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STEINS;GATE 罪滅恋愛のリペンタンス

作者:T.R
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永久滞在のアルファ

 
前書き
さて、続きです。 

 
 俺は、この選択の結果、ささやかな幸せと安らぎを得ることが出来た。
 痛々しい中二病を卒業し、勿体無いほどに素晴らしい恋人が出来て結婚し、一子をもうけられた。まゆりという代償を払い得た未来は、ささやかで罪深いけれど幸せだった。

「倫太郎さん、ご飯です」
「ふむ、もうそんな時間か……すぐに過ぎるものなのだな」

 時は2018年。選択から11年がたった夏のある日は、何の変哲もない。罪の意識を覚え続け、3人でいつまでも暮らす生活の一旦にすぎない。それでもいい。何にもなくていい。大事なものさえ消えなければそれでいい。
 俺は自室からリビングに降りていった。隣には、るかがいた。相変わらず容姿は衰えることなく、誰もが振り向くほどの美しさだ。胸も最近大きくなっていき、紅莉栖をついに越したそうだ。最も、まな板を越えたところで何の自慢にもならないが。
 リビングにつくとそこには一人の幼児がベビーベッドにてすぅすぅと寝ていた。とても可愛らしいが、どこか見覚えのある顔になっている。あどけなくて、アホの子っぽくて、それでいて天使のようで。

「全く、よく似たな……まゆりは」
「ええ、まゆりちゃんに、とってもよく似ていますね」

 幼児の名前はまゆり。無論、死んだまゆりから名前をつけた。俺たちにその資格はないかもしれないけれど、絶対にまゆりの死のことを忘れないために、そして、まゆりのように誰からも愛される、能天気な奴に育ってほしいために、その名をつけた。いつかは俺たちの過去を話さなくてはいけないだろうが、その時はまだ先だ。

「まだ寝かせておきましょうか」
「そうだな。さ、泣く前に食べてしまおう」
「はい、今日はそうめんです」

 るかは食卓に冷たそうめんを起き、特製の汁を二人分用意した。るか特製の汁はとても美味しく、一度遊びに来た近所の方が大絶賛していた。
 二人でいただきますをいい、そうめんをすする。ツルッとした感触と特製の汁のさっぱりとした味がマッチしていて、めちゃくちゃうまい。やっぱり俺には勿体無い妻だ。

「なあ、るか」
「何ですか?」
「昨日紅莉栖たちと女子会やったそうだな」
「はい、楽しかったですよ」
「皆元気そうだったか?」
「はい。牧瀬さんはアメリカに行っちゃいましたけど、いつかまた集まりたいって言ってました。フェイリスさんはもうじき結婚されるそうです。何でもどっかの大企業の息子さんとだそうです」
「あのフェイリスが? アイツはどうでもいい金持ちとかは相手にしそうにないのだがな」
「ステキな方らしいですよ。庶民っぽいんですって」
「確かにフェイリスには人を見る目がある。恐らく大丈夫だろうな」
「そうですね……でも、やっぱり倫太郎さんや橋田さんも来てほしかったです。3人だけっていうのは寂しいものですから……」
「……そうか、3人だな……。女子会だし、顔を出しづらいからな……」

 そう、現在のラボメンは5人だ。まゆりは死んだし、鈴羽は1975年に飛んでいってしまった。桐生萌郁はどこへ行ったかは知らないが、アイツは前の世界線でまゆりをさんざん殺してきたから知ったことじゃないし、もうラボメンに入れる気はない。俺も人のことは、言えた立場じゃないけれど。
 
「なあ、次に紅莉栖が帰ってくるのはいつなんだ?」
「分かりませんが、ボクに連絡をくれるらしいので……」

 ちゅるちゅるとそうめんを吸い上げながら俺はそうかと頷いた。不意に俺はニュースを見たくなり、テレビをつける。民間放送のMHKがちょうどお昼のニュースを発表していた。中学生の万引きや、政治家の賄賂、殺人事件とかそういった小さなニュースが弾丸のように流れるだけで、たいしたニュースはない。あるとしたら、アトラクトフィールド理論が発表され始めているということだろうか。
 アトラクトフィールド理論とは、世界線の収束の法則のことで、さんざん俺を苦しめてきた冷酷な理のこと。それが、つい最近に世間に知らしめられた。ここでも俺は因果律から外れたものとしての疎外感を感じる。世間の皆は時空を越えた経験はおろか、夢物語とすら思っている。俺も、こんな特殊な運命を背負いたくはなかった。
 しかし次第に俺とるかは、この世界に溶け込むことが出来た。因果から外れてしまったけれど、だんだんと戻ってきている気がする。娘が出来て、静かに楽しく生活が出来るという、ごく普通の暮らしをしているのだ。俺は、愚かな神の仮面を被る必要はなくなった。観測者ぶって世界線を移動することもなくなった。それでいい。タイムトラベルとかもうどうでもいい。ただ、平和に暮らせればそれでいい。

「んぅ……んん……、おんぎゃああああああああーーっ!!!!」

 飯を食っている最中に、ベビーベッドから盛大な泣き声が聞こえた。まゆりが起きて泣いてしまったのだろう。るかが率先して席を立ってあやそうとしたが俺が制した。

「え?」
「たまには俺がやるよ。いつも任せっぱなしじゃ申し訳ないからな」
「で、でもそんな……悪いですよ。それに……倫太郎さん、大丈夫なんですか?」
「俺を誰だと思っている。俺は狂気の……いや、なんでもない。大丈夫だよ」

 つい、かつての中二病の台詞が出てしまう。
 狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真。自分を偽り、まゆりのために演じ続けた愚かな道化の仮面だ。まゆりと小さな頃に見たアニメにて、高笑いをよくするマッドサイエンティストに憧れて俺が真似したんだ。
 でも、もうその仮面を被る意味はない。そう思うと自然に中二病は引けていき、普通の男になった。今思えば、よくもあんな恥ずかしい台詞を言えたものだな。
 
「さて、ちょっとなだめてくるよ」

 俺は席を立ち、ちいさなまゆりを抱える。少し勢いは収まったが、まだ泣いている。

「よしよし、いい子だからな……まゆり、泣き止んだらアンマンマンを一緒に見ような、だから、泣き止めよー」

 そう優しく耳元で言ってやる。すると、嘘のように泣くのをやめた。目先に何か面白いものがあるとぱっと元気になるのは、¨まゆり¨譲りかもしれない。言語はまだ分からないはずなのに面白い奴だ。
 まゆりをだっこしていると、ふと昔のことを思い出す。
 それは、8年前。未来ガジェット研究所という、ふざけたちいさなサークルが出来て間もない頃だ。まだラボメンが俺とまゆりだったある日のこと、まゆりが迷子をこのラボにつれてきた。年は4才くらい、母親とはぐれてしまったようだ。そこで母親が見つかるまでに俺たちが保護しようということになったが。
 なにしろ泣くのである。ママママとギャーギャーわめき、俺が泣き止ませようとしても無駄で(今から思えば、鳳凰院凶真モードで脅しまくったからますます泣いてしまったのだろうが)、大変だった。
 だけど、まゆりに抱き締められると不思議とその子は泣き止んだ。そしてまゆりの胸の中でぐっすりと寝てーー。

「っ……」

 いけない。またまゆりのことを思い出してしまった。俺はこの子を抱き締めると、いつもまゆりのことを思い出してしまう。悲しくなってきてしまう。目頭が熱くなり涙が溢れそうになるが、唇を噛んでこらえる。

「あぅ……ぅう……うぇ……」

 俺の腕の中にいる赤ん坊がじっと俺を見つめ、不安そうな表情を浮かべる。きっと俺は今、辛い顔をしているのだろう。俺は安心させるように作り笑いを浮かべた。

「ごめん……目にごみが入っただけだ。さ、ママのおっぱいでも飲もう」

 俺はるかにまゆりを手渡し、速やかに部屋を出た。るかが胸を出すから、そして、これ以上この場にいたら、泣かずにはいられなくなるから。

「倫太郎さん……やっぱり、まゆりちゃんのこと、忘れられないんですね……」

 るかの呟きが、俺の耳に届く。けれど、答えられない。逃げるようにして部屋のドアを開けて、二回の自分の部屋へと逃げ込んでいった。
 情けなくて、最低だ。自分の娘が、大事な幼馴染みに似ているからといって逃げるなんて父親失格だ。

「まゆり……俺は、どうしたらいい……どうしたら、俺は……。普通に生きられるんだ……」

 俺は天国にいる幼馴染みに声をかけた。それが決して許されないものであり、答えのないものだとしても。かけずにいられない。
 今度こそ、瞼にたまった涙が頬を伝った。嗚咽が漏れていき、その場に膝まづく。やっぱり諦めちゃいけなかったのだろうか。それとも、これが代償だというのか。まゆりを殺した罰として、永遠の贖罪では飽きたらないというのか。
 それが酷だとか、不満だとか、言う資格はない。でも、俺は怖かった。このまままゆりの死を受け入れられず、未だに引きずっているまま娘と生活したら、どうなるか。良好な関係など、有り得ない。まゆりだと思って接してしまうと、俺は泣いてしまう。抑えられなくなってしまう。
 俺は、深呼吸を繰り返す。落ち着こう。落ち着くんだ、俺。
 これは、俺が選んだ選択なんだ。だからこの選択の中で二度と過ちをおかさないようにしていけばいい。そして、罪を償い続ければいい。それだけの、たったそれだけの話だ。
 俺は涙をぬぐい、ドアを開けてるかの元へと戻った。るかの腕の中に抱かれているまゆりは、すぅすぅと静かに眠っていた。

 
 

 
後書き
さあ、どんな世界線が待ってるかな? 
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