はコンクリートなので、袖は掴んだままで。
「ぐぅっ…」
背中を打った塩谷はそのまま地面に倒れ伏せ、気を失った様に動かなくなった。
後ろを振り返ると、丁度山下が長谷の大外刈りを受け、倒れる所だった。長谷まではいかなくとも、相当な巨体を持っている山下が倒れた事に女子生徒の疋田と大矢は戦意を無くしたらしく、芽衣を置いて逃げて行った。
「芽衣っ‼」
崩れ落ちる寸前だった芽衣を何とかキャッチし、立ち上がらせる。
「どうした。あの連中になんかされたのか?」
泣き顔の芽衣はしきりに首を振って否定するばかりで、回答はもらえそうにない。
「とりあえず、校舎に行くぞ」
芽衣が歩き出すと無意識に手を繋いでいた。きっと芽衣の不安を和らげるためだったのだろう。芽衣の方もそれに甘え、指を絡めてきた。
数十秒歩き、校舎に辿りついた。
芽衣が荷物を取ってくるから待っていて、と泣き声で言っていたから、一階の玄関で待機した。
数分後、紺色のリュックサックと共に現れた芽衣の顔は、大分普通の顔に戻っていた。
「じゃ、行くぞ」
二人共家は近所なので、帰り道は大体同じだ。
先程と同じく手を繋ぎ、歩く事数分。
「ねぇ、長門君」
いきなり芽衣が口を開いた。
「どうした」
「私って、強くなれたのかなぁ。中学生の頃、覚えてる?」
あれは中3の秋だったか。芽衣が同学年の男子にいじめられている所を長門が助けた事があった。その時、芽衣が「これ以上、皆に迷惑をかけたくない。私は強くなる」と言っていたのを覚えている。その後芽衣は、陸上自衛官である父に近接格闘術を教わり、高校生からはSDFにも入隊した。
「覚えてるよ。芽衣は充分強い」
でも、と付け加える。
「防衛と個人とじゃ話は別だ。たとえ近接格闘術を身に付けようが、人という物は変わらない。だから仲間を頼れ。俺達はお前の仲間だ」
仲間…と微かな声で芽衣が囁く。
「頼れる奴はいっぱいいるんだ。拓馬、長谷、柿原、加藤先輩、そして俺も。遠慮はするな」
「いいの…?迷惑じゃ…?」
「あのなぁ、俺達はお前の事を仲間だと思っている。仲間なら、迷惑とか、遠慮とか、そんな物は気にしなくていい。分かったか?」
芽衣は小さな声で「…うん」と呟くと、口を自分の耳元へ持って行き、小さな声で「私の事を、守ってね」と言った。
その後、T字路で別れた二人の顔が赤くなっていた事は、双方とも知らない。
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