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獣皮パーカー

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第一章

                 獣皮パーカー
 アメリカアラスカ州は寒い、北極圏にあるから当然のことではあるが。
 その寒さにだ、ワシントンから来たFBI職員であるミヒャエル=パーカーも困っていた。それで妻のロザンナに言った。
「寒いな」
「アラスカだからね」
「そのせいか家もな」
 ミヒャエルは借りた家の中をここで見回して言った。
「違うな」
「アメリカの普通の家とはね」
「窓や扉は三重でね」
 ロザンナはそのブロンドの豊かな髪を掻き分けつつそのブラウンの目で夫を見つつ言った。ミヒャエルの目は黒で髪も同じだ。二人共コーカロイドの顔立ちで背も高い。
「壁も厚くてね」
「屋根も低いな」
「すぐに温まる様にしてあるわね」
「それだけ寒いということだな」
「そういうことね」
「やれやれだな」
 ここでだ、ミヒャエルは溜息も出した。
「これまでの赴任場所で一番寒い場所だな」
「そう言うけれどFBIならね」
「ああ、アメリカ全土が仕事だからな」
 それでとだ、ミヒャエルもわかっていて答えた。
「アラスカに来るのもな」
「有り得たことだからな」
「普通にね」
「そうだな、それじゃあな」
「納得してね」
 アラスカに赴任したことはというのだ。
「ここで暫く住みましょう」
「そうしようか、まあアラスカはな」
 ここでだ、ミヒャエルは妻にこうも言った。
「寒いだけあってな、広いけれどな」
「人口密度は低くて」
「犯罪も少ないさ」
「つまり仕事が少ないのね」
「だから暇は充分にあるさ」
「その間趣味に打ち込むってことね」
「ゲームをして読書をしてな」
 そしてというのだ。
「後は酒だな」
「本土にいると時と一緒ね」
 その趣味はというのだ。
「変わらないわね」
「そうだな、やる時間はずっと長いがな」
「インドア生活ね」
「それを満喫だな」
 こうした話をだ、ミヒャエルはロザンナとアラスカに来てすぐにこうした話をした。しかしその話をしてからだった。
 アラスカでの生活をはじめた、確かに暇は充分にありだ。
 趣味は楽しめた、しかし。
 寒い、家の中は暖かいがだ。
 外は桁外れに寒かった、それで赴任地のフェアバンクスのオフィスでだ。彼は昔からこのオフィスにいる同僚のマキル=アスカイネンにこう言った。暖かい部屋でコーヒーを飲みつつ。
 窓の外を見た、そこは吹雪で言うのだった。
「ここは暖かいけれどな」
「外はな」
「極寒地獄だな」
「ダンテの神曲のな」
「ははは、コキュートスか」
「そんな感じだろ、外は」
「確かにな、外に出たらな」
 それこそだった。
「一苦労だな」
「家に帰るまですらな」
「家もフェアバンクスにあるけれどな」
 それでもだ、あまりもの寒さと吹雪の激しさ故にだ。
「遭難しかねないな」
「本当にな、けれどな」
「それでもか」
「ここにいたら仕方ないさ」
 アスカイネンは笑って言った、目は青で髪は蜂蜜色で少し額が広い。顔は彫のあるコーカロイドのものだが。
 少し肌に黄色がかったものが見られる、その顔でこう言うのだ。 
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