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異世界系暗殺者

作者:沙羅双樹
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現場の時間(2016/05/16 一部修正)




【視点:樹】



ポチと堀部がE組生徒を利用した奸計のせいで、水を吸って全身の触手がふやけた状態――しかも、水辺で堀部と触手対決をすることになった殺センセー。

ただでさえ圧倒的不利な状況の上、殺センセーが助けた吉田、村松、原の3人は直接対決が行われている触手の射程圏内。特に木の枝にしがみ付いているポッチャリが売りの原は今にも落ちそうだ。

殺センセーのことだ。3人の安全に気を配るあまり、戦いに集中できずにいるんだろう。ただでさえ水を吸って動きが鈍っている触手の動きが、更に鈍っている。

今の状況を簡潔に述べるなら、拙さの二乗倍といった所か?このままじゃ、殺センセーは大した間も無くタコ殴り状態になる。


「イッキ君、どうにかならない?」
「そうだよ!イッキ君なら原さん達を助けることも―――」


有希子が俺に尋ねてくると、渚も続いて口を開いた。それに対する俺の答えは―――


「相手が堀部だけなら、原達を助けることはできる。けど、向こう側にはポチもいるんだ。奴は前回の一件で俺を警戒してる筈。
皆――子供を犠牲にする可能性がある計画を平然とする奴だ。俺が3人を助けに出れば、ポチは何かしらのアクションを起こし、更に殺センセーの動揺を誘おうとするに決まってる。
現にポチの野郎、俺から視線を外そうともしない。せめて、今俺が履いてるのが風の玉璽(レガリア)じゃなくて空の玉璽(レガリア)だったら、如何とでもしようはあっただろうけど……」


いや、空の玉璽(レガリア)でなくてもいい。せめて雷の試験型玉璽(テストタイプ・レガリア)が完成していれば、ワイヤーを使って3人を助けることはできただろう。


「一瞬でもポチの気を俺から逸らすことができれば、原達を助けることもできるんだけど―――」
「シロの気をお前から逸らせば、原達は助かるんだな?南」
「……クソゴリラ。今更、何しに来た?」
「自分のケツを自分で拭きに来たんだよ。で、シロの気をお前から逸らすことができれば、原達は助かるんだな?」
「………俺が助ける訳じゃないけど、助かることには違いはないな」
「そうかよ。なら、俺が奴の視線をお前から逸らしてやるよ」
「……お前、自分が何言ってるのか分かってるの?」
「おうよ。俺が囮になってやるって言ってんだ」
「……そう。分かってるんならいい。奴の視線を俺から外せるよう、精々頑張ってくれ。期待はしないけど」
「言ってろ!」


クソゴリラは俺との会話を終えると、ポチや堀部に最も近い岩の上へと向かった。そして―――


「シロ!イトナ!!」
「「!」」


大声で2人の名前を叫んだ。確かに、大声で名前を呼ばれたら、否が応にもそっちに気が向くわな。


「やぁ、寺坂君。どうしたんだい?そんな怖い顔をして。今近付いたら危ないよ?」
「てめぇら、よくも俺を騙してくれたな!」
「何を怒ってるんだい?ちょっとクラスメイトを巻き込んだだけじゃないか」
「ちょっと、だと?そのせいで俺は大量殺人未遂の実行犯になっちまっただろうが!てめぇらだけは許さねぇ!!」
「………五月蠅いな。イトナ、殺センセーの前に寺坂君を黙らせろ。こんな近くで騒がれたら鬱陶しいだけだ」


ポチがクソゴリラに気を向けながらそう言うと、堀部の気もクソゴリラに向いた。そして、堀部の触手がクソゴリラに向けられそうになった瞬間、俺は堀部の頭上へと飛び、拍手する様に大きく両手を打ち付けた。


「「!!?」」


俺が柏手を打つことで空気の塊を生み出し、それを堀部へと叩き付けた。すると、堀場は驚きの顔を浮かべながら水面に叩き付けられた。

当然、俺の攻撃はそれだけで済む訳が無い。俺は着水すると同時に水面に二重の極みを放ち、水を巻き上げ、堀部を水濡れにすることでその触手をふやけさせた。

予想外の攻撃が連続で続けば、水を弾く余裕なんてできる訳が無いからな。で、この奇襲攻撃が行われている間に原は殺センセーに救出されるって寸法だ。


「ポォォチィィィ。随分と嘗めたことしてくれたけど、堀部の触手がふやけた以上、堀部と殺センセーの形勢は五分。そこに俺が加わればどうなるか、分かるよな?」
「……丁寧に積み上げた戦略が、たった2人の子供にメチャクチャにされてしまうとは………。仕方がない、ここは一旦引こう。
他の子達は兎も角、南君を殺すのは簡単ではなさそうだ。何よりそれが原因で感情が不安定となり、反物質臓が暴走しては笑い話にもならない。帰るよ、イトナ」
「………フン」


形勢が不利と判断するや否や、ポチと堀部はこの場から去って行った。


「………はぁ~っ!本当、このE組にいたら退屈とは無縁でいられるな」
「お疲れ様です、イッキ君。お蔭で原さんを助けることができました。とはいえ、先生にもまだまだ奥の手はあったんですがね」
「だったら、さっさとその奥の手とやらを使えよな。あと、クソゴリラ。ナイス囮だったぞ」
「南。いい加減、そのクソゴリラって呼び方やめてくんねぇか?」
「いいじゃん、クソゴリラ。寺坂にピッタリな呼称でしょ。もしくはブタゴリラ?よし!俺も今度から寺坂のことブタゴリラって呼ばせて貰うわ」
「んだと、カルマ!てめぇ、今回金魚すくいのお椀みたいな役しかしてねぇ癖に偉そうにし過ぎだろ!!」


いつの間にかクソゴリラのいる所より少し高い岩場に降りて来ていたカルマとクソゴリラが口論を始めた。あっ!今、クソゴリラがカルマを水辺――というか川に突き落とした。


「ぷはぁ!お前、ブタゴリラの分際で何すんだよ!」
「てめぇこそ、何様だ!偉そうな態度取るなら、せめて南と同じ位のことしてみせろ!!」
「はぁ!んな人間離れしたこと、人に求めんなよ!!」
「「「「「「「「「「アハハハハハハハハ!」」」」」」」」」」


クソゴリラとカルマがじゃれ合い、それを見ているクラスの皆が笑っている。どうやら、今回の一件でクソゴリラが孤立するということは無さそうだな。

ってか、カルマの奴さり気に俺を人外扱いしやがった。しかも、誰もフォローしてくれないとか、流石の俺も凹むんだけど?…………まぁ、いいか。今回はクソゴリラもクラスに馴染んだってことで一件落着ってことにしておこう。


 
 

 
後書き
次話は律の義体を登場させるオリジナルの話でいきたいと思います。(笑)
(律をちゃんと期末に参加させる為にも!(笑)) 
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